お目覚めハッピーエンド?
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「おはよう」
「…………え?」
目を覚ますと何故か形勢逆転していた。私がベッドの上に寝ていて、椅子にロイさんが座っているのだ。私が起きるまで何をしていたのかわからないが、じっと顔を見られていて急に落ち着かなくなってきた。
「先ほど専属メイドが俺とワコの体調を確認しに来ていた。まだ寝ているから後にしてくれと頼んだんだが…調子はどうだ?」
「まだ少しだるいですけど、歩けないわけではないです」
ベッドから上半身を起こすと大きく伸びをして、近くにあったカーテンを勢いよく開けた。病室に入り込む太陽の光が、無事に次の日まで生きていたことを証明してくれる。ロイさんは太陽の光が眩しいのか、目を細めて変な顔になっている。それでもイケメンなのは流石と言ったところだ。
「むしろロイさんの怪我は塞がりましたか?」
「ああ、この通りだ」
何の気もなくペロッと着ていた服をめくって腹の部分を見せてくれた。いつの間にか巻かれていた包帯が無くなっていて、筋肉質な体が現れる。あまりにも無防備な腹チラで開いた口が塞がらなくなりかけた。だが確かに傷口すら存在しておらず、治し切れていることも確認ができてホッとする。
「ワコ、少し話があるんだが良いか?」
唐突に神妙な顔をしてロイさんは話し始めた。これまでの和やかさから一変して、張り詰めた空気になる。まさか昨日の私の発言が聞かれていたのだろうか?自分のことを好きになるような女とは一緒に住めない、どこか別の場所に行ってくれと言われるのかもしれないと思うと、今にも逃げ出したくなる。
「この前、俺はワコに『その不安が無くなるまでは俺がそばにいる』と言っていただろう?」
「はい、確かにそう言ってくださいました」
約束を一言一句間違えずに覚えていてくれたことが嬉しくて思わず笑顔になってしまう。そのままロイさんは衝撃的な言葉を口にした。
「その言葉、撤回する」
もし手にグラスを持っていたら確実に落として割っていただろう。言葉がうまく変換されない。てっかい?つまりあの時の言葉は取り消しされたってこと?何を言えば良いのかわからず私はただ口をパクパクするだけになる。まるでエサを求める鯉のようにだ。
「どうして……ですか?」
「それは」
ロイさんに震える声で理由を聞こうとした瞬間、個室のドアが勢い良く開いた。私もロイさんも驚いてドアの方を見ると、メアリーを先頭にお屋敷の使用人たちが次々と入って来る。何故ワコ様がベッドに?という顔をしている人も何人かいた。
「坊ちゃん!ご無事で何よりです」
「心配をかけてすまなかった。ワコのおかげでもう大丈夫だ」
執事長の言葉に優しくロイさんは返している。その光景の温かさにほっこりしていると、メアリーが正面から抱き着いてきた。何も言わずに抱きしめてくる彼女の頭を優しく撫でると、僅かに肩を震わせているのが伝わってくる。
「失礼します」
再会を喜んでいると、個室に白衣の人と騎士団長が入ってきた。使用人たちが出て行くと、最初に私に向かって騎士団長が頭を下げてきた。
「誰一人失うことなく黒森から帰還できたのは今回が初めてです。お身体への負担が大きいにも関わらず、諦めることなくロイの治癒に力を注いでくださって本当にありがとうございました」
騎士団長は頭を下げたまま感謝の言葉を述べてくれる。次に彼が顔を上げた時は、何故か鼻水は出ているし涙は出ているしで、思わずクスリと笑ってしまう。
「この人は王家直属の医者でな、君たちの体調を診てくれると言ってくださった」
「早速ですが聖女様、手を出していただいてもよろしいでしょうか?」
言われるがままに手を出すと、その手に医者は自分の手を重ねた。意図せず手を繋ぐ形になって動揺していると、突如体に電気が走るような痺れが手から流れてくる。医者は暫くして紙に数字を書き出した。そしてその数字を私に見せてきて言った。
「まず体力面ですが、こちらは正常値が出ております。ですが油断は禁物なので今日は休息をとるようにしてください。問題は魔力です。普通なら死んでいてもおかしくないほど不足しています。今日は怪我をしても絶対に魔法は使わないでくださいね」
「肝に銘じておきます…」
医者の言葉からひしひしと圧を感じる。私は従わないと怒られると瞬時に察して頷いた。次にロイさんにも同じ様にしていたが、驚いた顔をして医者は言った。
「体に支障が残っていません。完全に治っています。黒龍に腹を搔っ切られたと聞いていたので、まさか聖女様の力がこれほど強いとは思っていませんでした。ですがあなたも今日は大人しくしておくように」
「そんな不満げな顔するな。時間があるなら騎士寮に寄ってくれないか?皆がお前のことを心配しているから顔を出してやってほしい」
ロイさんの言葉の続きを聞きたいのに、騎士団長の一言でロイさんの予定が決まってしまったようだ。一通り診てもらったタイミングで執事長が部屋に戻ってきた。そして私の顔を見て言う。
「帰る準備が整いました」
「ワコのこと頼んだ。先ほどの話の続きは今日の夜にしよう」
「…わかりました」
ほぼ追い出されるも同然で、私は病室から出る羽目になったのだった。
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