表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

ケーニッヒは仲間を作る

 ウィッシュ・アポン・スター社の施設から逃げ出すのは簡単だった。外からの侵入を防ぐ仕組みはあったが、内側からの逃走を阻むものは何もなかったからだ。


 小さな隙間を通り抜けるほど細長く形を変え、人間には入り込めない隙間を通り、外へ。


 外は屋内よりはもちろん開けていたが、人や物が多いため死角を探すことには困らなかった。そんなことよりも、「遊ぶ子供」が近場で見つからなかったことには困らされた。ワガハイは速く走ることができない。


 帰宅する人間の荷物に紛れ込むことができれば楽だったが、難しかった。紛れ込むこと自体は難しくないが、重さをごまかせない。ワガハイの体に使われている特別なワタは、普通のものより重たいのだ。


 だから、ワガハイ自身の判断で乗り物を選び、長距離の移動を繰り返した。「遊ぶ子供」が見つかるまで。


 ある日は公園の木の上で、別の日は遊具の影で、また別の日は保育施設のおもちゃ箱に紛れ込み、「遊ぶ子供」を観察して日々を過ごした。


 自由に遊ぶ子供たちの表情には、喜びが溢れている。子供がおもちゃとの遊びを楽しむ。おもちゃであるワガハイとしても喜ばしいことだ。だがワガハイはその顔を見るたびに、「これ以上をどうやって目指せば良いのか」が分からなくなっていった。




 子供にとって、自分のおもちゃにどれほどの手間やお金がかけられたのか、なんてことは関係がないのだ。もちろん、高価なおもちゃでなければ与えられないものも、ある。けれどそれは「人より希少な体験」ということでしかない。


 どのおもちゃにも、「そのおもちゃにしかできないこと」がある。

 ワガハイにも、ワガハイにしかできないことがあるはずだ。それが何なのかは、見出せない。


 目指すべきところを見失い、ワガハイは旅人というよりも迷子のようにさまよった。


 そんな中で見つけたのは、一つのおもちゃ。少なくない傷のついた、ロボットの人形だった。扱いの荒い男児の遊びに、つきあってきたのだろう。公園の片隅に忘れられて、置いていかれてしまったようだった。


 ワガハイに使われているワタの持つ、ある機能。人間にとってある意味最も危険であり、使うつもりのなかった機能。それをこのおもちゃに使うことにした。

 ただ一人でさまよい続けることに限界を感じたからだ。


 体の縫い目を緩めて、中に詰まったワタを少し取り出す。ワガハイをワガハイたらしめている、一番大事な部分。


 ロボットの人形にそのワタを近づける。部品の隙間、中に入り込める部分に近づくと、ワタは滑るようにその中へ入り込んだ。

 ワタは人形の中で増え、全身に行きわたり、ワガハイと同じものに変えていく。


 「自分で考えて動けるおもちゃ」に。


 体の中での変化が終わると、ロボットのおもちゃは立ち上がった。まだ体を動かすことに慣れていないのか、足元がおぼつかない。


「救いの手を差し伸べていただき、感謝いたします」

「ワガハイも見返りを求めてのことだから、気にしなくとも良い」


 ロボットはふらつきながら、ワタを分け与えたことに礼を言う。ワガハイとしては、厳しい旅の道連れにするつもりでやったことだから、礼を言われる筋合いはないと思う。これからかける苦労を思えば、釣り合わない。


「ワガハイはケーニッヒ。ウィッシュ・アポン・スター社に最高のおもちゃを目指して作られた。そちらの名は?」

「ソルダート、とお呼びください」

「それは、元々の名前なのか?」


 国王(ケーニッヒ)兵士(ソルダート)、偶然で名前が揃うとは思えない。


「長い旅の供とするため、わたくしに御身体を分け与えてくださったのでしょう。MIA(作戦行動中行方不明)となり原隊への復帰も望めない今、かつての名を名乗る意味もございません」

「なるほど」


 ワタは、戦うロボットらしさのある心をソルダートに与えたようだ。ワガハイも、もう少し王様らしい言葉を使うべきだろうか?……おもちゃの王様なのだから、今くらいでちょうど良いか。


「最高のおもちゃを、ワガハイの成すべきことを当てもなく探している。旅の終わりまで、付き合ってもらおうか」

「喜んで、陛下」

「ケーニッヒと呼んでくれ」

「はい、ケーニッヒ陛下」

「……まあ良いか。行こう」


 旅の終わりはまるで見えないが、仲間がいれば少しは気分が楽になる。納得できる結論がでるまで、時間をかけて考え続けることにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