白拾
遥か昔、天狗と妖狐が戦争を行った。
理由はひどく単純なもので、『どちらがより強いかをハッキリさせるため』と言うもの。
その戦争は、何の偶然か双方の種族の長が同時に絶命し、指導者を失った事で自然と終息した。
時の流れとは恐ろしいもので、もう戦争を体験した者は少ない。
同胞の多くは、戦争の痛みを忘れつつある。
それは同時に、妖狐への恨み辛みも忘れると言う事だ。
だから、私はそれを喜ばしく思う。
(………私は、ね)
さすがに現実逃避に限界を感じ、現実へと意識を引き戻す。
目の前では、お世辞含めれば老齢、お世辞を取っ払えば枯れ木な老人達がギャンギャンと叫び散らしている。
「だから!狐どもに我ら天狗の力を今度こそわからせるのですぞ!」
内容は、妖狐との戦争をもう一度蒸し返そうというものだ。
天狗の長と枯れ木……ゲフンゲフン、ご意見番が意見をすり合わせる定期議会。
ここでは絶対この人たちと話をする必要があるのだが、毎度、建設性がない話を聞かされるのはなかなかにしんどい。
しかもこの戦争再開の話、これが初めてじゃない。
会議のたびにほぼ毎回出てくる話だ。正直そろそろ本当に耳にタコが出来てもおかしくない。
「……褐霰殿、戦争はしないと何度言えば宜しいのですか?」
この無意味な議論をそろそろ終わらせよう、そう思い言葉を紡げば、不満を全面に出してまだ何か言おうとする。
「ですが!」
「今妖狐と戦争をしたところで、何の徳もない。これは長の意向です」
『長の意向』、こちらが放ったその言葉に褐霰という名の血気盛んな老人は黙り込む。
更に駄目押しをして完全に沈黙させにかかる。
「長の意思決定は絶対、それが我ら天狗の掟でしょう」
「…若造風情が」
渋々といった体で引き下がる。
やっと終わった、心の中で思い切り伸びをする。
少し疲れたのが顔に出たのか、横に居た従者がこちらの顔を見た。
「大丈夫ですか?白拾様」
「大丈夫よ、蒼天」
白拾、それが私の名前だ。
本来黒い二つの翼を持つはずの天狗が、何故か白い十の翼を持って生まれた為、こんな名前をつけられた。
そして、現天狗族長の名前でもある。
つまり私が長なのだ。理由は単純、私が一番強いから。
史上最年少、更には他人と違いすぎる外見から、ご意見番たちにはめちゃくちゃ軽んじられている。
「妖狐と戦争はしない。これにて終了する、帰ってくれて構わない」
それだけ言い放って、さっさとその場を発つ。
やっと戦争の傷が癒えてきて交易も回復してきたのに、また振り出しに戻してなるものか。
もう今日は疲れたから寝てしまおう、そう思いつつ帰路を歩いている時、急に体が傾いた。
(…あれ?)
もしかしてこれ死ぬ?なんで?
その理由を示すように、背中が焼けるように熱いことを自覚する。
視界は、暗転した。