〜相模の獅子〜 河越へ走れ!!!其ノ一
相模の獅子と恐れられる、北条兄弟が父、氏康。彼の名を天下に轟かせることとなる河越夜戦。
しかし、この河越夜戦も当時の北条家にとっては大きな危機だった。
これほどの兵を見て、伊勢(北条)の雑兵も腰を抜かしておろうな。
河越へ進軍中のこの男の名を、上杉憲政。関東管領として知られのちに河越夜戦と呼ばれるこの大戦を機に、越後の長尾景虎を頼ることになるとは誰が想像しただろう。
しかし、小倅にも驚かされますなぁ。まさか武田とも今川とも関係を悪くするとはまさに愚の骨頂。片腹痛いですな。上杉朝定が続ける。
天正15年1546年 関東管領上杉憲政は相模の北条が、今川、武田との関係を悪くしたのを見計らって、挙兵。北方面から北条領に進軍。北条家はここに未曾有の危機を迎えるのだった。
申し上げます。小野因幡守と共に足利晴氏様がお見えでございます。
そうか!そうか!これで憎き伊勢も終わりよ。
管領殿。お久しゅうござる。足利晴氏、北条氏綱の娘婿であった古河公方の当主である。
あまり顔色がよろしゅうないな。晴氏殿。よもや、裏切ってしまったなどと考えておられるか?案じることもないですぞ。此度は、関東の地を踏み躙り、民を苦しめてきた伊勢を成敗する義戦。我らに非はござらぬ。これほどの陣容なかなか見ることはできぬのぉ。
まもなく、河越が目に入るかと思われまする。
そうか、業正。大義である。
今ここに総勢8万とも伝わる大軍が着陣した...。
同じ頃、河越城内
能登守、兵はいかほどおる?綱成が尋ねる。
多くても三千ほどかと...。この戦厳しきものとなりましょう。いざとなれば、綱成様だけでもお逃げを。
何を馬鹿なことを言っている。地黄八幡背負って敵軍を前にして逃げろというのか?馬鹿にするのもよしてくれ。そんなくらいなら、討死のほうがましだ。それに戦はまだ始まってない。敵は朝方にも布陣し、攻め寄せるかもしれぬ。しかと備えておけ。
万事抜かりなく...。(なんと死線を前に微笑まれるか...)
其の晩...
こちらが氏康様からの書状にございまする。
小田原からの兵は時間がかかるそうだ。
左様でございますか...。籠城側の面々は落胆というよりも、絶望というべき悲壮感が漂う。
これより、明日の持ち場を決める。
(軍議後...)
綱成様、よろしいでしょうか?
ああ。師岡山城守が綱成を呼び止める。
某が思うに敵の布陣に違和感がございまする。北側に長野というのはいかがなものでしょう。匂いませぬか?
詳しく話せ。
この北に長野というのは............。
そうか。それで行こう。明日は頼んだぞ。
(翌日)
憲正様。全軍着陣し、いつでも攻撃できまする。
そうかぁ。しかし、これほどの陣容で攻める必要があるのか?敵の兵糧線は切ったのであろう?飢えて、幸福してくるの待てば良いではないかぁ?のぉ?
なりませぬ。
誰じゃ其方は?
某、上州箕輪城、城主業正が子の吉業にございまする。
そうか。若いのぉ。まだ十六と聞き及んでおるが。
其の通りにございまする。
して何故、城攻めをせよと?
恐れながら申し上まする。此度の戦い、管領様とっては一世一代の大決戦。万に一つも狂いは許されません。眼下の城はただの石。我らが目指すは、小田原のみにて...。
よくぞ申した。殊勝な心がけよ。やかろう、この戦の先陣其方にたくそう。小野因幡守をつけよう。
ありがたき幸せ。
では、各々配置へつけ。
父上、管領様より先陣を申し仕りました。
なにぃ?!戯けが!
父上何を申されるのです?光栄なことではありませぬか!
馬鹿を申せ。何故、多々なるお歴々を差し置いて、お主が引き受けた。戦さにおいての、不和はなんとしても避けなければならないもの。敵ばかりではなく、まず味方を見ぬか!ここはわしが管領様に詫びを入れ、先陣を他の重臣の方にしつとめt...。
其の必要はござらぬ。ご安心なされよ、業正殿。誰も反対しておられぬ。ましてや、若武者の意気に市が上がる一方で。それに、明日は私がそばに着きまする。ご安心なされよ。
お言葉ではござるが、この不肖の小倅には務まりようのない大仕事。ここはやはり他の方に...。
御二方。申し上げます。管領様より、先陣の若武者はまだかと催促が...。
では父上、景色のよく見える場から御眺望あれ。
(倅も倅ながら、小野のたわけもこまるのぉ。しかし、管領様の御指図とあっては曲げられぬか。)
父は私を赤子のように扱われるのです。世が世なれば、それで良いでしょうが今は戦国です。武功を立てて名を上げることこそが本望であると存じています。
あっぱれにござる。この因幡守、魂身ともに震えておりますぞ。貴方のお父上は、守ることには長けても、攻むることには疎い。しかし、吉業は攻めの将のようですな。
では、、、吉業殿。
全軍前進!!!
(昼過ぎ...城内)
申し上げます!東方、江田殿の奮戦で優位!
申し上げます!南方、お味方優勢にござりまする。
申し上げます!西方、拮抗しておりまする。
残るは、北の方か...。北の敵将には誰がいる?
物見によれば、長野業正かと...。
(よりにもよって長野か)して戦況は?
それが...。敵は敵は攻めてきてはいるのですが、、、ただ戦いを避けているのか、攻めては退いていまする。
おそらく、誘引だな。急ぎ北方の者どもに深追いはせず持ち場を死守せよと伝えよ。
吉業殿、城方なかなかの守備。一度休みましょうぞ。
いえ、退けませぬ。
何故?
敵勢はそこにおりますぞ。なにゆえ味方は近づこうとせぬのか!怖気付いたのか我ら長野の精兵は!
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よいか、決して倅を深追いさせるな。あやつは必ず猛進しようとする。しかしそれでは、兵をいたずらに失うだけじゃ。何よりも、一軍の将の重みをおやつは知らぬ。将を失えば、兵はただ退くのみ。長野兵の名にかけても、この戦負けるわけにいかぬ。
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日暮どき...。
敵方退いていきます!
全方面か?
そのようですな。
今日のところは凌いだわけか...。
殿、北の敵が分かりました。師岡山城守が言う。
業正ではないのか?それはそうでございますが...。兵を率いるはその子吉業。我らの目論見通り、一兵たりとも、奴についていくはずもなく。
して、昨夜の計略は?
万事手筈を整えてありまする。
其方の言い分では吉業めは夜襲をかけてくる。そうであったな?
無論。奴が、愚かなればなるほどそうなるかと。
では、夜襲に備え、そして奴を......。
よいな?
かしこまりました。
二人はにやりと微笑んだ...。




