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黒猫騎士様に懐かれるまで  作者: 鯛焼きさん
11/16

予想外1

更なる展開に続きます

 言われた通りひたすらベッドで寝る生活をしていると、一度目を覚ました場合には妙に目が冴えてしまう。案の定、私は変な時間に目を覚ましてしまった挙句寝られなくなった。お屋敷の中は外の風の音が聞こえてくるほどに静まり返っている。ロイさんはまだ帰って来ていないようだ。真っ暗で少し不気味だ。

 私は喉の渇きに明日まで耐えられないと判断して、自室のテーブルに置いているランタンに光を灯して出た。暗く果てしない廊下にビクビクしつつ歩いていると、扉が閉まりきっていない部屋から光が漏れてきていることに気がつく。音が鳴らないように忍び足で近づきつつ、バレないようにランタンの光を消した。隙間から覗いてみると、頭に布を被った何者かが戸棚を開けて物を盗んでいる。主に宝石を狙っているのだが、なぜこれほどに位置を知っているのか疑問に思いつつ、しっかり見ようと身を乗り出した瞬間私はドアにぶつかった。ドアが不自然に開いてしまい、盗んでいた人がこちらを振り返った。


「え、あれ?」


 振り返ってこちらを見た人物が知っている人だったことに気がついて、私はうまく言葉が発せずに相手の顔を見てしまう。私はかの有名なアシュリーがお屋敷に現れたのではないかと危惧をしていたのだが、全く違う人がそこに立っていた。


「メアリー、何してるの?」


 そこにいたのは私の専属メイドのメアリーだったのだ。いつもの元気溌剌な表情とは打って変わって、冷静な目で私を見ていた。何も感情が宿らないその瞳に身の毛がよだつ。


「どうして、よりによってワコ様なのですか?」

「メアリー?」


 手にはこのお屋敷にある高価であろうジュエリーが握られている。暗闇で作業をするなんて、少なくとも掃除をしてるようには見えない。美しい金の髪を布で隠しているのも違和感だ。まるで自分であることを隠すような、そんな変な行動に私は頭が回らない。


「そんなアシュリーみたいなことして、その手に持ってるやつ戻さないと…ね?」

「ワコ様、良いこと教えてあげます。アタシがアシュリーなんです」


 メアリーはポケットにジュエリーを入れた。そしてそのポケットから小型のナイフを取り出す。ここでようやく新聞に書かれていた、アシュリーは見られた場合に人を始末する事実を思い出して冷や汗をかく羽目になる。鋭利な刃物が自分に向けて何の躊躇もなく向けられているのだから。


「どうして盗みをするの?」

「妹の…メアリーの治療費を稼ぐには手段を選ばない、ただそれだけのことです。もしかしたら聖女様なら妹を助けられると思ってワコ様に近づいたのですが、残念ながら怪我の治癒しか効かない魔法のようですね」


 冷めた目が私を監視している。一歩でも動こうとすればナイフが深々と刺さるだろう。無言の睨み合いをしていると、廊下の方から物音が聞こえてくる。どうやら誰かがお屋敷の中で起きている異変に気付いたのだろう。メアリー、ではなくアシュリーは私から一瞬視線を外すと廊下から響いてくる音を聞いて再び私を見た。


「どうやらお時間のようです。さようなら」


 それは一瞬の出来事だった。アシュリーは一気に距離を詰めると、私の腹にナイフを突き刺す。皮膚を破かれる瞬間は訳が分からなかったが、ナイフが抜かれると強烈な痛みが全身を貫く。服に赤いしみが広がって、手で押さえても止まる気配はない。反対の手に持っているランタンが滑り落ちて大きな音を立てて割れてしまう。立っているのが厳しくなり、床に寝転がると目の前に立っているアシュリーの、布に隠れる顔がわずかに見える。その顔は苦痛に歪んでいるようで、私はその顔を見て何も言えなくなった。視界に霧が立ち込めるようにぼやけ始めた。治癒を使おうとして、自分には魔力が枯渇していることを思い出す。無理に魔法を使って死ぬか、失血死するかの二択しか選択肢が無いことに気がつくと、私はただ笑うしかなかった。


「どうしてワコ様は笑っているのですか?」


 アシュリーの問いに返答しようとしたが、呼吸がやっとの私には会話ができるわけなかった。これ以上、無駄な体力を使いたくないので目を閉じると呼吸をする。不思議と私は落ち着いていた。仲良くしていた人に突然裏切られたのに、ナイフで刺されて今にも命が尽きようとしているのに私は冷静だった。一つだけ後悔があるとすれば、それはロイさんに気持ちを伝えられなかったことだけだ。でも今日の朝フラれたも同然なのだから、後悔すら存在していないに変わりない。

 一度目は車に轢かれて、二度目は専属メイドであり泥棒の女性から刺されて。なんて波瀾万丈な人生なのだろうか。両親とクロマメの顔が唐突に思い浮かぶ。まさか大学生になって独り暮らしを始めた娘が異世界で魔法を使って聖女をしているとは思っていないだろう。そして命を手放そうとしているなんて思っていないに違いない。


 眠気が私を誘う。考え事をするのが煩わしくなる。アシュリーに最期何か言おうと思い、物理的に重い口を開いた。頭に浮かんだ言葉はたった一つだ。


「ごめんね…妹さん救えなくて…」

「どうして、どうしてそんなこと言うのですか!」


 何か部屋の中で音がしている気がする。目を開けるのが億劫で、でも誰かが私の近くにいる気配がする。その近くにいる人に伝言を残したくなって、私は口から辛うじて音を発した。


「私はロイさんのこと、大好きでした」


全てが途切れた。

読んでいただきありがとうございます。

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