幸せを祈って
本編最終回です。
「あの~?そばにいるって、こういうことなの?」
バックハグをした状態で動かなくなったロイに話しかける。彼は言葉を返すことなく私の髪の毛に顔を埋めてしまった。
あの日、目を覚ますと目元を真っ赤にして泣いているロイが最初に目に入った。とりあえず何か言おうと口を開いた瞬間、彼は私の名前を愛おしそうに呼んでくれた。私が手を握ってくれたから戻ることが出来たと言うと、ロイは一週間ずっと握ってたから気づいて当然だと半分怒ったような、でも嬉しそうな声で私に教えてくれた。この後は第一騎士団の皆やお屋敷の使用人が次々と見舞いに来てくれて、もみくちゃになったけれど私にはそれも嬉しかったのだ。新しい家族ができたように思えたのだから。
一週間寝てたことが功を奏して、私の魔力は全回復していた。祈りの力で傷を塞ぐと近くで見ていた人達に何故か拍手をされて恥ずかしくなる。本当に治ってるかお腹を見せてほしいとロイからしつこく言われた際は、執事長からおしかりを受けていて思わず笑ってしまったけれど。
医者に診てもらい、完治が確認されてからお屋敷に戻れば、かなり大規模のパーティーが開かれた。全てロイが決めていたようで、私が好きな食べ物ばかり並べられたテーブルに目を輝かせない方がおかしいくらいだ。余りにもキラキラした目をしていたので、隣で私の様子を窺っていたロイが堪えきれず笑っていたのは後から使用人から教えられた。食事を満喫していると、後ろから緊張した面持ちのロイに話しかけられた。わけもわからずテラスに連れて行かれて、しばらく夜風に当たりつつ彼の言葉を待っていると、意を決したような顔で私に言った。
「これからも、ずっとそばにいて欲しい。俺と家族になりませんか?」
たった一言、ストレートな言葉を投げられて私は心臓が止まりそうになる。飾らないその一言が、私にとって何よりも嬉しいものだったから。自然と涙がこぼれ、抑えることが出来ない。突然涙を流し始めた私を見てロイはオロオロしているのが余計に愛おしくて。私は涙を流したまま笑顔を浮かべて言った。
「私もロイさんとずっと一緒にいたいです!」
…………
「そろそろ離れてもらっても良いかな?」
「せっかく休み取らせてもらったのに俺のことは無視ですか?」
そして現在。自室に勝手に入ってきた挙句、抱き着いて離れなくなったのが私の彼氏のロイである。敬語が禁止にされて最初は慣れなかったが、最近どのように対応すべきかわかってきた。ロイはロイで二人きりの時は基本ゼロ距離でくっついてくる。片時も離れないと言われたときは冗談だと思って適当に流したが、今では適当に流したことを後悔しているほどだ。食事の際は一切喋らず、ほぼ毎日特に会話の無かった頃の自分を一度彼には思い出してほしい。そのくせ人前では本当に付き合っているか疑わしくなるほど接触してこないのだ。表と裏のギャップで風邪をひきそうになる。
背中にくっついたロイを外すことなく歩くと、外れずにズルズルと付いてくる。そのまま無視して私は自室から出ると、今までのことが噓みたいに離れて隣を歩き出した。この態度の変わりようはいつ見てもシュールすぎる。しばらく廊下を無言で歩いていたが、ふと思い出したことがありロイに話しかける。
「メアリーちゃんはどうなの?」
「ああ、順調だ。このまま回復に向かうだろう」
アシュリーが第二騎士団に連行されて、妹が一人残された状況で声を上げたのはロイだった。本人曰く金は腐るほどあるから、せめてメアリーが治るまでは資金面を援助すると決めたそうだ。あとは私がずっと心配していたのが気になっていたとか。
「メアリーちゃんのこと、本当にありがとう」
「別に、俺はワコが心配していたから助けただけだよ」
私の言葉を聞いて嬉しそうに頬を緩ませているロイの顔を見て、私も笑顔が自然に零れる。彼の仕事は騎士で、いつ何が起きて死んでしまうかわからない。それは本当に恐ろしいことだが私にできることは怪我を治すだけ。心配という言葉は胸に秘めてしまい、せめてロイが生きている限りはそばに居続けようと決めたのだ。
「メアリーを見てると俺たちに子どもがいたらなぁと思うようになったよ」
「うっ」
ロイは際どいセリフを言って、ニヤリと笑うとさりげなく腰をするりと触ってきた。真っ赤になった私を見て満足そうに口角を上げると、長い脚を使って先に行ってしまう。その背中を追うように小走りをする私の頭の中には、また新しい未来が描かれていたのだった。
最後まで見届けてくださって誠にありがとうございました。
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番外編の方はいつになるか未定ですが少しずつ投稿しようと考えております。
ひとまずお別れ、ではまた。




