第4話 片手剣トレノ
「今日はもう早めに夕飯にしねぇ? おれ、腹減った。」
急にジエロが言い出した。
「確かに、あたしもお腹空いたぁ。」
ノヴァもお腹を押さえて言う。
「今日は、長く話してたせいで昼飯が食べられなかったしな。」
「よーしっ、それじゃあボクの特製料理、振舞ってあげるよ〜。」
張り切ってラフが言う。
「待ってましたぜ、ラフ料理長!」
「楽しみ!」
「ラフの料理も久々だな。」
「あ、そーだ。」
「ん、どした? ライト。」
「オレ、ここの武器屋に用があってさ。ちょっと行ってもいいか?」
「おう、いいぜ。早めに戻ってこいよ。飯がなくなる。」
「料理が出来るまでに戻ってくるから!」
と言って屋敷を出る。
さっきノヴァが言ってた『ジョンの武器屋』ってとこ行ってみっか。
なんかジョンって名前聞いた事あんだよな〜。
誰だっけ? 思い出せん。
「……なあ、おまえらさっきのライト見たか……?」
閉じたあとのドアを見つめながらジエロが言った。
「うん、見た。」
「ん〜、何が〜?」
1人ラフがキョトンとしている。
「私が、先代国王の話をした時のことか?」
「ああ。その時のアイツの目、右目だけ黄色に変わったんだよ。しかも、まとっている魔力が強くなった気がした。」
「いや、気のせいじゃないぞ。あの時、超能力を使ってライトの能力をみてみたんだ。
レベル70、魔力240、武力314だった。その後すぐに戻ったけどな。」
「元の全部2倍じゃねーか!!」
ジエロがちょっと顔を青くしている。
するとハッとしたようにノヴァが言った。
「あの時と、一緒だ。」
「あの時って〜?」
「ここにくる途中私達魔物にあって、あたし、あと一歩でやられるって時に助けてくれたんだよ。『オレの仲間に手を出すな。』って。目は見てないけど、すごく怒ってた……と思う。」
「怒ると強くなっちゃうんだね〜。」
「ライトっていったい何者なんだ?」
「分からないが、何かすごい力を隠していることと、何らかの理由で先代国王と関わりがあるようなのは分かったな。」
オレは人に道を聞きながら、『ジョンの武器屋』に着いた。
なかなか雰囲気ある店だな。
カランカラン
ドアを開けて店の中に入ってみる。
すると気前の良さそうな、男の人が立っていた。
「らっしゃい。」
オレは並んでいる武器を眺める。
「ボウズは何の武器が欲しいんだい?」
ボウズって、呼ばれたの何年ぶりかな。
「えと、オレ片手剣を探してんだけど……。」
「ん? そのネックス…左目横のほくろ……。おまえまさか、レビンのボウズか? 大きくなったなぁ! だが、なんでここに……?」
「ん? そうだけども……。誰だ? にいちゃん。」
「うーむ。なんせ6年前だもんな……。これ見ても分からんか?」
と言うと、右腕を見せた。
「この斬られた傷痕……ジョン兄?」
「そうだよ。思い出したか? ずーっとボウズの訓練受けてやってたジョンだぜ?」
「ホントにジョン兄だ! 久しぶりだなー。ちょっと老けた? こんな店やってたのかー。」
「意外と軽いな。感動の再会だってのに。あと『老けた?』ってなんだよ。」
「いちいちカンドーなんかしてられっかよぉ。……その傷痕まだ残ってたんだな。悪い。」
「ああ、もう消えんな、こりゃ。しゃーない。」
ーーその傷はオレが訓練の途中で付けてしまったもの。
確か5歳だったかな。
「よーし、ボウズ。かかってこいっ。」
「おしっ。今日こそオレの強さを見せつけてやるぞ。」
「おう、ジョン。まーたその小僧に剣術教えてんのか?」
と通りすがった男が話かけてきた。
「ああ、コイツが訓練してくれって言うからな。」
「まぁ、雑魚な魔物1匹でさえ倒せないダメダメ野郎にはそれくらいが十分だな。」
と、ジョンと知り合いらしい男は嘲笑した。
「何だと?」
「いいんだ、いいんだボウズ。俺は事実ダメダメだしな。」
「いや、許さねぇ。ジョン兄を侮辱したヤツはオレが許さねぇぞ!」
