後編・そして、召喚士は英雄へ
激しく扉を叩くのは『雷光の騎士』『蒼天の霹靂』の二つ名を持つ、勇者パーティーのリーダー『勇者ショウ』!
「うわっ! とうとう、ショウが来た!」
さらに。
「ジン、開けてください。さもなくば『即死呪文』を唱えますよ……」
扉の奥からでも見えるような、冷たい怒りのオーラを放つのは『癒しの聖女』『救国の妖精』と謳われる『女僧侶ナオレ』!
「うわー! ナオレがめっちゃ怒ってるー!? 癒しの聖女に半殺し、いや全殺しにされるー!」
「ほう、勇者と女僧侶か。他の2人の説得に応じないとは、貴様また何かやらかしたのか?」
「うーん、後は『ベフィモス』と間違えて『ベビースターラーメン』を召喚した事ぐらいですかね?」
「貴様、スナック菓子が好きだな?」
「いや、僕あれ歯ぐきに刺さるんであまり好きじゃないんですよ」
「貴様は少し反省しろ」
あ、そういえば! とジンは思い出したようにポンと手を打つ。
「僕は勇者パーティーの洗濯係もしてたんですが、こないだナオレの黒いブラジャーをかぶって遊んでたのがバレちゃいまして」
「このド変態が」
「いやいや、そんなエロイムエッサイムな気持ちは全く無くて、僕はただ『三月ィマウス』の物まねをしてただけで」
「おい、ちょっと待て」
「やあ、ぼく三月ィだよ?」
すかさずオメガバーンは、手刀をジンに食らわせる。
「『辛味亭遠藤』ッ!!」
「ぎゃふーん!?」
「危険ラインを攻めるのは止めろ。女僧侶が怒るのは無理もない事ではないか」
「す、すいません……。一応そのあとナオレに、物理でボコボコにされてはいるんですが」
「むしろその程度で済んで助かったと思え」
『ブバンストラッシュ!』
ドガァーン!
突如、部屋の扉が吹き飛ぶ。
サラサラ金髪の勇者ショウが『先代勇者ブバン』から受け継いだ必殺技でドアを破壊し、ついに部屋に乗り込んで来た。
さらに、水色ロングヘアーの女僧侶ナオレも後に続く。
「うわっ、ショウ、ナオレ!? あわわわわ、こ、これには深い訳が……」
ジンは慌ててオメガバーンを隠そうとするが、とてもその巨体は隠し切れるモノではない。万事休すかと思われたが。
「あれ? 誰もいないだと……?」
「え……? 先ほどまで話し声が聞こえていたと思ったのですが……」
なぜか、2人はジン達が目の前にいるのにもかかわらず、まるで見えていないかのようにキョロキョロしている。
「えっと、これはどういう……?」
「フハハハッ! それは、我が空間を支配する魔法をかけておるからだ。奴らには我々の姿はおろか、声すら聞こえておらぬわ」
これは疑似的に世界から存在を消し去る、超魔王の秘技。
本来、超魔王の居城『オメガバーンパレス』を時空の狭間に潜ませる際に用いられる技なのだが。
「という事は、今なら全裸になってもバレないって事ですね」
「うすうす感じてはいたが、貴様頭がおかしいぞ」
「じゃあ、ショウたちに見つかる前にとっととココから離れた方が」
「まあ、案ずるな。見ておれ、今に面白いモノが見られるであろう」
「面白いモノ?」
オメガバーンが言うとおりに、ジンはショウたちの様子を見守る。すると、女僧侶ナオレが勇者ショウに語りかけた。
「もしかして、ジンは逃げたのでしょうか……」
「逃げたのなら、それでいい。あいつがこのままパーティーにいても、いつか命を落とすだけだからな」
「でも……、いくらジンが実力不足だからって、本当にこんな別れ方で良かったのでしょうか? きちんと話し合って、納得してもらってからの方が……」
女僧侶ナオレは寂しげな表情で語りかけるが、ショウは首を振る。
「いや、それではダメだ。ここは心を鬼にして、突き放さないといけない。ジンは大事な仲間だ、死なせたくはない」
「ショウ……。僕の事を嫌ってた訳じゃなかったんだ……」
