第八話 呪われている(男子高校生)
本棚の影から姿を現し、メイドに当たらないように一発、発砲。
その弾はそのままメイドの真横を素通りし、高級そうな壁を傷つけた。
焦げ臭い匂いが漂う。そして、俺が握っている銃口からは細い煙が上がっている。耳もキーンとなっていて使い物にならない。ただのハンドガンでもこの迫力だ。
俺の手は震えていた。日本人たるものやはり銃刀法が存在する以上銃を撃つ機会などそうそうない。だからこそ、この自分が撃った銃撃に恐怖を覚えた。
しかし、メイドはそこから反撃の魔法を俺に向けて繰り出した。俺はふと我に帰り、急いでその攻撃に対処する行動をする。
「フリッシセス様の手に……。そんなものを握らすな!」
メイドは巨大な火炎弾を放った。殺しにきてる。狙っている相手がフリッシセスの身体ということを忘れたか?
この火炎弾は大きいが、小さいのより比べてスピードが弱い。回避は容易に成功できた。俺は逃げることに専念し、迂回して出入り口を目指す。メイドは先ほどの射撃により判断力が鈍っているようで扉の守りが甘くなっていた。
俺は何とか書斎から逃げ出し、フリッシセスの部屋を目指す。後ろからはメイドの罵声が複数聞こえる。仲間を集めたのだろうか。
俺は銃で牽制する暇もなく一目散に逃げる。
魔法の発動音が後ろから響く。
「待ちなさい!」
「この侵略者め!」
聞き捨てならんことばかり後ろから聞こえてくる。
俺はとにかくフリッシセスの部屋に入り、急いでドアの鍵を閉めた。ドアはドンドンドン!という音が聞こえる。
「ふぅー。助かったぁー」
俺は安堵した。しかし、まだ終わってない。扉からはまるでゾンビが扉を叩いているような激しい打音が聞こえてくる。
俺はとりあえず紙を取り出してフリッシセスへメッセージを残した。
それを枕元に設置してベッドに入る。打音がうるさく落ち着かないが、俺は寝るしかなかった。
ドンドンドンドンドンドン!
ドンドンドンドンドンドン!
寝るの無理だろこれ。
そして、俺がこの世界から抜け出す前にフリッシセスの部屋の扉が焼かれ、俺は命の危機に瀕していた。
「死ね!王国の敵!」
寝ているフリッシセス(俺)にナイフを突きつけてきた。俺はそれを間一髪で避ける。そして、銃を構えて撃つ。
バァン!
しかし、弾丸は明後日の方向に飛んでいった。何故だ。それはすぐ気づいた。
銃がカチャカチャいってる。俺の手はあり得ないほど震えていた。
銃を持つことによる緊張、恐怖によるものだろうか。
「はぁ、はぁ、はぁ」
みるみるうちに心拍数が上がっていく。心臓の音がうるさい。そして、じきに過呼吸になった。
なんで……!さっきは撃てたのにっ!
「フリッシセス様の邪魔者め。フリッシセス様の自我を返せ」
「それは、お前の方もだろ……」
「!!」
俺はこの時、あることに気づいた。
彼女は乗っ取られている。
その形相、そして、感じられる悪魔の気がなんとなく感じとられ、俺はそう判断した。
しかし、もう遅い。俺は過呼吸になり、気を失いかけている。気を失ってしまえば、恐らく、ここからはフリッシセスに交代となるだろう。あとは彼女に委ねなければならない。
あとはフリッシセスを信じよう。このメイドを解放させてあげることを。
俺はその後、気を失った。