緊張の初夜?
(あのお二人と陛下を巡って毒殺合戦とかそういう展開にならない事を祈るわ)
突然変な妄想をした。
実は私の趣味の一つは恋愛小説を読む事なのである。
その手の場面が出てくることもままあるので毒されすぎなのかもしれない。
(お二人とは出来れば仲良く過ごしたいわね)
来ておいて今更こんな事を心配するのもおかしいが私は人間不信ぎみだ。
人の感情の裏を今まで以上に気にする様になっている。
10年付き合ってきた幼馴染の婚約者にすらあんな仕打ちを受けたのだ。
やむを得ないと思う。
陛下は執務が終わると私の所に来て下さって一緒に離宮で夕食を頂いた。
しかしせっかくの豪勢な食事も二人の側妃との面会とこの後の陛下との事を考えてあまり食が進まなかった。
給仕達にも気を遣わせてしまう。内心少し恐縮した。
(侍女といっても王宮の場合、貴族籍の者が珍しくないしね……)
家格でいえばいわゆる子爵・男爵の下級貴族の第二息女以下が多い。
私も長女じゃなかったら王族と接する場合せいぜいそちら側だ。
そして貴族なら当然、王立学園を卒業している。
つまり全員ではないが私としては学園の先輩達に給仕をされている訳だ。
食事後、しばらくして陛下は席を外した。
私は侍女達に手伝ってもらって湯あみをして身支度を整えて陛下を待つ。
寝室へ来た陛下は私を一目見ると近づく前にベッドの傍のソファに腰を掛けた。
そして私にも座る事を勧めてきた。小さいテーブルを挟んだ向かい側だ。
云われるがまま腰を下ろすと陛下は信じられない一言を私に告げた。
「其方に話さねばならぬ事がまずある」
「はい」
「私は其方を抱くつもりはない。今は」
「え……?」
いきなりの陛下の宣言に私は凍り付く。
どういう事なのか全く理解できない。
「正直に言えば娘の様な年齢の其方を相手にする考えがないというだけだ。
別に其方に魅力が無いという訳では無い」
「……」
「其方には王太子の相手をしてもらいたい」
「!?」
「ああ、すまぬ。別にそういう意味で言った訳では無い。
其方は王立学園を卒業したばかり。そして丁度王太子は今年から入学した。
だから年が近い王族としてあ奴の学園生活を支えて欲しいという事だ」
驚く私に対して陛下はすぐに理由を告げた。
王太子のエルヴィン殿下は確か15歳で今年王立学園に入学した筈だ。
何でここで王太子の話題がと思いつつ言葉をどうにか返す。
「……はい。仰せの通りに」
(今更世話を焼く様な年齢では無いと思うけど)
「其方も知っての通り王族は分かりやすい形で示さなければならん。
人の上に立つにふさわしい能力を持つという事をな」
「それが私の側妃としての仕事という訳ですか?」
「差し当たってはそうだ」
「……」
側妃として王宮に来てまさかこんな話を聞くとは思わなかった。
私という女はとことん男性から軽んじられる運命なのだろうか。
怒りと混乱と失望がないまぜになった気分になったがどうにか思考を巡らせた。
女性からこんな事を聞くのははしたないけれどはっきりと聞く必要がある。
「……あの、何というか、では私が陛下の御情けを頂く事は出来ないのでしょうか」
「そうして欲しいか?」
「……」
もちろんです、と反射的に答えられなかった。
正直に言えばそういう気持ちは無く、側妃として嫁いだ義務感だけしかない。
国王という存在に対する敬愛の情は有るけれども。
(だけど、そういう問題じゃないわ!)
私は一応望まれた上で王家に嫁いできたはずだ。
側妃であるのに陛下の手もつかないとなればそれはそれでありえない話だろう。
勿論、国王の寝所での真実は外部に漏れず私達にしかわからないけれども。
「その、勿論です」
「はは。よい、無理はせずとも。そもそも其方はこの間まで別の相手が居たのだ。
別の男に気持ちが動くにはまだ早かろう。其方とはかなり年も離れているしな」
「いえ、私は」
「この間まで学生だった其方にはもう少し時間を与えたいと思う。
せっかく失った面目が戻った所でもあるし」
「……もしやと思っておりましたが、やはり陛下はそこに気をつかて下さったのですか?」
「無論だ、スヴェンは私の縁者だからな。その男に無碍にされた令嬢を放ってはおけなかろう?」
(つまり、陛下はそこそこ近い身内の男に捨てられて惨めな思いをしている令嬢に気を遣ってくれたの?)
薄々その可能性を考えて無くはなかったが道理で縁もゆかりも接点もない私をいきなり指定した訳だ。
しかしそんな弱い理由だけで側妃にするなんて絶対あり得ない。
(本当の理由を聞こう)
正直初夜だの何だのはもうどうでもよくなっていた。
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