死亡フラグ(仮)
私は今、養成所の建物には入らず、青空教室状態で先生の話を聞いていた。
口調や態度が明るく朗らかな先生が、手を口に当てメガホンにしながら、子供達に声をかける。
「さーて、みんな集まったね!じゃあまずは自己紹介……と言いたいところですが!最初は2人1組で実戦型試合といきましょう!」
おい嘘だろ。いやまあ、実践主義は良いと思うけど、最初はまず自己紹介だろう。
あれか、昨日の敵は今日の友形式で仲良くなれるって考えたのか?無理だろ。
まあせめてもの救いは、相手を選べることだろうか。
今戦っても根に持たず、あわよくばそれをきっかけに交友を持てそうな、大らかな感じの子と組みたい。
そう、大らかかつ、問題が起きなそうな子と……
「おい!さっきの真っ黒毛玉!」
お前はお呼びじゃねええええええええ!
なんで来るの?なんで来るの!?
私は『大らか、かつ、問題が残らなそうな子』と組みたいんだよ。正反対でしょ君!そして絶対に「昨日の敵は今日も敵」になるのが見え透いてるんだよ、嫌だよそんな不毛な相方!
「……」
無視無視、取り敢えず無視。黒い毛並みとか私しかいないけど、私今突発性の難聴のせいで何も聞こえてないので。
「おい!そこの真っ黒毛玉!お前だよお前!」
聞こえないですねちょっと……色々失礼だからしばき倒したいけども、聞こえてないから無かったことにしてあげるよ、喜んで良いよ?
「おいって!」
「イッタ…」
思い切り髪を引っ張られる、なんだろうかこのデジャヴは。
そして貴様、髪は女の命なんだよ?
私あの怒ると般若な人の子供なんだけど、激怒を正面から受け止める覚悟できてるんだね?
「先生!ルールってなんかありますか?」
そんな私の心中などいざ知らず、呑気かつ元気に先生へ質問をぶつける少年。
先生はにこやかな笑顔を保ったまま、中々に刺激的な事を言った。
「ルールは殺生禁止、重症になりそうだったら強制的に静止が入ります。他は特にないからね。道具、格闘、妖術なんでもありの一騎討ち」
「はーい!」
ほほお、良いこと聞いた。と、言う事はですよ。先生の静止が入るまでは何しても良いってことですよね?
「じゃあ、あなた達が第一試合!お手本としても、ぜひ良い試合をしてね」
とんとん拍子に事は進む。変にグダグダするよりは遥かに良い。
子供同士のオリエンテーションだとしても、仮にもこれは一騎討ち、
ならば、それ相応の敬意を表そう。たとえ相手が乙女の命をふん掴む、敬意を表するには本来足りぬ相手だとしても。
膝を下り一礼、そして顔を上げて名乗る。
「紅玉と申します」
先生が感心したように頷く。うん、やっぱり一騎討ちの際の作法は共通しているらしい。あとは相手が返してくれれば完璧なのだが……。
「……?」
返っては、来なかった。逆に首を捻っている。もしかしなくても知らないのか。
「何言ってんだお前」
しかもめちゃくちゃ失礼な事をほざきおった。こっちが半ば無理矢理敬意を払ってやったと言うのに。
「……OK、そうなのね」
妖術だけならともかく、何でもありなら実力差は大幅にある。
格上はどちらなのか、思い知らせてやるとしよう。
元完全実力主義社会の天狗のトップなめるなよ。