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8・奇襲


「戦闘を知らない俺が出来る事は何だろう?」


 俺は走りながら必死に考えていた。

元の世界では格闘技を習い、毎年地下闘技場で秘密裏に開催される何でもアリの格闘大会で3年連続無敗のチャンピオン!とかなら良かったんだが、あいにく格闘技など年末にテレビで観戦するくらいだ。


あっ、学生時代に授業で柔道を習ったな。さっきは受け身も取れた様だし意外と体が覚えてるのかも。


(いやバカか俺は!真面目に考えろ…死ぬかもしれないんだ!)


何か武器になりそうな物は…周りを見渡すが都合良く丸太が落ちてる訳もなく…精々、拳大の石が落ちてるくらいだ。


(石投げるくらいじゃ、あの強化してそうな軽鎧には…効果無いんだろうなぁ、せめてナイフでもあれば)


 無い物ねだりを言っても仕方がない、ポケットを探る。


指に当たるのはスマホとパワーグリップ、シェーカーとこれは冷凍熊肉か…。


 泣け無しの勇気を振り絞って戻ってるけどさ、これ、詰んでない?・・・・いや待て、俺にはジムで鍛えた筋肉があるじゃないかッ!『筋肉は裏切らない』んだ!。


 そうだ、このまま相手の背後へ回って奇襲を仕掛ければ一人二人体当たりで吹っ飛ばす事は出来るんじゃないか?

相手の動揺を誘えばあとは彼等が上手くやってくれる可能性が…


ガサガサッ!


「ひぃっ!?」


 相手側の兵士が来たのかとビビったが先程見た猪だ。近くで見ると大きい…2mはある。


不意に猪と目が合う。


「はっ…えっ?」


ーーブモオォッ!


大猪は俺を見るなり、灰色の毛皮を逆立て突進してきた!


それはまるで灰色の砲弾。


直線的に全てを薙ぎ倒し迫るその砲弾には、半端な太さの樹木では盾にもならない。


猛然に獰猛に凶暴に迫る死の凶弾。


咄嗟に横へと転がり躱せたのはマグレだ。


大猪は予想以上の機敏さで方向転換。


鼻息荒く此方を睨み狙いを定めている。


対峙する大猪の圧が半端ないっ!

俺の本能が「逃げろっ!」と頭の中でガンガン警鐘を鳴らす!


凶悪で強烈で残酷な悪意無き暴力。


次弾が荒々しく装填され、銃口は定められた。


「来るっ!ど、どうする!?」


ーーブモォオオッ!


土砂を巻き上げ、一直線に突進する大猪に俺が選んだ逃げ場は空だった。


いつか見た、車に跳ねられても無傷なスタントマン。テレビの中で彼は言っていた。


「コツがあるんですよ」


あれは確か…ボンネットに飛び乗り、回転する事で衝突の力を受け流していた…


ーーウグッ!


頭を腕と手で守りながら草地に転がる。

予想以上の衝撃に空中で何度も回転する羽目になったが上手くいった!


大猪は勢い余って藪に突っ込んでいる!


「流石にっ、二度は無理っ!」


急いで近くの木に登り息を潜める。


(ふえぇ、死ぬかと思った。助けに行く前に死ぬとか格好悪すぎるだろうよ)


大猪はグルグルと辺りを駆け回っていたが、暫くすると落ち着いたのか、地面を掘り餌を探し始めた。


(はー、確か猪は目が悪いんだっけ)


このままヤツが去るまでジッとしている時間は無い、今この瞬間も彼等の戦闘は続いている。


(クッ…勿体無いが仕方が無い!)


俺は熊肉を一つ、大猪の背後へ放った。


すると大猪は背後を振り返り見つけた肉をガツガツ食べ始めた。


(いいぞ、そのまま食べててくれよ〜)


俺はなんとか大猪から逃げる事に成功した。



少し小高い木陰から戦闘の様子を窺う。


 熊の時とは違い、互いに中距離での魔法の撃ち合っているのが見えた。


距離にして100mくらいか…。

帯剣して無かったし、この世界での戦闘は中距離が主なのか?


