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後宮入りと側妃との初顔合わせ

 側妃になるにあたって嫁ぐ側がする事は特になかった。

国王陛下に指名されて嫁ぐ側なので王宮が手配した手続きに従って登城するだけだ。

事前に用意されたドレスを着てから王室専用の馬車に乗って伯爵邸を出発した私は、お昼すぎに入城した。


 ちなみに側妃が嫁いだからと云って別にパレードなどは全くない。

三人目の側妃だから正妻である王妃の場合とは大違いである。

尤も、大々的にお祝いされるよりもこちらの方が今の私の心境的にはありがたい。



(貴族間の結婚よりもかえって楽だったかもしれないわ)



 事前に交わした書類の通り、この入城をもって私はめでたく?本日王籍になった。

王城には父に連れられて子供の頃から何回か来た事がある。

だが後宮と呼ばれるエリアに足を踏み入れるのは勿論今日が初めてだ。

自分は側妃になったのだと身が引き締まる思いがする。

  

 側室を娶る度に建物を増設する訳では無いので側妃は全員が同じ建物に居た。

と云っても、もちろん建物自体は豪華で充分に大きい。

普段使われていない場所をいくつかのエリアに区切りそれぞれ内装を整えて側妃を迎えているらしい。

割り当てられたエリアに落ち着いた私に早々に呼び出しがかかった。



「こちらでございます、アニエス様」



 先程紹介を受けた側付き侍女に案内されて私は急いで王宮の空中庭園に向かう。

地上宜しく綺麗に手入れされた空中庭園の植栽に囲まれた所に豪奢な東屋があった。

そこの円形テーブルに既に国王陛下達が着席していた。

新参者の私が一番後に来た形だけど呼ばれて来たのでそこを気にする必要はない。

気にするのはそこに居る面々だ。



(……来て早々、この組み合わせはきついわ)



 今、私の目の前には国王陛下と側妃殿下二人が居た。

どうやら後宮入り初日の内に陛下が顔合わせと称してお二人を呼んだらしい。

胸の豊かな金髪の方がヒルデガルド第一側妃殿下。侯爵家出身。

落ち着いた感じの銀髪の方がエレオノーラ第二側妃殿下。同じく侯爵家出身。



(負けていないのは今着ている陛下から送られたドレスくらいかな……)



 第三側妃の私は家格も年齢も胸の大きさも二人に劣る。

色々な意味で気おされながらこのお茶会に挑む事になった。



「其方達は顔を合わせる事もあるだろうからこの席を設けた。

アニエス、其方は二人の顔は知っておろう」


「はい、もちろんです。アニエスと申します。どうか宜しくお願い致します」



 私はヒルデガルド様とエレオノーラ様に挨拶をした。

新参者の私としては頭を下げて礼儀を尽くすしか出来ない。

格下に対する余裕もあるのか表面上お二方は穏やかに挨拶を返してくれた。



「可愛いお方だこと。宜しくね」


「お若いわね。おいくつだったかしら?」


「今度19になります」



 知らない筈は無いだろうがエレオノーラ様からそう聞かれた。

気のせいか二人の視線が痛い。側妃二人共20代半ばの筈だ。

まだ妃としては充分に若い筈なのに陛下はさらに若い娘を連れて来た。

自然と風当たりも強くなるだろう。


 王妃殿下がお亡くなりになってから大分経つけれど陛下はお二人のどちらも正妃にしていない。

つまり私を含めて三人は一応立場上同格なのである。

嫌が応にも競争心が煽られる気がする。



(来ておいてなんだけど、私がいるのは場違いと云う気がするわ……)



 今まで自分の容姿にそれほど劣等感を抱いた事は無かった。

しかし、この二人には素直に敗北を認める。

私とは比べ物にならないくらい成熟した大人の色気が溢れ出た美しさだった。



(間近で見てもとても美しいわ、お二人共)



 素直にそう思った。

着飾った外見だけでなく二人共意志の強さから来る目の輝きと雰囲気も違う。

急に自分がちんちくりんの子供に思えてきた。

少し自虐的になっている所にヒルデガルド様が口を開く。



「私は知っているわ。確か王立学園では生徒会長を務めたのですって?」


「は、はい」


「まあ、女性なのに? 優秀なのね」


「……恐縮です。たまたまです」


「ご謙遜ね。その優秀さがお目にとどまったのかしら、陛下?」



 エレオノーラ様の遠回しの嫌味だろうか。

女性で王立学園の生徒会長になったのは確かに学園の歴史上少ない。

しかしそれは偶々王族や上位貴族の令息が同学年にほぼいなかった事も大きかった。



「……かもしれぬな。二人共見知っておいてくれ」


「かしこまりました陛下」


「勿論ですわ、陛下」



 その後陛下が間に入って私と側妃達との会話が始まった。

私については既に色々調査済みだろうけど二人ともそんな事はおくびにも出さない。



「貴方の事を色々聞かせて欲しいわ」


「王立学園ではどんな感じだったのかしら、私が在籍していた時は……」



 主に二人の側妃から話題を振られて私は短く丁寧に返答する事に専念した。

何気ない質問に紛れて時折若干鋭い言い方をされている気がする。


 ひたすら喋っている事と緊張感から喉が渇いてくる。

下の事に気を払いつつ侍女が淹れ直す紅茶を戴きながら話し続けた。

膀胱が限界値を超える前に何とか気を遣うお茶会は終わった。



(いきなりだったけど、なんとか終わったわ)



 自室に戻った私は一息ついた。 

しかし私にとって今日はもう一つの山場がある。

新婚につきものの初夜であった。

お読み頂きありがとうございます。

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