前編・召喚士、追放されかける
家紋 武範様 主催の「知略企画」参加作品です!
「ジン、キミはクビだ!」
「えーっ!?」
赤髪の少年『召喚士ジン』は冒険者御用達の宿屋で、『勇者ショウ』の部屋に呼び出されて、いきなり戦力外通告を告げられる。
「何だって!? 僕はこの勇者パーティーに、さんざん尽くしてきたというのに!?」
あまりにも急な話に、ジンは驚きを隠せない。
「なぜも、へったくれもありゃしねえよ!」
「あんたはあたし達の足を引っ張ってばかり! 正直、存在が邪魔なのよ!」
「あなたは実力不足です。勇者パーティーの汚点です!」
『魔法使いステップ』『女格闘家パピー』『女僧侶ナオレ』からも、ゴミを見るような視線を向けられるジン。
「そんな……、僕はみんなの事を仲間だと思っていたのに……。炊事も、洗濯も、どんな雑用だって頑張って来たっていうのに!」
「世界を征服しようとする『超魔王オメガバーン』を倒すという崇高な目的を果たすため、キミには今すぐパーティーを抜けてもらう」
「嫌だっ!」
「は?」
「なろうテンプレみたいに追放されるのはごめんだ! 僕は絶対、勇者パーティを辞めないからなーっ!」
「おいっ、こらっ! ジン!」
呼び止める声に耳を貸さず、召喚士ジンは勇者ショウの部屋を飛び出した。
「くそーっ、僕は役立たずなんかじゃないぞ!」
自分の部屋に籠ったジンは、床に複雑な魔法陣を描く。
「こうなったらスゴい奴を召喚して、僕のスゴさを思い知らせてやる! エロイムエッサイム、出でよ『スゴい奴』ッッ!!」
ドッカーン!
「フハハハハッ! 我の名は『オメガバーン』。全の魔を統べる『超魔王』とは我の事だ」
「えーっ!?」
*
魔法陣から現れたのは、頭の両サイドに黒い角を持ち、王様のような白いローブを纏った、自ら超魔王オメガバーンと名乗る人型の魔族。
「えっ、う、うそっ! オメッ? ちょ、マジでっ!?」
「まさか下賎なる人族に、我が召喚されるとは夢にも思わなんだが……」
「いやーっ! いやっ、何で、そんなっ、まさか!!?」
「しかしながら仮初めの主とはいえ、召喚ばれたからには応えねばなるまい。主よ、汝は我に何を望むか?」
「ぎゃあっ! たすっ、オメガッ、助けっ、ア゛ーーーッ!!」
「うるさい!」
「ぶぎゃっ!」
オメガバーンのチョップが、ジンの脳天をとらえた。
「あわて過ぎだ。落ち着いて我の話を聞け」
「す、すいません……」
「そもそも、貴様は何者だ?」
「あ、勇者パーティーの召喚士をやってる、ジンと言います」
「なにい? では先日、軍団長の『獣王シロコダイン』と『不死身のユンケル』を倒したのは貴様らなのか?」
「あー、2人ともバカみたいに打たれ強かったんで、24時間戦ってましたね」
「それは、ユンケルではなくリゲインだと思うが、まさか勇者の仲間に召喚されるとは思いもよらなかったぞ」
「それはこっちのセリフですよ。まさかラスボスを召喚してしまうなんて……」
ジンとオメガバーンは、揃って頭を抱える。
「まあ良い、汝は我に何を望む? どんな願いも、我の出来得る限り叶えてやろうぞ」
「じゃあ、『超魔王オメガバーン』をぶっ倒して、世界を平和にしたいです」
「貴様、本人を前にして良くそんな事を言えるな」
オメガバーンが不死鳥を象った炎の魔法を放とうとすると、ジンは慌てて部屋の隅っこに逃げ隠れる。
「えーっ、どんな願いでもって言ったじゃないですか!」
「ダメに決まっておるであろうが。ビビリなのか、肝が太いのか分からん奴だな」
「じゃあ、勇者パーティーに目にモノ言わせて、鼻を明かして、開いた口がふさがらないようにしてやりたいです」
「急にどうした? 貴様も勇者パーティーの一員じゃないのか?」
「実は、これには色々とありまして……」
ジンはオメガバーンに、自分が勇者パーティーをクビになりそうな事を話す。
「そんなにモメるぐらいなら、いっそなろうテンプレみたいに辞めてしまえば良いのではないか? やめるにやめられぬ事情があるのか?」
「いやあ、これが勇者パーティーに在籍しているだけで商店街の買い物が3割引に、あと老後に勇者年金がもらえる予定なので、やめるにやめられないんですよ」
チャリーン!
「ずいぶんと俗物的な理由だな。しかし、勇者パーティーといえば、強大な敵を仲間の絆とチームワークで撃ち破ってきたのではないのか? なぜ、そこまでこじれる事になった?」
「こないだ、『バハムート』と間違えて『カラムーチョ』を召喚したからですかね?」
「それはまあ、怒るだろうな」
「久々に食ったらすげえ美味かったんで、今度買ってこようと思ってます」
「そういうところじゃないのか?」
ゴンゴン!
そこへ、乱暴にドアをノックする音が。
『おい、ジン! カギを開けやがれ!』
「む、誰か来たみたいだな」
「げ、マズい! ステップだ!」
「ぬぬっ、『魔法使いステップ』か?」
『開けねえなら、爆発魔法でブチ壊すぞ!』
「ラスボスを召喚してるところを見られたら、僕のクビが飛んでしまう! どうにかごまかしてもらえませんか?」
「それが、主の望みならば叶えてやろう」
ガチャッ!
ジンが扉を開けると、そこには短髪にバンダナを巻いた、魔法使いらしく軽装の男が立っている。
「や、やあ、ステップ。ごきげんよう」
「ゴキゲンな訳あるか! まだ、お前をクビにする話は終わってねえぞ……って、なんだその美少女はーっ!」
「!?」
ジンが振り向くと、頭の両サイドに黒髪ツインテールを下げた、メイド服を纏った巨乳美少女がいた。




