92・バトルロープ
『Anyone who has never made a mistake has never tried anything new.』
一度も失敗をした事が無い人は、新しい事に挑戦した事が無い人である。
Albert Einstein
アルバート・アインシュタイン
残念だけど魔法も使えない俺に【気】は早すぎたみたいだ。だが、この失敗のおかげで踏ん切りが付いた。
(仕方ない、物凄く……物凄〜く、気が進まないがトルネードを使うか……)
しかし、意を決してトルネードを放とうにもここは集落の中だ、地面はしっかりと整地されてある。土を掬う事はちょっと難しそうだ、小石ならあるが……小石程度では、あの紫電の防御は突破出来ないだろうーーそういう意味では只の土塊も目眩しにしかならないか……。
連続して投げれる上にナルが魔法を使わざる得ないくらい攻撃力が高い物が都合良く落ちて無いか改めて辺りを見回す。
するとふと視界の端に小屋傍に家畜を繋いでいた綱が落ちているのが見えた。さっきナルの雷魔法が辺りを吹っ飛ばしていた時に家畜小屋でも破壊したのだろう。
「こ、これは……」
思わず駆け寄り手に取る。牛か馬を繋いであっただけあってかなりの太さだ、杭に繋ぎ易い様に先端が少し細くなってはいるが問題無い。
太さは運動会の定番、綱引きの綱くらいだと思ってくれていいーーだが、俺にはもっと……運動会の様な年一行事の時にしか手にしない物では無く…………そう、もっと馴染みが深い太さに感じる。
ーーそうだ! これは……バトルロープだっ!!
バトルロープとはジムにある筋トレ機具の一つだ。二本の重くて長い縄を波打たせるように動かし全身の筋肉をバランスよく鍛えるトレーニングが出来る優れものだ!
俺はロープの太い方を掴むと、試しにとバシッっと鞭打つ様に地面へと打ち付ける。するとまるで蛇が上下する様な動きでロープはその力を先端へと伝えパシンッと地面を弾いた。
「フフフッ馴染む! 馴染むぞ!!」
まさかこの世界で、またバトルロープを手にする事になろうとは! 残念な事に一本しかロープは見つからなかったがーーまぁ良い。
「さあ覚悟しろ! 今度こそ、俺の新しい筋肉魔法を喰らうがいい!」
「ーー筋肉魔法? そんな綱で何が出来るってのさ?」
「ドウセ! マタ! カッコダケダロ!」
俺はロープを両手で掴むと天高く持ち上げーー思い切り目の前の地面へと叩きつけた。
「いけぇッ! 筋肉魔法ロープスラムッ!」
ーーバチーンッ!!
全身の力を込めて打ち下されたロープは硬い地面を打ち据えた!
硬い地面は弾け飛び、辺りに土塊が飛び散った。だがそれだけでは終わらないーー恐ろしい事にこの衝撃は、そのまま大きな波となりロープの先端へと畝りを上げながら伝わってゆくのだ。
ーー土を捲り、石を砕き、空気を震わせる!
「う、わわわっ!」
予想外の攻撃に動揺するナル、自分の背丈よりも高く迫るロープはまるで津波だーー紫電の防御を押し潰したロープはその勢いのまま唸りを上げてナルの横を通り過ぎてゆく。
ーーパーンッ!!
その直後、ナルの左後方で乾いた破裂音が響いたーー
先細りした大綱、それは俺の筋力によって鞭と同様の効果を生み出したーーそう、ロープの先端が音速を越えたのだ!
この銃声の様な乾いた音は、音速を超えたロープの先端が空気を切り裂いて生じた衝撃波のソニックブームであり、物体に当たって生じている音ではない。
ーーつまり、まぁ……筋肉魔法は外れたのである。
「ーー今のはわざと外したんだ……」
だって、こんな威力の高い攻撃をナルに直接当てる訳にはいかないだろう? 多分、頭弾け飛ぶよコレ……じゃあ何で加減しなかったかって?
それは、トレーニーとして自分の限界値は知っておきたいからだよ!
「ナ、ナンナンダ オマエ ハ…………」
ロープが抉った地面はまるで地割れの跡だ、この場を見ていない者はきっと上級土魔法を使用した跡だと思うだろう。
俺が雷魔法の射程内に居るのに反撃して来ない所を見ると、筋肉魔法ロープスラムの破壊力は人形創作者に十分な脅威を与えた様だ。
「イマノ ハ マホウ……ナノカ?」
「そうだ! 筋肉魔法の新技だ!ーーふふん、どうだビビったんだろ? だってお前、ナル使って話すの忘れてるもんな!」
「バ、バカナ! フシ ノ ボクニ キョウフ ナド ナイ!」
「雷電ーーひゃっ?」
ーードタンっ
思い出したかの様に慌てて左手を振り下ろそうとするナルの両足が一瞬で宙に舞うーーもんどり打って背中から倒れるナルの魔法はキャンセルされた。
「おやおや? 最強の雷魔法を全然使いこなせてないねーーこれじゃ宝の持ち腐れだ」
「クソ! クソ! クソ!」
何が起きたかって? 俺は先程は大きく縦に振ったロープを今度は左右に振ったのだ。結果、ロープは大蛇が這うかの如く地面を走りナルの足下を攫った。
ーーこれを躱すには縄跳びの様に連続して迫る綱を飛び越し続けるしか無いが……戦いの最中に地面ばかり見ているわけにもいかないだろう。
それに、常に足下を行き交う綱に気を取られては魔法を制御する為の集中力が散漫になり攻撃どころでは無くなる。
「これぞ筋肉魔法スネイクウェーブ!」
更にこの筋肉魔法、低い位置で左右に大きく腕を振っていくことで肩の筋肉である「三角筋中部」を強烈に鍛えることができるのだ!
「きゃぅっ!」
「クソッ! コンナ ツナゴトキニ!」
必死で立ち上がるナルの足を何度もロープが打ち払らう。一応加減はしているから骨を折る様な事は無いだろうが、こう何度も足を打たれれば立っているのもやっとな筈だーー勿論、反撃する暇などあろう筈も無い。
相手に魔法を撃たせる間を持たせず、足払いで攻撃、そして自分をも鍛る事が出来るーーまさに一石三鳥! 凄いぞバトルロープ! 応用が半端無い!
ーー問題は……負荷が大きすぎて長い時間は出来ない事だ。
俺には2分が限界だった……。
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