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自信を無くしました

「……本当にいいのか? アニエス」


「はい、お父様。この話ありがたくお受け致します」



 私はアニエス・フォン・フェラー。フェラー伯爵の娘である。

王宮から打診があった件について、たった今決心を固めた所だった。

私を側妃に迎えたいという内容の。



「アニエス、本当にそれでいいの?」


「お母様。光栄なお話ですし、これが一番いいと思うのです」


「本当? 簡単に務まる様な立場では無いのよ?

自棄になっているのではなくて?」


「自棄になどなっていません。ただ、空しくなってはいましたけれど」



 私はつい先日、長年の婚約者であるスヴェンに婚約破棄を言い渡された。

彼曰く「真に愛する人」と結婚したいのだそうだ。

そんな事を云われたら私との10年に渡る婚約期間は一体何だったのだろう。

知らない令嬢にあっさり奪われてしまう程度の関係しか築けていなかったらしい。


 商売上手で自領を繁栄させているやり手の伯爵として注目を浴びたお父様に目を付けた公爵様は当時8歳の私と自らの息子を婚約させる申し出をしてきた。

上級貴族と縁ができることは我が伯爵家としては光栄な話だし断る理由もない。

当時の父はそう判断して承諾した。


 でもこちらが思う程公爵家にとってはそれほどの重みはなかったのだろう。

家督を継がない次男と変哲もない伯爵の娘との縁など。

王立学園を卒業した10年後の今、他に恋人を作ったその次男に私は捨てられた。

同時に子供が私だけの我が家は伯爵家の後継者も失った訳だった。


 彼と共に歩む未来の為にと今まで注ぎ込んだ努力が空しい。

彼が他の令嬢に気を移していた事に気が付かなかった自分の滑稽さが惨めだ。

とにかく今となっては全てが空しい。



「正直、自分に自信を無くしています」


「そんな! 何を言っているの!」


「お母様……お父様も、聞いて下さい。

私は今や世間的には婚約破棄されて捨てられた娘です。

新たに婚約者を探してあてがう様なご迷惑をお二人に掛けたいとは思いません」


「迷惑などとそんな事云うな」


「そうよ。そんな事を気にする事は無いのよ」


「お二人の言葉はありがたいのですけど、もういいのです」



 互いに了解済みの事情があっての婚約解消ならよくある。

しかし、長く続いてきた婚約を一方的に破棄されるという話はやはり少ない。

今更感が強いしこちらに欠陥がある様に思われてしまうからだ。

もちろん婚約の当事者間の事情などは広く世間に公表する訳では無いが貴族社会ではこういう事はなぜか詳細まで漏れ伝わるものである。


 貴族令嬢としては社交界で死亡通知を出されたようなものだ。

一応あちらの有責でそれなりの賠償金は支払われるが失った名誉は買い戻せない。

私なりに彼とは誠実に付き合って来たつもりだったけれどもその気持ちが伝わっていたかどうかは別だ。

結局私の独りよがりだったらしい。


 

『人から陰で嘲られようとそんなの知った事じゃないわ』



 精神的に強い令嬢なら開き直って社交に精を出して殿方を求めるのだろう。

しかし、生憎私にはそこまでの情熱が湧かない。人それぞれだ。

あえて本音を言うなら全てが面倒臭くなった。

自棄になっているつもりはないけど他の人から見たらそう見えるかもしれない。



「何を云うんだ、アニエス……」


「私はまた別の殿方と一から関係を築いていくつもりも自信も無いのです」


「そんな悲しい事を云わないで」


「……」


「婚約破棄をされる様な私になぜ王家から側妃の打診があったのかは知りません。

でもこの事は伯爵家には名誉な事です。

他に好いたお方もおりませんし、どうかこの話を進めて下さいます様お願いします」



 詮無い事だがこの未来が分かっていたらもう少し違う人生を歩めたはずだ。

だが、今更後悔しても遅い。貴族女性の結婚適齢期は短いのだ。

少なくとも異性関係という事に限ればこの10年間は無駄な時間だった。

一度つまずいてレールから外れればかえって貴族の方が平民より融通が利かない。


 それとは別に、国王陛下から側妃として求められた事に関してはありがたい。

婚約破棄された事実が白く上書きされる程、貴族の娘にとっては栄誉な事だ。

社会的体裁が整えられて実家に貢献できる手段があるならもう考える事など無い。

それでも両親が私に翻意を求めるのは二人共私の気持ちを慮っての事だろう。



(結婚に愛とかそんな幻想は求めないわ、もう)



 そんな気持ちが通じたのかお父様からあきらめの言葉が出た。



「……わかった」


「あなた!」



 お父様にお母様が問い質すのを私はどこか他人事の様に見ていた。 


お読みいただきありがとうございました。

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