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きっとそうだ

 黒歴史となってしまった修練場での出来事から第三側妃が現実逃避をしている頃、王太子も同じく逃避していた。自己弁護の世界に。



(私は悪くない。模擬戦だってあちらから言い出した事だ。あれもわざとじゃない)



 必死に頭の中でそう繰り返しているものの罪悪感が全く消えない。

不可抗力とはいえ女性に恥をかかせてしまった事は事実だ。

これだけは早急に謝罪しておかないといけなかった。

あの場で思考停止していた自分の迂闊さを呪う。


 すぐにアニエスの所へ向かったものの塞ぎこんでいるのか着替えて体を流しにでも行ったのか、とにかく会って謝罪する事は出来なかった。

結局、侍女に一言伝えてもらっただけで自室に引き上げてきたのだった。

必然的に本日のアニエスが担当していた自分の学習時間は自習という事になった。



(別に困らない。元々学園や王宮に来る他の優秀な教師陣で事足りている。

彼女との時間は父上が余計な気を回した結果の無用の産物だったのだから)



「……か」



(結局、誰の為にもならなかったじゃないか。私は心ならずも女性に恥をかかせて、彼女自身も大勢の騎士達の前で恥をかいて)



「……で……か」



(大体、彼女は云う事が突拍子もないんだ。まあ確かに剣の腕は驚いたけど、それは彼女個人の話であって女性の本質とはまた別の話だろう)



「殿下!」


「! ……何だ?」


「お召し物をお着替えになった方が……。それとお体を一度お流しになった方が宜しいかと」


「あ、ああ……そうだね」



 侍従に言われて気が付いた。

大して汚れていないが汗で体がべたつく。嫌な汗のかき方をしたのは間違いない。

エルヴィンは体を軽く清めてから自室に戻り自習に取り掛かった。

だが集中力を今一欠いた今回の時間はあまり学習の為に役立たなかった。


 夜になってベッドに入ってもエルヴィンは結局明け方まで悶々としていた。

眠れない原因は明白だった。


 ほんの一瞬だけなのにアニエスの乳房が脳裏に焼き付いてしまった事がエルヴィンを後ろめたい気持ちにさせる。

もちろん、全てが見えたわけではない。脇からぎりぎり頂点の寸前くらいまでだ。

しかし女性の象徴である胸を見た事が否が応でもアニエスを女性として意識させてしまっていた。

忘れようすればするほど鮮明に思い出してしまう。



(……くそっ! どうしたんだ私はっ!)



 アニエスの少女とも成熟した大人とも云えない美しい顔が脳裏に浮かぶ。

一度そうなったら最後、胸・細い腰・すらっと長い脚、そして裸体が勝手に脳裏に浮かんで来る。

必死に追い払うがなかなか消えない。

だが、更にその先の光景が浮かんでしまった事によって結果的にイメージを脳裏から追い出す事に成功した。

アニエスが父に抱かれている光景である。


 最近忘れがちだがアニエスが父王陛下の側妃である事を改めて認識した。 

ほんの少しの年齢差なのに彼女は大人の女性なのだ。

したくもない生々しい想像が結果的には強制的に醒めた気持ちにさせて心が落ち着く。

しかし、どういう訳か分からないがエルヴィンは不愉快な気分になった。


 

(彼女が王宮に来てからどうもイラついたり動揺したりする事が多くなったな)



 アニエスは一応形式的に王族であり身内であるから変に遠ざける事も出来ない。

王族で自分とさほど年齢が変わらないのはアニエスだけだ。

ずけずけと近づいて来て王太子である自分に物申すのも彼女だ。

そして血が繋がらない女性という点で今現在最も身近な存在なのも……。



(父上に気の合わない者と時間を共有させられているせいだな。きっとそうだ)



 エルヴィンは不愉快になった気分の原因をそう結論づけた。

存在を意識しないですむ侍女とか使用人であったらいいのに。

そう思って今度こそ眠ろうと寝返りを打った。

するとそちら側にある花の匂いが強く感じられた。


 ベッドの近くにはよく眠れるという匂いのする綺麗な花が置いてある。

それがまたアニエスに関する記憶が浮かぶきっかけになってしまった。

彼女が近づいた時の女性特有の甘い香りを思い出す。

特にきつい香水なんてつけていないのに。


 

(ああっ! 何を考えているんだ、私は!)



 エルヴィンがようやく眠りについたのは日が昇りかけてうっすらと明るくなってからだった。

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