少女、使い魔に出会う③
話が急展開に進む場合があります。ご容赦下さい。
私がそう言うと、龍はキョトンとしたような顔をして、数回瞬きをすると、私に向かってこう言った。
「何だ。使い魔契約の儀式とやらを知らんのか?こういうのは普通、それぞれの種族の学び舎とやらで小さい頃に習うものではないのか?」
「私には複雑な事情があって、習うことが出来ませんでした。なので、烏滸がましいですが、教えて下さい!」
「ふむ、まあ良いだろう。この儀式を『天使』にやるのは初めてだが」
「へ?」
「何を寝ぼけたような声を出している。其方が『天使』であるということはこの雲の中に入る前から気付いておったわ。龍族を侮るでない」
その後も私の目の前にいる龍は、長々と話を続けていたが、殆ど耳に入らなかった。何故かって?先程龍が言っていた、『天使』というキーワードが私の心の中で物凄く引っ掛かっていたからだ。そもそもの話、私には龍以外の種族がさっぱり分からない。龍という種族がいることは、小さい頃から何度も聞かされていた。けれど、その他の種族がいるなんて、思いも寄らなかった。″家庭の″事情で、小さい頃から、″何も″教わらなかったからだ。
と、そうこうしている内に、長ったらしい龍の話が終わったみたいだ。性別が分からなかったので、取り敢えず龍さんと呼ぶことにした。
「あの、龍さん、そろそろ使い魔契約の儀式について教えてほしいのですが」
「そうだったな! あまり客人を引き留めては我の気分を害する。手短に話そう。」
そう言って龍さんは咳払いを一つした後、話し始めた。
「使い魔契約の儀式は、本来であれば魔方陣という不思議な模様を地面に描いて、そこからこの世界に住まう我のような龍の子供や、神聖な動物を呼び出すという、少し複雑な手順を踏まねばならないし、気を付けなければならないことが幾つかあるのだが、今回は特別だ。」
「何が特別なんですか? 」
「お互いの血を一滴飲むことで、使い魔契約の儀が完了するというものだ。このやり方は、本来の儀式より簡単なのだが、一つだけ警告すべきことがある」
「それは、一体?」
「まあ、この話はお主を担当している学び舎の監査官、とやらが教えてくれるだろう。それでは、始めるとするか」
「はい!」
「ではまず、互いに手を出して、お互いの爪で指の腹を切る」
「ふむ」
「そしてお互いの爪に着いた血を舐める」
「あれ?リオちゃんの首にハートマークが」
「お主、それは言っては駄目だ。詳しいことは監査官から習え」
龍さんがそう言ったので、首に掛けている懐中時計を見ると、何と試験の残り時間が一時間を切っていた。
「あの、色々と教えて下さり、ありがとうございました。機会があれば、子供さんを連れてまた来ます」
「うむ。そういえば、お主、名を聞いていなかったな。何という名だ?」
「ミサと言います」
「良い名だ。我が子を頼んだぞ」
「はい!」
「良い返事だ。そして、リオ」
「何?」
「元気でな」
「ありがとう。お父さん」
「「それじや、行ってきます!」」
「気を付けるのだぞ」
そう言って私達は翼を広げて私、リオちゃんの順で飛び立った。そして乱気流の間を縫って、先程までいた雲から出たと同時に飛ぶスピードを上げた。
暫くして飛ぶスピードに馴れてくると、リオちゃんの手を握って一緒に飛ぶことにした。
だが、ふと彼女の手を見ると、私と同じ手に変わっていることに気付いて、彼女を見たら姿も容姿も人間と変わらないくらいになっている。しかもぷっくらした小さい唇に、大きなぱっちりとしたお目々、ふっくらとしたほっぺ、そのどれもが可愛らしい。
思わず彼女をまじまじと見ていると、私の視線に耐えかねてか、彼女がこう言った。
「私のこと、好きじゃないの?私の未来のお婿さん」
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