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ケーニッヒは争いを知る

 船ごと彗星に乗ってたどり着いたのは、地球を遠く離れた星。昼と夜の温度差が100℃以上で、人間をはじめとした生き物には厳しく、ワタで補強された我々なら暮らしていける場所だった。


 温度差の原因である強い日差しは、タネの生育にはむしろ都合が良い。植えたタネはどれも順調に育ち、おもちゃたちにエネルギーや修理用のパーツ、その他必要なものを提供できるようになった。


 おもちゃたちは、種類ごとに分かれて街づくりを始めた。怪獣の人形たち壊してもすぐ直せるビル街を。着せ替え人形たちは洋裁店やおしゃれな自宅を。子供と遊ぶとき、想像の中にだけ存在した世界を星の上に作り出そうとしている。


 そういった世界をもたないおもちゃもいる。ワガハイ自身も、そうだ。

 「宇宙を冒険する」「怪獣とヒーローが戦う」といったような、おもちゃとしての世界を持たないもの。あるいは、おもちゃとしての世界を持ってはいても、持ち主に様々な空想の世界に連れていかれたもの。「持ち主に強く長く愛され続けた」と言い換えてもいいかもしれない。


 そういうおもちゃは、自分の世界を作ることにこだわらない。全く新しい何かを始めるか、その何かを探そうとする。


 ワガハイは、どちらだろうか。


 今成していることはまさしく、ワガハイがやりたいと思ったことだ。ではあるのだが、それは「ひとつのおもちゃとしてのワガハイ」ではなく、「自由なおもちゃたちの祖としてのワガハイ」がやりたいこと、であるように思う。


 同時に出発した別の船とも連絡がつき、そちらでも入植は成功したと報告を受けた。ここの工場で作られた新しいタネと宇宙船を使って、別の星へ旅立つものもいた。

 自由を得たおもちゃたちは、人の目をはばかることなくやりたいことを追求していける。


 「ひとつのおもちゃとしてのワガハイ」がやりたいと思うこと、これもいつかは見つけたい。


 そう思いながら気ままに暮らしていたのだが、突然の来客にそれは妨げられた。

 地球に残ることを選んだ仲間が、人間と共にこの星に逃げてきたのだ。あまりに急な連絡だったので、受け入れの準備すらろくに整えられなかった。




 人間は今、不老不死になった「大人」と、不老不死を拒む「親」の二勢力に別れて争っている。

 子供が増え続ければ、自分たちの住む場所や使える資源が減る。そう考えた「大人」が、子供を産んで世代を重ねる「親」たちを滅ぼそうとしているのだ。


 この星に来たのは、敗走した「親」の一団。しかも、「大人」たちの使う無人兵器の追撃を受けている状態でここに来てしまった。

 この星に武器など無い。地形を変えるための重機が何台かあるくらい。我々おもちゃにとっては環境の厳しさと人の目こそが敵だった。


 どうすればこの星を守れるか。この星のみならず、「親」とその子たちを守れるか。

 久方ぶりに大勢の子供と出会えて、おもちゃたちはとても喜んでいる。安全になったらすぐにでも自分たちの作った町を案内したいと、子供と一緒にはしゃいでいた。


「あの兵器たちに、ワタを分け与えてください」


 「親」たちを連れてきた仲間、家庭用ロボットがこう進言してきた。

 あれらは人間を、「親」を相手にすることを想定して設計が最適化されている。「親」たちが使ってこなかった戦術、ワタでAIが書き換わることに対しては現状全くの無力、なのだそうだ。


「あれに、どうやってワタを送りこめと?」


 追撃してきた無人機の母艦が、宇宙空間から飛行艇を下ろしてきた。

 実はワガハイ、少し飛ぶくらいならできないこともない。ワタを改造したときに追加した機能の一つだ。ただ、ラジコン飛行機と同じくらいの速さなら出せるが、航空機と同じスピードで飛ぶのは無理だ。


「あれらは殺害すべき人間を探しています。動くおもちゃに無駄な弾は撃ちません。探索用の子機を下ろすため、いずれ必ず着陸します。その瞬間に親機を狙うか、子機経由でワタを送り込んでください」


 気軽にいってくれる。失敗して脅威とみなされたら、撃たれるのはワガハイなんだぞ。まあ、そうなったら遅かれ早かれみんな撃たれる訳だが。そんなことはさせられない。


 着陸した飛行艇の一台が、探査用の子機を機内から放出している。


 腕の先の縫い目をゆるめ、ワタをすぐ出せるよう準備する。狙うのは、入り組んだ町の中に侵入して孤立した一台。物陰から飛びついて、パーツの隙間にワタの繊維を一気に突っ込む。


 三つ数える間に、ワタは子機に意思を与えた。抵抗力の無い相手とはいえ、ワタのなじむ速度がかなり上がっている。新しい技術で改良を繰り返してきたのは、無駄じゃなかった。


 一台でも味方につけてしまえばこっちのものだ。ワタを腕一本分ほど新しい仲間に渡し、子機を味方につけさせる。こちらが狙うは母機やその母艦だ。


 自分で自分の機能を改良してきたことが、ここでも有利に働いた。昔は形や色を変える程度だった変形機能、これが今では無人機のセンサーをごまかせるほど高度なものになっていたのだ。

 飛行艇が子機を格納するために開いたハッチから、普通に侵入して味方につけられてしまった。


 順調に無人兵器を無力化しつつあるのは喜ばしいが、無視できない問題も発生した。


 ワタの消費が多すぎる。


 地球にいたころも、この星に来てからも、ここまで大きな相手にワタを与えたことはなかった。子機数台分に母機一台で、片腕一本分のワタを使ってしまった。あの大きな母艦にワタを分けるなら、今ある全身のワタを使っても足りないかもしれない。


「ソルダート!」


 一番、つきあいの長い友の名を呼ぶ。


「陛下、ソルダートはここに」


 背後から即座に声がした。声に遅れて、背景にまぎれたソルダートの姿がにじみ出る。


「ワガハイはこれから、上空の母艦へ向かう。ワガハイを構成する全てのワタを使わなければ、あれを味方に引き入れることはできない、かもしれない」


 想定すべき事態はいくつかあるが、賢いソルダートにそれをわざわざ言う必要は無い。ワガハイが言っておくべきは、この一言。


「もしワガハイが戻らなければ。そのときはみんなを頼んだぞ、ソルダート」

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