尽きない疑問
側妃とは公妾などとはもちろん立場がまるで違う。一応正式な国王の妻である。
社会的に救われた事は喜ぶべきだが本当は簡単にそんな気持ちにはなれなかった。
充分傷ついた後で名誉な話が来たからと云って簡単に切り替えられる程、私は現金な性格ではない。
寝付けないままベッドの中で悶々とした時間を過ごした。
(側妃ってこんなに突然に、簡単に決まるものなのね)
ある日いきなり何の前触れもなく王様から結婚を申し込まれる。
事前にそれらしい予兆も前触れも何もない。
詐欺の様に思えるけど実際私がそうなのだからそういうものなのだろう。
父が直々に国王陛下から要請を受けたのだから間違いない。
だが今更ながら疑問が泉の様に湧いてくる。
(妃教育なんて全く受けていないけどいいのかしら……?)
側妃だからだろうか。
もしかしたら正妻である王妃と違って側妃はその点が重視されないのかもしれない。
極端な言い方をすれば側妃の存在意義とは王妃が子を産めない場合の跡継ぎづくりか側妃という名の愛人にすぎない。
なぜなら政務や外交などに関しては王の伴侶は一人居れば十分な筈だからだ。
(我ながら大分冷めた考え方をする様になったわね)
正妻である王妃を病で失った今の国王には側妃が既に二人いる。
私で三人目の側妃だ。所謂、後宮での争いも恐らくあるだろう。
お父様やお母様が心配していた点の一つだ。
(なんで私なんだろう)
お父様も当然、その事は聞いたらしい。
国王陛下の返答はお父様曰く、『相応しいと思ったから』だそうだ。
もっと具体的に言って欲しい。
しかし主君にそれしか言われなかったら臣下としては何も言えなかったらしい。
私は由緒正しい伯爵家の娘だから身元ははっきりしている。
王立学園時代の学業成績や立ち振る舞いも全て学園に問い合わせて確認済みだろう。
しかし学業成績が良くて若い娘というだけなら候補は他にもいるはずだ。
私である理由はわからない。
だけど国王陛下が新たに側妃を求める件については少し思い至る処がある。
体があまり丈夫でなかった王妃は現王太子を産んで亡くなっていた。
王妃を愛していた国王は周囲の声に押されて止む無く二人の側妃を迎えた。
第二王子をもうける為に。
問題はそこから先だ。
側妃二人共、子供を二人ずつもうけたのだが全員女の子だったのだ。
下品な云い方になるけどもしかしたら陛下は畑を変えるつもりなのかもしれない。
いずれにしろ私の純潔は国王陛下に捧げられる事に決まった訳だった。
王国の臣下としては光栄というべきなのだろう。
もう男性に愛なんて幻想を求めないと思っている私にはふさわしい婚姻かもしれない。
(このタイミングだったのはどういう訳?)
スヴェンに婚約破棄をされてさほど間を置かずにこの話が来た。
一令嬢の婚約破棄なんか大々的に公表される事では無いから人の噂に上がるにはまだ早い。
陛下が前々から私を側妃として見染めていたとも思えない。
(もしかしたらスヴェンの実家の公爵家から何か話が行ったのかしら)
何と云っても公爵家だ。
王室とはそれなりにつながりはある。
(息子が婚約者を捨てたから陛下の側妃にどうですか、と薦めたとか? ……まさかね)
いくらなんでもそれはないか。
あり得ないくらい陛下に対して失礼な事を考えてから否定した。
臣下が王家にそんな提案をするはずもない。
色々と思いつく疑問に私なりに推測したが結局詳しい事はわからない。
(まぁ、いずれ詳しい事は分かるわね。王宮に行けば……)
そうは思ったものの結局この日は明け方まで寝付くことは出来なかった。