第十六話 再会と白翼の呼び声
王都の学園の白い回廊に、陽光が差し込む午後のことだった。クラリスは廊下をとぼとぼと歩いていた。羞恥と疲労、そして無自覚な好感度の高騰により、内心はすでに限界に達していた。
そんな折、前方から聞こえた声に、クラリスの足は止まり、耳がぴくりと反応した。
「……クラリス?」
――イザーク団長の声だった。
その声を耳にした瞬間、堰を切ったように心が決壊し、次の瞬間にはクラリスは全力で駆け出していた。考えるより先に身体が動き、気がつけば目の前の彼の胸に飛び込んでいた。
「団長っ……!」
驚きつつもイザークは反射的に腕を広げ、クラリスをしっかりと受け止めた。
普通であればあり得ない行動だった。しかも人目のある学園の廊下で。それでも、再会の安堵と感情の爆発が彼女の行動を突き動かしていた。
「……心配させたな。無事に帰って来られた」
その低く穏やかな声に、クラリスの瞳から涙があふれた。気が緩み、張り詰めていた糸がぷつりと切れてしまったのだった。
「すみません……嬉しさのあまり、つい……でも、このままだと……団長様が誤解されてしまうのでは……」
「構わん」
「えっ……?」
「離したくない」
なんという破壊力。しかも真顔だ。クラリスは顔を赤らめてあたふたと視線を彷徨わせたが、助け舟が入った。
「団長、そろそろ……クラリス嬢が困っております」
静かな声が割って入る。副団長ロイドだった。彼の指摘に、ようやくイザークはしぶしぶ腕を解いた。
クラリスは乱れた制服を直し、深呼吸をしてから正面に立つ団長に礼を述べた。
「イザーク・ローヴェンハーツ魔法師団長様、無事のご帰還おめでとうございます。お怪我などはございませんか? 不測の事態など……」
問いかけるクラリスに、イザークはふっと笑みを浮かべて言った。
「クラリス嬢のお守りのお陰で、大事には至らなかった。あれがなければ、我々は王都には戻れなかったかもしれない。ありがとう、心から感謝する」
その言葉に、クラリスの目が大きく開いた。驚きと、安堵と、喜びとがいっぺんに押し寄せる。
「……本当に、良かった……」
ほっとした表情で呟いた彼女の瞳は、うっすらと潤んでいた。
しばらくして、イザークは少し言いにくそうに声を低めた。
「……それで、なんだが……クラリス嬢に会わせたい者がいる」
「? どなたでしょうか?」
「ホワイトグリフォンだ。遠征中に現れてな……実は、クラリスのお守りに反応したんだ。近づけたら額をすり寄せてきて、服従の構えを取った。あれは明らかに、あのお守りに惹かれていた」
「わたくしが……?」
クラリスは目を見開いた。思い返せば、あのお守りはただの気持ちだけではない。魔力と祈り、そして想いを込めて作った特別なものだった。もしかすると、それが魔獣の魂に何かしらの影響を及ぼしたのかもしれない。
「……今日が厄日じゃなかったら喜んで。でも……行きます、団長の願いですもの」
「ありがとう」
クラリスは小さく拳を握って気合いを入れる。その一連の姿を、イザークは目を細めて見つめていた。
「……やっぱり、面白い子だな」
「……またその言い方……」
そうして、クラリスとイザークは連れ立って魔法師団の厩舎へと歩き出した。
その先に待つのは、白き翼の魔獣との出会い。そして、新たな絆の始まりだった。