「許さねぇだぁ? 何生意気言ってやがるこの小僧。所詮ガキに、何が出来る?」
オレは怒りに我を忘れて、剣を抜いていた。
「おいっ。ボウズ! やめるんだっ。」
危険を感じたジョンは叫んだが、もうその声は届かない。
オレは相手に向かって剣を振り下ろしていた。
ザンッ…………
「…痛てぇ。もう、やめろ。」
「……!?」
目の前で怪我をしているジョン兄を見て、オレは我に返った。
ジョン兄が男をかばって立っていたのだ。
「あ、あいつやべえ!」
と言って男は逃げていった。
「ごめん。なんかオレ、怒りすぎてよく覚えてないけど、その怪我オレのせいだよね?」
そう言うと、あとからあとから涙がこぼれてきた。
「大丈夫だ。なんて事ねーよ。めっちゃくちゃ痛かったけどな。次は無しだぞ。」
と、ちょっと愚痴りながらも泣いているオレを抱きしめてくれた。
でも、次の日会いに行ったら、結局何針か縫ってた。
やっぱり。
相当痛かったはずだ。
あれから、ずっと反省してる。ーー
そーいや、何でジョン兄はダメなふりをして、勇者の仲間に入ろうとしなかったんだ?
確か誘われた事あったよな?
本当はスゲー強いのに。
「単純に何かを倒すのが、性に合わねーんだよ。例えそれが魔物でもな。それより、ボウズ。別れてから6年経つが、怒りのコントロールは出来るようになったのか?」
「うーん。ゲームの外の世界では、あんまり怒らないようにしてたから滅多になかったけど、ここ来てから2回も怒った。」
「2回もか!? 誰も傷つけてないよな?」
「それは大丈夫。1回目はゴブリンぶっ飛ばしただけだし、2回目は抑えられた。」
「へーぇ、抑えられるようになったのはよかったなぁ。おまえ滅多に怒らないクセして、大事な人がバカにされたり、傷つけられたりするとめっちゃ怒るからな。けど、ゲームサイド・ワールドでは有効に使えるようにしておいた方が良いんじゃねーか?」
「分かってるよ、ジョン兄。そこは、いずれ考えようと思ってたとこ。さて、本題に入ろうか……。オレが王国を出る時に置いていった剣、預かっててくれてるだろ?」
「当たり前だ。六宝だしな、いつか高値で売ろうかと………」
「売るなよ!!」
「ウソだよ、ウソ。本当は大事にしまってあるぜ。ちょっと待ってな。」
ジョン兄は店の裏側に入って行った。
良かった、ジョン兄が持っててくれたんなら安心した。
かれこれ6年間剣に触れてもいないけど、大丈夫かなぁ。
それから少しして、ジョンが1本の剣を持って戻ってきた。
「はいっ! これぞ、片手剣の中の片手剣!〝六宝 片手剣トレノ〟お安くしとくぜ?」
「いい加減にしろっ! オレのじゃっ。」
その剣は剣身が白で、柄が水色、黄色の宝石が柄頭に付いている。
うん、どこからどう見てもオレの剣だ。
「メンテナンスは俺がバッチリしてあるから安心しろ! おまえのことだから絶対戻ってくると思ってた。」
「ありがとなっ。大事に使うぜ!」
オレはトレノを受け取った。
「まぁ、オレの意図で戻って来た訳じゃないんだよな。ノヴァってヤツここに来たことあんだろ。」
「ああ、ノヴァちゃんならよく遊びにくるよ。」
「アイツが無理やりオレをここに連れて来たんだよ。で、色々あってな、帰るどころじゃなくなった。」
「ははっ、やるねぇあの子。じゃあ、ノヴァちゃんの仲間と一緒に旅に出るんだな? それは心強いぞ。なんせあいつら、全員六宝持ってるぜ。」
「え、みんな六宝のどれかを持ってるの? てか、いまいち〝六宝〟ってなんなのか分かってないんだけど。」
「それは、直接仲間に聞きなよ。俺からは話さないぞー。長くなってめんどくさい。」
「もったいぶるなよー。まぁ、後で聞くことにするか。そう言えばジョン兄は人間族のこと悪く思ってないみたいだな。聖戦の1週間前、どこにいたんだ?」