(良かった、まだ生きてるみたいだ)


 荷車に隠れながら魔法を放つ少女を見て安堵する。が、状況は良くない。


少女を守る荷車には多数の氷柱が刺さり所々崩れ始めている。少し離れた土壁には口髭のおっさんと熊を捌いてた女の子それに小柄な男の子、 残念イケメンは…居ない?


(イケメンのくせにやられちゃったのかッ!?)


 ロープでバシバシ叩かれた事、情けない顔したイケメンの顔…碌な思い出はないが。

見知った顔が死んでしまったと思うと何だか目頭が熱くなる。


とその時、森側に近い場所で魔法を放とうとしていた相手の兵士が急にバランスを崩し倒れた。


彼の足は凍結している!


(あの魔法は残念イケメンの!なんだよ生きてるっ、生きてるじゃん!!)


 どうやら残念イケメンは森の中から敵を攻撃しているようだ。良く見れば相手側の何人かが、目を押さえて蹲ったり倒れ込んでいるのが見える。


(直線的な魔法攻撃は森の中だと木が邪魔して上手く当たらないのか)


 流石!残念だけどイケメンなだけはある。さっきの俺の感情を返して欲しい。


 相手側は練度が高く小隊として正常機能しているように見える。指揮官らしき紅いフェイスシールドをした男が中心となり、詠唱時間を調整し魔法が途切れない様波状攻撃をしているのがわかる。


 怪我人は後方へ回り回復魔法を受けているのが見えるな。


回復魔法がどの程度の回復を促すのかが不明だが、時間経過で復帰する可能性があるのならば戦力差は埋まってないと見るべきか。


 状況を確認した俺は相手の背後へ森の中を移動する。


万が一見つかったとしても、木の影に隠れれば魔法は直撃しない事が残念イケメンを見て判ったしな。


 相手の兵士達は伏兵が居るとは考えてないのか、土壁とイケメンが居る森にばかり気を取られている様だ。


俺は屈みながら道を挟んでイケメンとは反対の森に潜む。


(最初の攻撃の時、俺は荷車に寝て居たから俺の存在を相手側は知らないのかもしれない)


ーー知らないとすれば、コレはチャンスだ。


向こうにしてみれば、俺は全くの予想外の戦力だ。


果たして、ちゃんと戦力になるかどうかは微妙だが…少なくとも相手の動揺は誘えるはずだ、うん。


ーー俺の狙いは後方の回復魔法を使う兵士。


 ゲームでも回復役から潰すのはセオリーだしな。『減らした戦力を復帰させない』為に回復役を潰してその場から離脱するのが今回の俺の目標だ。


見たところ、回復役は二人。

丁度、先程イケメンに足を凍らされた兵士を回復している男が見える。


もう一人の回復役は指揮官の後に控えてる。

戦闘に集中しているのか此方には全く気付いていない。


震えてる足を拳で叩き緊張を解す。

震えてるのは足だけじゃない、体中からの震えは止まらない。


(大丈夫…上手く行く。さっきの大猪に比べれば、なんて事無いはずだ)


「スゥー・・・・・・ハァーーーー、ヨシっ!」


俺は草むらから這い出すと姿勢低く、その男目掛けて駆け出した!


ーーイメージは相撲!


前のめりの体勢。


勢いを全体重に重ねる。


そのまま己の右肩を


背後から男の腰目掛け


ぶちかましたッ!



「ウォラァッ!!」


ーードンっ!



人は予想外の衝撃に弱い。


身構えた状態で殴られるのと、不意打ちで殴られるのでは、同じ打撃でもダメージにかなりの差が出るものだ。


ーー耳元でゴキリッと鈍い音が響く。


スクワットで毎回200kg近い重量を上げ下げしてきた足腰でのぶちかましは、男の背骨を容易く粉砕した。


背後からの攻撃を全く予想もしてなかった男は、そのままのけ反りながら冗談みたいに森へ向かって吹っ飛んでいった。


「・・・・・・Χα?」

 ・・・・・は?


地面に腰を下ろして男の回復魔法を受けて居た兵士は、突然目の前でぶっ飛んでいった男を見て固まる。


そりゃあ驚くだろう、かく言う俺も驚いている一人だ。


・・・・人ってあんなに飛ぶんだ。







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