第三話 重要話題を後回し(男子高校生)
あれは夢ではなかったのだろうか。
俺はスマホの画面を確認した。確か、この部屋で最後に寝たのは6月15日のはず。
昨日は友達にスマ●ラの練習に付き合わされて疲れて、日付が変わる前に寝た。
スマホに表示されていた日付は6月17日だった。
「あれ、珍しいな。休日に早起きしてるなんて」
親父が俺の姿を見てそう言った。
「今日ってマジで土曜日か?」
「ああ、そうだぞ。あんまりゲームしすぎんなよ」
「ああ」
と流したが、俺は歩いていく親父を引き留めた。
「親父、昨日の俺ってどうだった?」
「ああ、そういや、ちょっと変だったな。言動がまるで『お姫様』だったな。なんかのアニメに影響でもされたのか?」
「ああ、そんなところ」
俺は咄嗟に誤魔化した。だってそうだろう。ここで「記憶がない」なんて言ったら……。
『お前、アニメの見過ぎであんな痛い台詞吐いて、しかも記憶障害だって!施設行きだ!』
『ぎええええーーーー!』
となるかもしれん。
当然施設行きは嫌だ。
俺が考え込んでいると電話がかかってきた。
「はーい」
『ちょっと!『アルカリ電池』さん!何やってんですか!もうすぐイベント始まりますよ!』
俺はこの電話の相手、ケンタロウさんが運営しているヲタクサークル『ヲタクよ話さないか?』に入っている。
このサークルにはゲームやアニメ、漫画などのサブカルが好きなヲタクが集まるサークルであり、ケンタロウさんにネットで出会って話が通じ合い、誘ってもらったのだ。
今はあるMMOのイベントを一緒にやろうとしているところだったのだ。ちなみに『アルカリ電池』は俺のネットでの名前である。
「やばい!やばい!」
俺は大慌てで放置して、金を稼いでたMMOを開始した。
「INしっぱなしで助かった……」
『ほんと危ないですね』
*****
「オルァ!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねええええええ!!!」
『うるさぁい!アルカリ!』
「ちょっと!俺はpH大きくねぇよ!」
『あれ?アルカリ君って理系だったっけ?』
「一年だからまだ文理選択してないけど、文系。一応」
『あれ?pHって高校の範囲じゃなかったっけ?』
「バリバリ中学の範囲だが……」
『え?』
「学がないねぇ」
そんな雑談をしながらも、正確なプレイをし、敵を虐殺していた。
そして、イベントの結果はランキング総合一位だった。
「いやーよかったよかった」
『X見てくださいよ。早速盛り上がってますよ』
ケンタロウがそう言ったので、Xを確認すると
『アルカリ電池とケンタロウコンビすげー』
というポスト。それに類似したポストが山ほどあった。
「わーすごいって……。こんなことしてる場合じゃない!ケンタロウさん聞いてよ!俺、異世界に行っちゃったんだよ!」
『雄二、どこの精神科行きたい?』
「お願いだから真面目に聞いてくれ!」
俺は必死で言った。
『いきなりそんなこと言われて、真面目に聞けと言われても……』
ごもっとも。
そこで俺はフリッシセス プリュシレランスという名が書いてある置き手紙を思い出した。
「朝起きてたら手紙が置いてあったんですよ。写真送りますね」
『字、綺麗だね。絶対にアルカリの字ではない』
「なんか失礼ですけどそうでしょう?」
ようやく信じてくれるか。と思ったが。
『凝ってるなー。誰か他の人に書いてもらっちゃて』
「は?」
どうやら、俺がケンタロウさんに仕掛けるドッキリという解釈になってしまっているらしい。
『これ、女の字だな。あれ?アルカリに女の知り合い居たっけ?』
「居ますよ!みどそんさんとかナマケモノさんとか!(サークルの人の名前)」
『ナマケモノさんは関西住まいだからそんなの書けないでしょ。みどそんさんは忙しいし』
「あれ?みどそんさんって忙しいんですか?」
『そうだよ。アクセサリーメーカーの社長だよ。忙しいに決まってる』
「じゃあ、なんで前の冬コミの時、ふうりんさんとみるこさん泊めれたんですか。なの二人も結構みどそんさん暇そうとか言ってたし」
『あれ?そんなこと言ってた?』
「確か……」
その後雑談が続き、電話を切った。
「ふー。楽しかったな」
……。
……。
いや、ケンタロウさん説得するの忘れてた。