欠地伯の迷宮放浪記
おそれながら、読者諸君はご存知だろうか。
私たちが住まう、広大無辺に見えるこの世界を、『狭界(セカイ)』と呼ばう者たちがいることを。
ただ、どうかすぐには目くじらを立てず、この先を聞いていただきたい。
そのように呼ぶ彼らは、今より数世紀以前、読者諸君のご祖先方の傍らにもきっと親しく寄り添っていたはずなのだから。
むしろ私たちが、彼らのいう『狭界』に暮らす私たちの方が、彼らを忘れ去りつつあるだけなのだから。
かつて、ある叙述家は彼らを指して、『迷い彷徨う、かの人々』と書き記した。
しかし、彼らの実像は当時既にして誤解を多く孕み、今となっては風化しつつある。また、真実はただ忘れ去れられるばかりではなく、形を変えて奇妙に語り継がれつつある。
現代の読者諸君におかれては、彼らのことを昔話の中に現れる出自不明の奇人、あるいは寓話的な役割を果たす精霊の化身と見なす向きも多いようだ。
しかし、彼らは決してそうではない。
実際には、今もなお私たちと同じように生き、ただ私たちとは少し違う生き方を続ける人間そのものなのである。
彼らは『迷宮』という、(この『狭界』に住む私たちからしてみると)奇妙奇天烈・摩訶不思議な行路をさすらい続ける、恐れを知らない旅人たちだ。
『荷背(カゼ)』。
彼らは自らを、そのように呼び表す。多くの場合、そのような人生に誇りをもって。
私はその中でも、とびきりの誇りをもって旅した1人の『荷背』について、皆様方にご紹介すべく、この書を編んだ。
かの者のあだ名は、『欠地伯』。
伯爵と名乗りながらも、その所以たる封土を持たなかった、旅する男。
是非、この奇妙な貴族の旅路を楽しみながら知っていただきたい。
最後に、本書の刊行にあたって、次の人々に最大級の感謝をささげたい。
まずは、この風変わりな伯爵の「紳士ぶり」を余さず書き留めておいてくれた、伯爵御付きの記録者たちに。
次に、本書の刊行際して多大なご助力をいただいた、ガラサン出版合同会社、マジナ高等学問所付属文書蒐集館、『自由学院』の勇気ある某教授といった方々に。
そして、原稿執筆のため、私からリンゴ酒を取り上げて、部屋へカンヅメにした若き友人リダ・マーガスタンに。
※この小説は「カクヨム」様でも掲載しています。
私たちが住まう、広大無辺に見えるこの世界を、『狭界(セカイ)』と呼ばう者たちがいることを。
ただ、どうかすぐには目くじらを立てず、この先を聞いていただきたい。
そのように呼ぶ彼らは、今より数世紀以前、読者諸君のご祖先方の傍らにもきっと親しく寄り添っていたはずなのだから。
むしろ私たちが、彼らのいう『狭界』に暮らす私たちの方が、彼らを忘れ去りつつあるだけなのだから。
かつて、ある叙述家は彼らを指して、『迷い彷徨う、かの人々』と書き記した。
しかし、彼らの実像は当時既にして誤解を多く孕み、今となっては風化しつつある。また、真実はただ忘れ去れられるばかりではなく、形を変えて奇妙に語り継がれつつある。
現代の読者諸君におかれては、彼らのことを昔話の中に現れる出自不明の奇人、あるいは寓話的な役割を果たす精霊の化身と見なす向きも多いようだ。
しかし、彼らは決してそうではない。
実際には、今もなお私たちと同じように生き、ただ私たちとは少し違う生き方を続ける人間そのものなのである。
彼らは『迷宮』という、(この『狭界』に住む私たちからしてみると)奇妙奇天烈・摩訶不思議な行路をさすらい続ける、恐れを知らない旅人たちだ。
『荷背(カゼ)』。
彼らは自らを、そのように呼び表す。多くの場合、そのような人生に誇りをもって。
私はその中でも、とびきりの誇りをもって旅した1人の『荷背』について、皆様方にご紹介すべく、この書を編んだ。
かの者のあだ名は、『欠地伯』。
伯爵と名乗りながらも、その所以たる封土を持たなかった、旅する男。
是非、この奇妙な貴族の旅路を楽しみながら知っていただきたい。
最後に、本書の刊行にあたって、次の人々に最大級の感謝をささげたい。
まずは、この風変わりな伯爵の「紳士ぶり」を余さず書き留めておいてくれた、伯爵御付きの記録者たちに。
次に、本書の刊行際して多大なご助力をいただいた、ガラサン出版合同会社、マジナ高等学問所付属文書蒐集館、『自由学院』の勇気ある某教授といった方々に。
そして、原稿執筆のため、私からリンゴ酒を取り上げて、部屋へカンヅメにした若き友人リダ・マーガスタンに。
※この小説は「カクヨム」様でも掲載しています。
プロローグ:今は綴られし、いつかの伯爵
嵐の夜の農夫がごとく
2021/08/09 21:00
(改)
原稿と伝文
2021/08/09 21:00
(改)
闇の中の文書蒐集館
2021/08/09 21:00
(改)
『記述者』キュリオーネ
2021/08/09 21:00
(改)
2つの名
2021/08/09 21:00
(改)
キュリオーネの苦悩
2021/08/10 17:00
(改)
物語のはじまり
2021/08/11 17:00
(改)
第1話:その青金は奇貨なるや
飲み屋での一悶着
2021/08/12 17:00
(改)
伯爵と嘲笑
2021/08/13 17:00
(改)
荷背の二人話
2021/08/14 17:00
(改)
老爺の話
2021/08/15 17:00
(改)
片足貴族との邂逅
2021/08/16 17:00
(改)
理髪店にて
2021/08/17 17:00
(改)
真夜中の再会
2021/08/18 17:00
(改)
急襲と裏切り
2021/08/19 17:00
(改)
共謀者たち
2021/08/20 17:00
(改)
伯爵の流儀
2021/08/21 17:00
(改)
出立の時
2021/08/22 17:00
(改)
第2話:誰がために鐘は潜む
夕映えの水面
2021/08/23 17:00
(改)
岸辺の少女
2021/08/24 17:00
(改)
魚鱗細工
2021/08/25 17:00
(改)
市場にて
2021/08/26 17:00
(改)
領主と父
2021/08/27 17:00
(改)
潜水鐘
2021/08/28 17:00
(改)
禁忌に挑む
2021/08/29 17:00
(改)
銀箔の星空
2021/08/30 17:00
(改)
網魚の禍
2021/08/31 17:00
(改)
目端の利き
2021/09/01 17:00
(改)
罪と償い
2021/09/02 17:00
(改)
禍の正体
2021/09/03 17:00
(改)
別れの夕べ
2021/09/04 17:00
(改)
第3話:禁じられた美酒
塵山と歓迎の街
2021/09/11 17:00
(改)
禁欲の教義
2022/03/21 14:14
ルーリエの手仕事
2022/09/12 21:58
欲さざる人々
2022/09/16 23:06
渇する眼
2022/09/22 23:18
路地裏の取引
2022/09/30 22:10
もぐり酒場
2022/10/10 21:53
(改)
篤信者メラウ
2022/10/25 01:14