「やはりな、厚い友情で結ばれた勇者パーティーが、いきなり仲間を追放するのはおかしいとは思っていたが」
「それに、ジンが勇者パーティーに懸ける想いは本物だ。オレたちが気を使っていると知ったら、それこそ命を捨てて戦いに望むはず。それだけはあってはならないんだ」
「勇者はあんなこと言っているが、今どんな気持ちだ?」
「いやあ、なんか年金とか言ってたのがこっ恥ずかしいですね」
「さあ、仲間の所へ戻ろう。今後の事を打ち合わせないといけないし、壊したドアの事をどうするか考えなければ」
「それは自分で弁償してくださいね」
そう言いながら、ショウとナオレはその場を去っていった。
何も無い空間から、ジンとオメガバーンがスッと姿を表す。
「とまあ、今回の追放劇の内幕はこんなところだ。あとは貴様がどうするかだが」
「僕は……、勇者パーティーに戻りたいです。ですが、実力不足をどうにかしないと」
「ふむ、貴様は我を召喚できるくらいだから、実力は十分だと思うぞ。思うに貴様は、『慌て過ぎ』で召喚呪文を噛んでいるのではないか?」
「えっ?」
「アメンボ赤いなアイウエオ。言ってみろ」
「アメ゛ッ!」
「噛むのが早すぎる。ゆっくり落ち着いてやりさえすれば、これからは実力不足と揶揄される事も無くなるであろう」
「何から何まで、ありがとうございます!」
「では、そろそろ貴様の魔力も尽きる頃だ。我はもう帰るとするぞ」
「あ、超魔王さん、ちょっと待ってください」
魔法陣の中に戻ろうとするオメガバーンを、ジンが呼び止める。
「本来なら僕たちは敵同士。どうして、ここまで色々としてくれたんですか」
「フッ、魔王といえども召喚術の理には逆らえぬもの。まあ、敵に塩を贈るというのも一興だからな」
超魔王オメガバーンは、ジンに背中を向けたまま言葉を続ける。
「あとは、貴様が他の人間どもと違い、ビビりこそすれ魔族を蔑むような目をしていなかったからかもしれん」
「僕は召喚士です。僕の呼び掛けに応えてくれた者に対して礼節を尽くしますし、人間も魔族も根っこは同じで、分かり合えるものと思ってますよ」
「人族風情が小癪な事を……」
オメガバーンは口では言いつつ、愉しそうな笑みを浮かべる。
「また、会えますかね?」
「次に貴様と会うのは、『超魔王城』だ。その時は、我はラスボスとして勇者パーティーに相見えようぞ」
「じゃあ、それまではお元気で」
「やはり貴様は、おかしな奴だ」
そう言い残し、超魔王オメガバーンは魔法陣の中へと消えて行った。
*
こうして、奇妙な友情を深めたジンとオメガバーンは、その後人族と魔族の融和を目指して奔走する事となる。
その結果、人族と魔族との間に不可侵協定が結ばれる事となり、世界に平和が訪れた。
後に、召喚士ジンは平和をもたらした『英雄』として、未来永劫語り継がれる事となった。
おわり
(おまけ)
「超魔王さん、ショウたちと仲直りするに当たって、もう一押し欲しいんですが、なんか良い方法ありませんかね?」
「ふむ、ならば勇者パーティーに、我が配下の『ザック=バラン』をけしかけてやろう」
「なんだって!? あの『竜騎将ザック』を?」
「こういうのは荒療治が一番だ。強敵との戦いの中でぞんぶんに友情を深めるがよい」
「逆にコテンパンにされそうな気もしますが、それはそれで、ありがとうございます!」
ちなみに、とオメガバーンは付け加え。
「竜騎将ザックは、実は貴様らのリーダー『勇者ショウ』の父親でもある」
「なんだって!?」
「なんやかんやで生き別れになったらしいが、まあそのへんのドラマチックなところも、旅の思い出にするがよい」
「ありがとうございます! でも、そんなネタバレしちゃって大丈夫ですか?」
「『超魔王様のお言葉は全てに優先する』から、良いのではないか?」
「それは、自分で言うセリフじゃないですね」
おわり