死に物狂い
父親の猛攻を退ける……正しくは、逃げ回ること数分間。
父親的には「俺の力を注ぐ」「よろしくお願いします」「うおおおおお!」みたいなノリを期待したのだろうが、私は全力で逃げ回っていた。
いや、私のためを思ってくれてるんだし素直に直撃しようと思ったよ?……3秒くらいは。
でも悟ってしまった、あれは無理だ。
私は今全盛期(白拾時代)に比べて大幅に弱体化している。
どの力をどう使えば上手くいくという、長い時間をかけて体に刻んだ感覚が帳消しになったのだから仕方ない。
火薬も武器も、適切な使い方を理解していなければ本来の威力は発揮できない。
だから逃げる。だって、下手すれば死ぬ。
流石に享年3歳未満は洒落にならない!
「どうして逃げるんだ紅〜!?」
「あぶえええええ!(あぶねええええ!)」
結果、娘に逃げられたため悲しくて涙を流す父親&純粋に死の淵に立たされて泣き叫びながら逃げる赤ん坊、と言うシュールさ極まる絵面が完成した。
因みに庭でやっているのだが、火災が起きる気配は一向にない。
理由は単純、ママンが徹底的に相殺して無効化している。ママン強い。
「あ、紅ちゃん。一つお母さんからアドバイス」
「ばぶっ!?」
逃げ惑いつつも、ママンの言葉にはしっかりと耳を貸す。大体超大事なことをサラッと言うから、こういう時聞き逃してはいけない。
「流すんじゃなくて、破裂させてみなさい」
流すのではなく、破裂させる?
それは多分、妖力の話だろう。
私のイメージ…と言うか癖?を見極めて言ってくれたとしたら。
破裂…破裂破裂破裂…破裂かぁ。
「紅ー!」
あ、ヤッベェ長考してる暇ないわ。
拳に炎を纏わせながら突進してこないでくださいお父さん、死んでしまいます!
私よ、死にたくなければ叩き込まれる前に言われたことを実行しろ!
「んー、うっ!」
ポンッ
言われた通り破裂、と言うよりは爆発をイメージして妖力を使ってみたところ、手の中に火種が生まれた。
嘘でしょ、たった一言聞いただけで前代未聞の偉業成し遂げちゃったよ。
いやでも火ぃ小っさいな!?
うーん、微妙!
「紅ぃぃぃぃ!パパはできると信じてたぞぉぉ!」
いやこれでいいんかーい。
本当に残念イケメンだなぁ、うちのお父さんは。
鼻水まで出すんじゃありません、折角の顔面が台無しじゃないか。
まぁ、良いお父さんだとは思うけどね。
ママもうんうん、と楽しそうに頷いている。
もしかしなくても想定通りですか?ママン侮り難し。
「嬉しい?紅ちゃん」
どっちかと言うと死にかけた精神的疲労が大きいですママ。
さて、炎術は突破。次は5歳になったら学校だね。