第十一話 精神を壊す魔法
人の精神を扱う魔法の習得は超高難易度である。魔術の超実力者でもそれは例外ではないのだ。王家プリュシレランス家はかなり魔力において強いことで有名だ。それでも人の精神を取り扱う魔法。いわゆる精神魔法を生涯の中で一つでも習得した者は少数である。
そんな中、魔術の天才と言われたフリッシセスは年が五つのうちに一つ、精神魔法を習得した。その魔法の名は『人の精神を壊す魔法』。目標の相手の精神を破壊し、廃人化してしまう恐ろしい魔法だ。
恐ろしいながらもそう簡単には習得できない魔法。フリッシセスは感覚のみでこれを習得してしまったのだ。
そして、今、恩があるエリカの身体が何者かによって乗っ取られている。フリッシセスは考えた。今のエリカの精神を破壊すれば、うまく今乗っ取っているモノだけを破壊することができて、エリカの自我を取り戻せるのではないか。
正直言ってこれは賭けだ。安全性と言ったら、今、エリカの精神を持っている個体を探したほうが遥かに上だ。しかし、フリッシセスは行ける気がした。それに加え彼女は脳筋だ。だから、今の彼女の選択肢に後者は存在しない。
「真正面からぶつかってやる!!」
彼女は突撃した。
エリカはフリッシセスに飛魔法を放ち、食い止めた。
フリッシセスが『人の精神を壊す魔法』を使うためには自らの手を相手の頭にかざさなければならない、超至近距離まで近づく必要がある。
エリカまであと20メートル
まだ体力としては余裕がある。多少、魔法で牽制もする。しかし、多少魔力は残しておかなければ。
エリカまであと15メートル
近づいてきてるが、まだ遠い……。エリカはその場から全く動かない。私の作戦を読み切っていないのだろうか。
エリカまであと10メートル
魔力の余裕がなくなってきて、魔法での牽制を中断。エリカの攻撃が近い。怖い。
エリカまであと5メートル
いよいよだ。いよいよ決め切れる。
エリカまであと4メートル
体感、スローモーションに感じる。私は腕を引き上げ、エリカの額に当てる準備をする。
エリカまであと3メートル
近すぎて、エリカが飛魔法を放つことは既に不可能だ。
エリカまであと2メートル
あと少し。
エリカまであと1メートル
ついた。
私は魔力を爆発させ、彼女の精神を食らった。
魔法発動の瞬間、強い光が放たれた後、黒雲が立ち上った。
魔法発動二秒後、現エリカ精神破壊を感じた。なるほど、対人で使ったのはこれが初めてだが、こんな感じなのか。
対人では使ったことないのに何で習得したって分かるの?と疑問を抱く人が多数存在すると思うが、今はそれを説明している場合ではないから、あまり気にしないでほしい。
精神破壊が完了し、エリカは倒れた。彼女の精神は現在はない。恐らくまだ彼女はアイツの元の体内にいるのであろう。私はとりあえずメイドを呼んだ。
「エリカを部屋まで運んでおいてちょうだい」
「あれ、エリカさんなんでこんなところで寝ていらっしゃっているのですか?」
「この間抜けはある人に精神を乗っ取られてたのよ。多分、私に攻撃を加えたから少し処分は出るでしょうけど大丈夫よね」
*****
また、入れ替わりか。
あれから、フリッシセスはどう対応したのだろうか。とても興味深い。
屋敷特有のいい匂いを感じ、目を開けると、あのメイドさんが目の前にいた。
「ひっ!」
この反応は当然だ。俺はコイツを敵という認識で見ているのだから。
俺は枕元に何故かあるあの銃を握り、握り構えた。
「……。手が震えてますよ」
何故だ、引き金が引けない。とてつもなく重い。
「怯えないでください。フリッシセス様の入れ替わり相手さん。フリッシセス様からあなたのことは聞いております。とりあえず、その武器を下げてはくれませんか?」
お待たせしました……。