お屋敷へご案内
前作に続き、また猫ですよ。
つまり猫が好きということですね。正解です。
一週間
何をさせられるのかビクビクしていたが、思っていた以上に仕事内容は楽だった。日本にいた頃には全くわからなかったが、リンゼイに来てから両手を握って祈ると白いキラキラした光が体から流れて出て行くのが自分でもわかるようになった。討伐隊が帰還すれば出迎えて、彼らの怪我を祈りで治す。どうやら疲労の回復もできるようで、騎士たちはスッキリした顔で口々にありがとうと伝えてくれて嬉しかった。
第一騎士団は討伐メインの部隊らしく、毎日のように黒森で魔物を討伐しているようだ。朝のうちに出発して夕方には帰って、を繰り返しているので実践にはすこぶる強いらしい。
鍛え上げられた肉体に、不快に思わせない滴る汗、そして鼻筋の通った美形揃いの第一騎士団は女性にも大層人気らしい。治癒の為に第一騎士団の寮にお邪魔すれば、必ず何人か窓から室内を覗こうとしている女性を見かける。この国にプライバシーの概念はないのだろうか?
そんな体育会系の騎士団の中に、一際美しいと言われて人気を誇っているのがロイさんだ。他の騎士たちと同じ事をこなしているのに、大柄ではなく華奢だ。真っ黒な髪の毛は軟毛なのかフワフワとしている。切れ長の目に黄色い瞳、通った鼻筋に薄く小さな唇をした彼は女性と言われても納得してしまうレベルに美しい。私よりも四歳年上で23歳聞いた時は、もっと年上だと感じるほどに落ち着いている人だと思ったくらいだ。ちなみに初めて見たとき、私は実家で飼っていた黒猫のクロマメを思い出して少し寂しくなった。
そして奇妙なご縁で何故か私はロイさんのお屋敷でお世話になっているのだ。
数日前に遡る。城はダメと断られ、騎士寮は部屋が埋まっていると断られて困っていると、未婚で浮いた話が一切出てこない毎日屋敷から通っているヤツがいるぞ…と言って紹介されたのがロイさんだった。承諾を得てお屋敷に行くと、半端なく大きな庭と大量の部屋で構築されている家がそこにあった。
「君、逃げないように。この敷地から一歩も出ないようにしてね」
準備してもらった部屋に着くまで一切声を発しなかったロイさんが初めて口を開く。その声は女性的な見た目をしているのに心地よい低音で、一瞬本当にこの顔から出ている声なのか疑うくらいには予想外だった。
「はぁ…」
声も出せずまじまじと顔を見ていると、ロイさんはプイと顔をそらして廊下を歩いて行ってしまった。あからさまなため息をつかれて少しだけ殺意が湧きそうになる。なんとか心を落ち着かせて自室となる部屋に入ると、先客がいた。
「もしかして、あなたがワコ様ですか?」
太陽の光がキラキラと反射しているブロンドヘアーの女の人が正面に立っていた。
「専属メイドのメアリーです!これから全力でサポートさせて頂きます!」
「ワコです、よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をすると、メアリーさんも慌てて頭を下げた。そんな可愛らしい姿にクスリと笑うと、それに気づいたメアリーさんも嬉しそうに笑みを浮かべる。ロイさんが素っ気ないぶん、彼女が癒し担当になるまで時間はかからなかった。
毎日起きると既に討伐に行っていて、治癒の時間は何故か来てくれず、帰りの馬車では会話が特にない。そしてお屋敷に帰っても自室で食事をとると言って部屋に籠ってしまう。ロイさんとは全く生活リズムが合わないわけではないのに、ほとんどコミュニケーションが取れていなかった。
お屋敷内は途方に暮れるほど広く、端から端まで移動するなら馬車が必要になるくらいは敷地面積がある。庭は色とりどりの花が咲き誇り、それを鑑賞しながらのティータイムは最高だ。書斎も床が抜けそうなくらい本がぎっしり詰まっていて、この国について勉強するにはピッタリな本も多い。文化や食事、作法についてはメアリーさんに聞きつつ毎日吸収している。外は楽しいとメアリーさんは言っているが、少なくとも外の景色を見たことが無い私にとって「外に出るな」というロイさんの言葉には特に打撃を受けていなかった。
「アタシ最初はロイ様のこと寡黙でかっこいいな!って思ってたんですけど、冷たい人ですよね…あ、これ悪口じゃなくて、何というか、全てに対して興味が無いのかな?という感じなんです!」
顔を真っ赤にしながら話すメアリーさんを微笑ましく見守ると私は一口紅茶を飲んだ。この一週間でメアリーさんとはかなり仲が良くなった。普段は一緒にいるが、一人になりたいと言えば下がってくれるし、年齢が近いのか楽しくお喋りができるのだ。ロイさんのことをどう思っているのか聞くと今のような言葉が返ってくるくらいには、くだけたと言っても良いだろう。とても可愛い女の人だ。
と、ここまで来たらわかると思うが暇なのだ。朝は勉強、昼はティータイム、夕方に少し仕事をして夜早く寝る。何にも追われない平和な日々に最初は戸惑ったが、慣れとは恐ろしいものである。
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