「1週間前? うーんと……あ、山の奥の方にある小さな村に商売しに行ってた。長いしちまったし、遠かったのもあって俺が戻った時には聖戦も終わってたんだ。」
なるほど。
みんながみんなバグっちまった訳じゃないんだな。
「……なあ、オレの母さん元気か?」
「ん、元気だぞ。おまえだって会いに行こうとすれば会いに行けるだろ?」
「んー。まだ会えそーにないや。迷惑かけたくないしな。あと、オレがゲームサイド・ワールドに来てる事、言わないでおいてくれるか?」
「この、お人好しめ。でも確か今、おまえの妹が色々調べてるらしいぞ、バグとか何とかって言ってたな。じっとしていられない性格は兄妹そっくりだな。」
「え、妹が? なかなかやりおる……。」
「ま、おまえのやるべき事が終わってからゆっくり話せばいいよ。俺にも冒険の話、聞かせてくれ。」
ジョン兄はそう言うとニカッと笑った。
「今日は、色々ありがとな。また来るよ。」
「またなっ! 頑張れよ〜。」
オレは別れを告げてみんなのいる屋敷に戻っていった。
「ただいまー。」
帰ってくると、なんだかみんな忙しそうだ。
「お! お帰りライト。もうすぐ飯、出来るってよ。」
と、テーブルの上を片付けていたジエロが声をかけてくれる。
「おーい、こっち手伝って〜。」
奥からラフの声がする。
「今行くー。」
「ちょっと待て、おまえって料理出来るか?」
ジエロがオレを引き止めた。
「料理? ……全くダメだけど。」
「あー、じゃあ……気ぃ付けろよ。」
ジエロは苦笑いした。
ん、なんでだろ。
声がした方に行くと、そこはキッチン。
ラフを中心に、女子2人が手伝いをしている。
うわぁ〜、スッゲーいい匂い!
「はい、ライトこれ持ってってぇ。」
「はーい。」
「あと、これも持っていってくれ。」
「おう。」
「はいこれも! 終わったらすぐ戻ってきてね〜。」
「わ、分かった……。」
一度に渡された料理の量が尋常じゃない。
これ、運ぶの大変だぞ……。
なるほど、気を付けろの意味が分かった。
忙しすぎる……。
やっとのことでテーブルまで運んでくると、ジエロが渋い顔をして話しかけてきた。
「料理が出来ないヤツの扱い雑だよな……。でも、今まで1人だったから仲間が出来てちょっと嬉しいぞ、おれは。」
「いつもこんななのか? ジエロも大変だな。」
「2人とも早く〜‼︎」
ウッ。
はぁ、2人でと小さくため息をついて、キッチンに向かった。
「ハイッ!みんな召し上がれ〜。」
おおー。
スッゴい、うまそーだ!
テーブルの上には何品もの料理がのっている。
だいたいオレらで運んだんだけど。
『いただきまーす。』
「あのさぁ、ラフ。これちょっと多くねーか?」
ざっと10人前くらいは絶対にある。
「余ったりとか、しない?」
「あ〜、それは無いと思うよ〜。ジエロとノヴァがバカみたいに食べるから〜。ほら。」
ラフが2人を指差す。
「あぁ! ジエロちょっと取りすぎだよぉ。ずるい!!」
「早いもの勝ちだろ? ブーブーうるせーぞ?」
ラフが指さした方を見ると、ジエロとノヴァが競争と言わんばかりに食べている。
2人とも掃除機みてーだ。
素晴らしく騒がしい食事だな……。
父さんと2人暮らしのオレには考えられない。
「……そんな心配より、自分の食べる分確保しないとヤバイっことだな?」
「そうだぞ。私は1回、魔力の研究で15分だけ夕食に遅れた時、ほとんど食べられなかった。」
たった15分で……!
オレは腹いっぱい食べたいよ!?
念のため、食べれる分だけのせておこう。
「あ! ちょっ!! 今なんでわざわざオレの皿から取ったの!?」
テスト勉強してたら、こんな時間になってました!
課題が終わらない!
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誤字、脱字等ありましたら、ご報告していただけるとありがたいです。
来週も土曜日に投稿します!出来るだけ21時前には投稿したい。