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女子会

「お言葉に甘えて参りました」


「ようこそ、アニエス様」



 にっこり笑って出迎えてくれたヒルデガルド妃の後宮に足を踏み入れて、私は少し身構えた。

エレオノーラ妃もそこに同席していたからだ。

初顔合わせの時に彼女から私に対して若干構える様な雰囲気を感じた事を思い出す。

もちろん同席する事は予想していたので態度には出さず笑顔で挨拶を続けた。

侍女に持たせた手土産のお菓子は子供達の分も合わせて多めに用意させている。



「エレオノーラ様、ご無沙汰しておりました」


「お久しぶりね」



 そう云って微笑むエレオノーラ様はまるで小説に出て来る聖女の様に見えた。

彫刻の様に美しい美貌に加えて黙っていると何とも神秘的な雰囲気がある。

対して、ここの主のヒルデガルド様は表面上から親しみやすい様な温かさを感じる。

無論、美貌では負けてはいないけど何というか健康的な溌溂とした雰囲気だ。



(以前にも思ったけど太陽と月の様に対照的なイメージの方達ね……)



 当然の様に後宮の主次第で内装や飾り付けも変わる。

ここの主のヒルデガルド様の趣味なのか、内装は明るい暖色系だけど決してうるさい感じはなく品良くまとめられていた。

まだまだそっけない私のエリアの内装と違って興味深い。


 無論、どう受け取るか分からないので本人達にそういう感想は言うつもりは無い。

それぞれの後宮には南側に面した大きいテラスが存在する。

そこに三人の席が設けられていた。



「側妃達だけでこうして会うのは初めてね」


「というよりアニエス様の後宮入り以来、会うのもまだ2回目よ」


「そうね。娘を通じて会っている気になっていたのかも」


「どう? 今の生活に慣れたかしら?」


「いえ、まだまだです。今日まであっという間でした、正直……」



 私はお出しいただいた紅茶を一口頂いて正直な感想べた。

侍女達はその間サイドテーブルで紅茶やお菓子の準備を滞りなく進めていた。

ヒルデガルド様が用意した菓子などにエレオノーラ様と私の物が加わってまるで高級菓子の品評会だ。

甘味に目が無い乙女としてはどれを選ぶのか迷う。



「……そういえばお姫様達はどちらへ?」


「皆、別の場所で侍女達に見て貰っているわ。うふふ、今日は子供達も陛下も抜きの女子会ね」


「女子会って……ヒルダ、あなたもうそんな年齢じゃないでしょうに」


「いいのよ、ノーラ。私が年だと云うのならあなたもそういう事になるわよ。

それでいいの?」


「……良くないわ」


「でしょう?」



 その後、お二人は私に配慮してくれながら話の輪を広げた。

私の緊張もいい感じで消えて事前の予想よりも楽しく会話も弾んだ。

会話の内容や雰囲気からお二人の仲がかなり良いという事も知った。

要するにこの美女達は子供の頃から仲の良い幼馴染らしい。

恋愛小説の影響で側妃同士の仲が悪いと決めつけていた印象も修正される。



「……それで、元々はこの娘一人が側妃に指名されたのよ? そうしたらこの娘が嫌がってね」


「嫌がっていないわ、別に。条件を付けただけでしょう」


「その条件とは何だったのですか?」


「私も側妃に指名しろという事よ」


「ええっ!?」



 心底驚く私を見てヒルデガルド様がからから朗らかに笑った。

エレオノーラ様の話は続く。



「その当時私にはちょっと困った婚約者が居てね……」


「困っていたのを知っていたから私と一緒に後宮入りさせたの」


「……そ、そんな事があったのですか……」



 何かとんでもない裏話を聞いた気がする。

まさかお二人の後宮入りにそんな事があったなんて。



「そ。まあ要するに陛下にノーラを略奪してもらったという訳よ」


「言い方が悪いわよ、ヒルダ」


「昔の事よ。それにあんな男は貴方に相応しくなかったから当然でしょう」


「もう」



 呆れた様にエレオノーラ様がため息をつく。

とんでもない話だけどその様子を見て私は微笑ましい気持ちになった。



(本当にいい関係なのね。幼い頃からの親友と嫁ぎ先まで同じだなんて羨ましいわ)


 

 しかも立場は国王の側妃だ。これ以上望むべくもない。

そう思っているとエレオノーラ様が少し居住まいを正して私に向き直る。

そして私に質問を投げかけた。



「……ところで、あなたの口から聞きたいのだけれど」


「はい?」


「貴方が陛下に見染められた経緯も聞かせてもらえるかしら」



 その質問の意味は今なら理解できた。

今日のお茶会でお二人の仲の良さがよくわかったから。



(私は、同じ側妃で親友でもあるお二人と陛下だけの世界に突然割り込んできた異物なのだわ)



 エレオノーラ様からすれば陛下の寵愛を若い側妃に取られるという心配より、単純に二人の心地いい空間を荒らされたくないという感じなのかもしれない。


 でも心配されるまでもなく私自身がお二人と同格と思ってないし、全く思えない。

安心させる様な言葉を伝えたい気もするが、その為には陛下と寝室で交わした会話の内容を伝える必要がある。

そこまで伝えていいかどうか。



(……)



 少し考えた上で私は口を開いた。

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