帰る
仕事を終えて片付ける。
日が長いから明るい。
まだ出かけられそう。
あの頃も一緒なら。
この時間は忙しい人だった。
だから電話は掛けなかった。
先に帰る、駅に向かう、
また会えたらいいと。
夕焼けが見えなくて、
湿った風に凭れて。
歩きながら背中で言った。
少しゆっくり歩くと。
夏の始まりは今頃、
もう梅雨も明ける頃。
秘密にしたままなら、
日差しにも当たりにくい。
危ない日差しになるから、
当たらない方がいいか。
意味のない繋がりが
体の中を巡っていた。
駅に着いてしまった。
待ち合わせの人たち、
スマホを眺めている人たち。
その横をすり抜ける。
地下鉄への階段を降りて
恋しさと同じ電車に乗った。
降りる駅も同じだった。
この町は広くはなかった。
何もなかった、約束もなく、
記憶にさえも残れなかった。
合う人、合わない人、
生まれつき誰にもある。
電話をして話しかければ、
それはそれの今になったのか。
真っ直ぐに生きてゆけば、
それはそれの自分になれたのか。
何のために生きて、
どこに向かっていたのか。
永遠の謎を考えながら
あの恋しさに、時々埋もれる。