89・必殺技
兄貴が一人で集落へと潜入してから30分は経ったーー索敵魔法を使うと、集落の中で慌ただしく人が動いているのが分かる。
「大気を纏しィ 一振りの斧ォ! 鋭い刃と成りィ 彼の者を切り刻めッ 風斧ッ!」
「爆撃ッ!」
俺たちの任務はなるべくこっちにパカレー兵を集める事だ、陽動作戦ってやつだな。
兄貴曰く
「一番重要で目立つカッコイイ役だぜ? 二人には打って付けだな!」
この陽動が上手くいけば、兄貴は誰とも戦闘せず安全にナルを連れて来る事が出来るらしいーーこんな作戦が直ぐに浮かぶなんて、やっぱすげぇなぁ兄貴は!
「ふん、この俺を陽動に使うなどーー全く気に食わんヤツだ」
「じゃあ、ギュスタンも行けばいいじゃねぇか。ここは俺一人でも大丈夫ーー」
「そんな訳あるかっ! 俺の爆破魔法の威力だからこそーーこれだけのパカレー兵が危機感を持って集まったのだ! 俺以外にこの陽動作戦が務まる訳が無いだろうがっ!」
「ーー??? 何だよ、じゃぁ兄貴の采配で良いんじゃねぇか……ギュスタン面倒臭ぇなぁ……」
最初に攻撃していた正門は硬過ぎて手が出なかった、だけど兄貴が防御魔法を解除してくれた西側の壁は俺達の攻撃でも直ぐに破壊する事が出来た。
折角崩した壁は、一瞬黒く染まった後にまた硬くなっちまったーーそれでも急造だからか正門よりはまだ攻撃が効く。俺達の魔法攻撃でも壁は崩れひび割れる!
ーーだけど壁は崩れる前に全部パカレー兵に修復されちまうんだよなぁ……。
「おいっ! もっと速く詠唱出来んのかお前は!」
「何言ってんだよ、この詠唱のカッコ良さが分からないのかーーなぁ?」
この詠唱を溜める感じーー舞台でも一番盛り上がる華だと思うんだよなぁ! 英雄たる者、敵をやっつける時はカッコよく無いとなぁ!
「ふんっ、要するにお前は格好付けたいのだな? ならばーーこんなのはどうだっ?」
ギュスタンは片足を軽く上げ、両手をクロスさせるーーそして上げた足を地面にドンッと下すと同時にその手を今大袈裟に回して前に突き出した!
「爆撃連撃ィッ!!」
ーードドォッーンッ!!
素早く華麗な動き、魔法を放った後の格好に重なる派手な爆発音!
戦隊ヒーローが繰り出す必殺技の様なギュスタンの魔法を見たジョルクの頭に衝撃が走った!
「な、何だそれ……か、カッコいいっ!! なぁ! それ……俺もやってみて良いのか?」
「ふん、やれる物ならやってみるがいい。だが、この素早い振り付けに魔法を合わせるにはスピードのある詠唱が必須だーーお前には出来まい?」
そう、このズバッとした決めポーズに合わせる為にはダラダラと詠唱していては間に合わない。
「で、できらぁ!」
ジョルクは今しがた見たギュスタンの仕草を真似てシュバっとポーズを変えながら魔法を放つ。
「風斧ッ!」
ーーガッン!
「…………何だ、やれば出来るではないか……ふんっ、ではこれはどうだ!」
腰を少し落とし半身に構えたギュスタンは、左手を前方へ突き出す。そして右腕を大きく伸ばしてゆっくりと縦に回してゆく。
「月球爆弾」
回す右手が下に、後に、そして前に伸ばした左手と重なる時ーーそこから発射されるのは直径2Mはある月の様に丸い光の球だ!
「発射ッ!」
掛け声と同時に光の球はギュスタンの手を飛び出したかと思うと、壁へと向かう途中で幾つもの球へと分裂しそれぞれが爆発する。
ーードドドドンッ! ドドッーーン!
「ふんっ、どうだ? この魔法の凄い所は多数の小爆発によって攻撃の跡がまるで月のクレーターの様にーー」
「ーーうおぉ!? お、俺もやるぜ! ハァー風撃ッ! 竜巻ッ!!」
「おい、ちゃんと聞けっ! 俺が説明しているだろうが! 攻撃の跡がだなクレーターの様にーーふん、もういい……爆破連撃ッ!」
ーーガンッ! ドゴーンッ! ゴゴゥーー!!
二人がシュバシュバとポーズを取りながら連発する魔法が遂に集落の壁を破壊する! 二度目の壁の崩落、濛々と湧き上がる土煙が辺りに立ち込め驚愕の声が壁の内側から聞こえてくる。
「やったぜ! なぁ、これで兄貴達も脱出し易くなったよな!」
「ふん、安心するのはまだ早いーー見ろ、新たな壁が生成されていく……出来上がる前に叩くぞ!」
昼に食べたヘルム特製の燻製が功を奏したのか、二人の魔力にはまだまだ余裕がある。
「なぁ! このまま中のヤツもやっちまおうぜ!」
ーーバシュッ
勢い付いたジョルクの言葉を遮る様に二人の足元から黒い棘が突き上がる!
「ーーどけ、ジョルクッ!!」
ギュスタンは咄嗟にジョルクの腕を引き寄せると後へ倒れ込む事でこれを躱す! 棘はジョルクの顎肉を掠り取ると、兜に弾かれ地面に落ちる。
「ーー中のヤツまでやろうって? おいおい、これ以上は勘弁してくれよ。ここの飯は少なくてな、これ以上は俺も働きたくねぇんだわ」
「黒い棘……ふん、貴様が磁力魔法士かーー」
声の方を向くと、タバコを咥え、首を鳴らしながらやる気なさげにヘラヘラとこちらへ向かって歩いて来る男が見えた。
「おっ? 俺の事を知ってくれてるとは嬉しいねぇ。こう見えて俺は傭兵でね、もし雇いたいならギルドに言ってくれよ、まぁ安くはねぇがな?」
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