証拠ならあります
私は正直に全てを話す事に決めた。
万が一この事が外部に洩れたら陛下の信頼と私の立場を大きく損ねる事になる。
人を疑わないお人よしも過ぎる馬鹿な行為かもしれない。
私達が話したから自分も話せという流れを作られていたのかもしれない。
でも、今までの会話で決して意地が悪い方達ではないと感じたのでそう決めた。
私はこのお二方と腹を探り合う関係になりたくないと思ったから。
侍女達に全て席を外させてから口を開く。
「ヒルデガルド様、エレオノーラ様……。実は陛下と私は未だ白い関係なのです」
「「!?」」
驚くお二人に私は事の経緯を全て話した。陛下が私を側妃にした三つの理由を。
私自身の婚約破棄の事から今に至るまで起こった状況の変化。
そして第二王子の誕生を臣下に求められている陛下の立場。王太子について陛下が案じている事、全てを。
聞いてからお二人共少し考え込む様に固まっていた。
間を置いてエレオノーラ様が口を開く。
「では、貴方は学園に在籍中の頃から私達の知らない所で陛下と関係をずっと築いていたという訳ではないの?」
「え?」
「陛下は学園行事で来賓として顔を出す事もあるから生徒会長だった貴方なら接点もあったのではなくて?」
「無いですわ、そんな事。確かに挨拶くらいはしていましたけど……」
「白い関係と云うのも信じられないわ。成人の男女が何度も寝所を共にしているのに一度も関係が無いなどありえないでしょう」
(当然そう思いますよね……)
確かに普通は信じられないだろう。
私も別の人からそう云われても正直信じる事は難しい。
「そう云われても、本当の事なんです」
「貴方がそう云おうとそんな事、証明できないでしょう?
陛下がいつまでもヒルダを正妃にしないのは何か理由がある筈よ」
「ちょっと、ノーラ……止めなさい」
エレオノーラ様の私を追い詰める様な口調をヒルデガルド様が諫める。
私が陰ながら陛下に愛されていて側妃にされたと思っているのかもしれない。
その言葉でエレオノーラ様の御心がより深く理解できた。
エレオノーラ様はヒルデガルド様が蔑ろにされるのを嫌っているのだ。
自主的に側妃の仕事について調べていて気が付いた事がある。
お二人の公務の割り振りについてだ。
どちらかと云うとヒルデガルド様が主でエレオノーラ様は補佐的な役割の仕事が多い様に感じられた。
単純に第一・第二の側妃の肩書ゆえかと深く考えてはいなかったが恐らく違う。
エレオノーラ様は常に自ら一歩引いて恩義があり一番の親友であるヒルデガルド様を立てているのだろう。
(何かいじらしい気がしてきたわ……)
10歳近く年上の方にそんな事を思うのは不適切だけど何となくそういう気持ちになった。
だから、つい口にしてしまった。我ながら人前で言う事じゃないと思いつつ。
「その……客観的証拠ならあります」
「え?」
「証拠?」
お二人が意外そうに目を見開いた。
実際に証明しようもないと思っていたからだろう。
「……何だというの」
「私が男性を……陛下を受け入れたかどうかはこちらをご確認頂ければわかります」
「「!」」
私が自分の下腹部を指さしたのを見てお二人とも絶句した。
「お二方の信頼する侍女にでも確認させて頂ければいい事です。
もちろん直接ご確認いただいても結構です。宜しければ、ですが……」
「「……」」
「王族として、女性として……あり得ない程はしたない事を口にしている自覚はあります。
でも私は正直に話しておりますから。
言葉だけでは信じられないならこうするのが一番分かりやすいでしょう」
「……吐いた言葉は取り消せなくてよ」
エレオノーラ様はそう云ったものの、その言葉には棘は無かった。
「ノーラ……」
「わかっているわよ」
エレオノーラ様はヒルデガルド様にそう云うと私に頭を下げた。
今度は私が目を丸くして驚いた。
「ごめんなさいね。貴方は私の問いにずっと正直に話してくれていた。そんな義務なんてないのに……。
それなのに私は一人の淑女として恥ずかしい事を貴方に口にさせてしまったわ」
「私からも謝罪します。ノーラがあんな言い方をするのは私を気遣ってくれているからなのよ。
そんな事まで口にさせてしまって本当に申し訳なかったわ」
「いえ、そんな! お二人共御顔をお上げ下さい!
私こそ信じて頂きたいからと本当にとんでもない事を言ってしまって……」
私は慌ててそう言ってお二人に頭を上げてもらう。
すまなそうな顔でエレオノーラ様が云う。
「貴方は別に他意も無く王室の事情に巻き込まれただけなのね。
そもそも私達が王子を産めなかった事が悪いのに……。
たとえいずれ貴方が王子を産んだとしてもその事で私が何か思うのは筋違いだわ」
「アニエス様、これからは私達もエルヴィンの件に関して協力させてもらいます。
同じ立場の側妃としてこれから仲良くして頂きたいわ」
「ありがとうございます! こちらこそ改めて宜しくお願い致します」