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番外編 代替わりの機会

「ベティーナ様、よくお出来になりました。流石ですね」


「はい。ありがとうございます、コンラート先生」



 第二側妃の長女、ベティーナ王女は少し顔を赤らめて答えた。

年少向けから授業内容が切り替わり教師陣も代わった今、この勉強時間は彼女にとって貴重な時間となっていた。

内心、二歳年長の姉も一緒なのが残念だけれども。


 貴族は王立学園に入学するまでは各家庭で家庭教師を雇って学習をしている。

それは王族も同じでその教師陣の一人がコンラートである。


 かつて王立学園生徒会長の一人だった彼は卒業後も当然将来を嘱望された。

実際、今では王国魔道研究所で最も期待されている優秀な研究員である。

にもかかわらず週二日の決まった時間だけ年長の王女達の教師も務めている。

選りすぐりの優秀な教師陣を雇える王族の特権だった。


 あっという間に充実した時間は終わったけどまだ時間は取れるはずだ。

そう思ってベティーナは授業の後にコンラートと雑談するのを楽しみにしていた。

しかし、その時間は今回は儚く消えた。

部屋の扉が開いて王太子である兄が顔を出したからだった。



「失礼。やあ、久しぶりだね」


「おや殿下。珍しいですね、お久しぶりです」


「丁度手が空いたら偶々君が来ている日だと思い出したのでね。

授業は終わったのだろう? 少し話さないか?」


「次期国王陛下直々のお誘いは光栄ですね。ぜひ」


「よしてくださいよ。先輩」



 エルヴィンにとってコンラートは学園での先輩だ。

生徒会でも付き合いがあった。

卒業後も年齢や立場を越えた友人として付き合いがある。



「ではロッテ様、ベティーナ様。失礼致します。また来週宜しくお願い致します」



 二人の王女に礼をしてコンラートは姿を消した。

扉が閉まった途端、ベティーナは露骨に残念そうな表情をして肩を落とした。

その様子を見てロッテは声を掛ける。



「ベティ? 分かっていると思うけど、コンラート先生は奥様がいらっしゃるのよ?」


「そんなの分かっていますわ、お姉様。

今の授業で分からなかった事を質問しそびれたから残念に思っただけです」


「なら、いいんだけどね」



 そう云ってロッテは肩を竦めた。

この王宮は自分も含めて女性が多い上に一般男性との接触の機会が少ない。

無理もない気がするが一回り以上違う既婚男性に憧れるのはどうかと思う。


 王立学園入学近い年齢にもなるとそれなりに徐々に世界が広がってくる。

いずれ王立学園に行けば文学少女の気がある妹と気が合いそうな研究者タイプの男性もいるだろう。

ロッテは姉妹の最年長者として妹の事を内心で気遣った。



(私も早く王立学園に入学してお兄様の様な人と巡り合いたいわ)



 現実的に見えて妹以上に現実的ではないロッテであった。






 

「奥様はお元気?」


「はい、妃殿下。おかげ様を持ちまして」



 コンラートはアニエス王太子妃にそう答えた。



「堅苦しい云い方はしないでいいわ。ここには三人しかいないんだし」


「では、お言葉に甘えます。アニエス先輩。そしてエルヴィン殿下。

改めまして第二王子殿下のご誕生をお祝い申し上げます」


「ありがとう。そちらもそろそろと聞いているけど」


「ええ、予定ではその筈なんですが」



 コンラートの妻はかつてエルヴィンの婚約者になりかけたラウラである。

しかし王太子妃に内定する寸前にその話は消えた。

王室の身内になる当ての外れた侯爵であったが、娘の為に迅速に動いた。

そして身分はエルヴィンに劣るが将来性豊かな男子を確保した訳であった。



「私が妻と結婚できたのはお二人のご結婚あっての事ですからね。

お二人には頭が上がりません」


「そのおかげで妹達の為に優秀なあなたが来てくれた訳だな」



 そう云ってエルヴィンは笑った。アニエスとコンラートも笑う。



「まあ、冗談はともかく先輩とラウラ嬢はとてもお似合いだと思います。

私が言う筋合いではないのかもしれないが」


「そうね。私達にとってもありがたいわ。私達の子の未来の側近候補が出来るのだから」


「恐縮です。気が早いですがいずれはその御期待に沿える様に育てたいと思います」



 先日、王太子に第二王子が誕生した事はこの国にとって色々な大きな意味を持っていた。

もちろんアニエス自身にもエルヴィン自身にもである。


 この王国では国王本人が望み、議会で承認されれば王位を継承することが出来る。

そして王太子の第二子誕生をきっかけとしてエルヴィンの父である現国王が代替わりする決意を示したのだった。

エルヴィン王太子が即位する時期が近づいていた。

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