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雑踏の中その人は立っていた。
両手で箱を持っていて、少しだけ視界が悪い。焦茶いろの髪の毛をオールバックにして少しだけ猫背。
「…すみません…」
視界が悪いせいか、歩いてくる人にぶつかってしまう。
その後も謝罪をしながら進む。手にはくしゃくしゃの紙。
【◯月◯日 11:00 受付に】
殴り書きのメモを再度確認する。時間はメモの5分前。
よろけながらも受付へ。荷物を床へ置く。
「…す、すみません…ここへ来るように言われていた者なんですが…」
にっこりと受付の人が笑う。
「おはようございます。どなたに御用でしょうか?」
「あ…えっと…このメモだけでして…」
さっき確認していたメモを見せる。
受付の笑顔は崩れない。
「少々、お待ちください」
すっと立ち上がり、受付の人は他の2人の元へと向かう。
頼りの無さそうな人、くしゃくしゃのメモ、謎の箱、それは怪しいだろう…。
受付の中で何やら小さな声で会話が行われる。すると、先程対応した人とは別の1人が、にっこりと笑って話しかけてくる。
「大変、失礼いたしました。…さとう…はじめ?様でよろしかったでしょうか?」
「…はい」
「大丈夫ですよ。お話は伺っておりますので」
受付の人はさとうの、不安でいっぱいの顔にくすりと笑った。
「ここで待たせておけとのことです。」
「…えっ?」
「大丈夫ですよ。その方でしたら良くあることです。」
再びにこりと受付の人は笑う。
とりあえず、受付の端に荷物ごと寄る。
入ってきた方向を見つめる。多くの人が行き交い誰もが忙しそうにしている。時計を見る。
メモの時間より10分過ぎていた。再びぼうっとする。
「おい」
と言う声かけと同時か多少速く、さとうは振り返った。
「…なんだよ…急に振り返りやがって…」
「すみません…」
「まぁ、いいや…おい!嬢ちゃんたち!お仕事どうもな、これ好きなの飲みな!」
急に現れた人は、受付の女性たちに差し入れを渡した。
「吉田さん、ありがとうございまーす!」
それに対してヒラヒラと手を振る吉田。
「おい、行くぞ」
「…あ、はい…」