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天狗最強→妖狐の異端児  作者: 時雨笠ミコト
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朱華

(*'▽'*)

 予想外にあっさりと勝ててしまった現状に驚き思考停止していると、向こうの方からざわめきが聞こえてきた。

そしてそれはだんだんと大きくなっていく、どうやら発生源がこちらに近づいてきているようだ。

複数人の大人がぞろぞろと、しかも本気で全力疾走しながらこちらに近づいてきている。何があったんだ、と思ってから気がついた。

どうやらその大人たちは、少し先を楽しげに走る女性を追いかけているらしい。

私から見てもやたらめったら足が速いその女性は、かなり距離があったがものの数秒でこちらに到着した。

後を追う大人はどうやら兵士のようで、全身に筋肉がついているにも関わらず、下手をすれば平均より細身なその女性にかなり遅れて到着した。

しかも、件の女性が息一つ乱していないと言うのに、後続の大人たちは肩で息をしている。

「楽しそうなことしてるねぇ、こんにちは子供たち!少しお話してもいいかな?」

「しゅ……ッ、朱華(しゅうか)様!ゼェ、軽率な行動は、謹んでください、と、ハァ、言って……ハァ」 

 言えてないですよ、死にかけの魚みたいになってますけど大丈夫ですか。

「あはは、息切れ凄いよ?ちゃんと鍛えとかないと。持久力がないのは戦場では命取りだって教えたでしょう?」

「これがッ!ハァ、平均…ッゼェ、です!」

「あ、そう?まあ良いか。軽率な行動ではないよ。後継者を育てるのも大切な仕事でしょう?」

 ね、と一音添えてから、朱華と呼ばれた女性はこちらに向き直った。

なんとも見事で美しい白い毛並み。

金や茶色に続いて多い色合いではあるが、彼女の白は『純白』が最も似合うと思えるほどに混じり気のない、真雪のような白だ。

それに反して主張するのが、赤…と言うよりも、名の通り『朱い』双眸だった。

他人を優しく受け入れるような温かな色ではあるが、えも言われぬ威圧感を放っている。

顔の造形は美人というより、懐っこい顔だ。

顔のパーツはそれぞれ整っているので美人の類ではあるのだが、もれなく丸みを帯びているので『美人』という印象がなかなかやってこない。威圧感は与えないし人好きされるので、良い意味で奇妙な感じだ。

「そこの黒い毛並みの君!」

 ずびし、と効果音が出そうな勢いで指をさされた。一応自分か?という意味を込めて自分自身を指してみると、「うむ!」と満足げに頷かれた。

まあ黒い毛並みって、私しかいないから当然ではあるんだけども。

「さっきの試合良かったよ、上手く完封してたね!まだ妖術は慣れてないみたいだけど、その分拳に纏わせるっていう発想で補完してたみたいだし」

「ありがとうございます」

 いったいどこから見ていたのだろうか、と言うか見えていたのか。相当離れていたと思うのだが、目が良すぎないか。

「朱華さん!俺コイツがそんなに凄いことしたと思えません!足払いとか体制崩したりとか、せこい事ばっかだし。それに拳に炎を纏わせるとか、炎術が使いこなせてないだけですもん!」

 どうやら少年はご不満らしい。その評価異議ありと真正面から述べてみせた。

まあ実力が発揮できないまま速攻で終わらせたから、気持ちが察せないでもないが。

その訴えを受けて、朱華さんは首を捻った。一度その言葉を受け止めてから、自分の中で吟味しているらしい。

その様子を見て、少年が目を輝かせる。

そして私の方を見やり、ふふんと鼻の穴を膨らませてみせた。

多分「評価が考え直されてるぞ!俺の方が強いんだ!どうだ、悔しいだろ!」

とでも言いたいんだろう、だってガッツリ顔に出ている。

たっぷり数十秒考えてから、けろりと朱華は言った。

「だって戦場は生き残った者勝ちだよ?」

 少年は膝から崩れ落ちた。どんまい。

でも実際そうなのだもの。卑怯であろうと非道徳的であろうと、勝てば官軍負ければ賊軍。生き残った者が勝ち、勝者によって歴史は作られる。

様式美とか正々堂々の精神とかで死んでは元も子もないのだから。

「それにねぇ、相手に本来の力を発揮させないまま一方的に勝負を終わらせるって言うのは、平和的解決の次に目指すべきものだし、下手に使えない方法を貫くよりは、どれだけ不恰好でも自分が確実に使えるものを選択するのが基本だよ」

「だって!」

 不服を隠すつもりもなく言い募ろうとした少年に対し、首を傾げながら、先の言葉を潰すように、朱華は言った。

「じゃないと死ぬよ?」

「ッ!」

 一瞬だが確実に感じた、殺気……と言うよりは死の気配に近い威圧感。

反射で臨戦態勢を取ると、それに気づいた朱華が慌てて態度を取り繕った。

「あああ、ごめん、ごめんね!つい戦場にいる時の癖で!わざとじゃないし害も加えないから皆怯えないで!」

 ガラリと雰囲気が変わり、先程の威圧が嘘のように、懐っこい顔の白い妖狐だけがその場に残る。

白拾の時には片手で数えるくらいしか感じなかった、明確な死の気配に私も内心怯えている。

「えーと、あ、そうだ。知らない人もいるかもだし改めて挨拶しとくね。私は、我ら妖狐の長、九ノ尾(ここのお)の側近、四牙のうちひとつ守牙(しゅが)朱華(しゅうか)。絶賛後継者募集中」

 最後の一言に、周りの人がざわめく。彼女についてきた大人に至っては、ボロボロ泣きながら「嘘でしょう?嘘だと言ってください!将来現役だと誓ってください!」と喚いている。

対してその言葉を発した張本人は落ち着いていて、しれっと縁起の悪いことを言い連ねていった。

「無理だよそんなのー。不老不死でもないんだし、守牙なんて危険すぎていつ死ぬか分からないし。後釜は育てとかないと」

「朱華様〜!!!」

 駄々っ子か、と思えるレベルで嫌だ嫌だと態度で示す大人たち。

多分もう慣れてしまっているのだろう、朱華は容赦なく無視してこちらに言葉を投げかける。

「他の四牙は違うみたいだけど、私は完全実力主義だから。私より強い子がいたら喜んで『守牙』の位を明け渡すよ。常に人材募集中だから是非来てね〜……とまあ、1番のお目当ての君は来てくれそうにないんだけどね」

 私の方を見て残念そうに呟く朱華に驚き、立ち上がる。

私が明らかに動揺したのに気がつい朱華は、慌ててわかりにくい補足を入れた。

「ごめんね、怖がらないで!あなたが来そうにないなぁ、って言うのは、あなたの気配とか目線を見て判断しただけだから!経験則だから!」

 何気にとんでもないことを言ってる自覚あるのかこの人。ないんだろうなあ多分。

「ま、気分が変わったらいつでも来てね!実力ある子は大歓迎だから!」

 それだけ言い残して、嵐のように去っていった朱華。

なんか怒涛の勢いで色々起きたが、分からないことが多すぎる。

取り敢えず、妖狐の山の制度などについて、もう少し知識を蓄えようと思う。

( ^ω^ )

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