63・因果応報
「……サイラス様一人で大丈夫でしょうか?」
外から連続して聞こえる尋常ならぬ罠の発動音が瓦礫の中に響に渡る。その振動はこの空間を押し潰す勢いだが、外に出る訳にも行かない。
ユニスはそんな不安から逃れる為か顎の痛みを堪えヘルムに話し掛ける。
「……正直厳しいと思います、収納魔法だけでどうにかなる相手では無いでしょう…。しかし、回復魔法士の私と詠唱も出来ない負傷者の貴方、今出て行っても役に立てるとは思えませんね…ここでジッとしてるのが最善です」
ーーユニスへの返答とは裏腹にヘルムは考える…
『最善とは何か?』
それは、生きてこの状況から脱出する事。
(どう計算しても勝率が低く過ぎますね、彼が襲撃者の気を惹きつけている間にこの場から離れた方がいいかもしれません。ーー動けない彼女は……囮にでもなって貰いますか)
最近は人に興味が出てきたとはいえ、自分の分隊メンバーすら「仲間」という意識がいまいち理解しきれていないヘルムだ。駒としか見ていない初対面のユニスなど切り捨てる事に躊躇は無い。
ユニスはまさかヘルムが自分を囮に逃げる算段をしてるとは思いもせずに会話を続ける。
「え?確かにサイラス様は収納魔法も使えますがメインの魔法は違いますよ。訓練時は衰退の腕輪が有るから多用して無いみたいですけど…」
「おや、そうでしたか…私はあまり他人に興味が無かったものですから。で、彼はどんな魔法を使うのですか?」
「ーーサイラス様は重力魔法士ですよ」
◇
「ナニシテル!アソビスギダ!ヘタクソ!」
「くっ、分かってる!分かってる!分かってるよ!」
気付けば残る罠は少ない、表情は変わらないが明らかに男は焦りだす。さっさと仕留めれば良かったものを遊び過ぎたのだと男は反省する。
「もう残った罠を一気に発動してっーーえっ!?」
「ハァハァ……チェックメイトだ!」
気付けば男のすぐ目の前にサイラスが居た、罠を発動すれば男も巻き込まれてしまう程の距離に…。
「あれ…何で……あんなに沢山仕掛けたのに…」
「ハァハァーー覚えたんだ」
サイラスは左手の止血をしながら答える。
「ハァ?オボエタ?ナニヲ?」
「さっき一瞬、罠の位置を見せただろ?」
突出した身体能力も無く、爆破魔法も使え無いサイラスが持っているもの、ーーそれは頭脳だ。
男がサイラスを絶望させる為に見せた十を越える魔法陣。あの時、サイラスは魔法陣の設置場所を全て覚えたのだ。
そして男が目視で罠を発動させているのは最初に予想していた通りだった。つまりこれはサイラスが向かう場所に一番近い罠が発動すると言う事だ。
罠の場所、逃げる道順、発動のタイミング、これらを最良に組み合わせる事で、サイラスは詰将棋の様に場を操ったのだ。
「ハン?ソレデ?コレカラドウスル?」
「そ、そうさ!僕が罠しか使え無いとでも思ってるならーーぐぇっ」
「ーー重力三倍ーー」
突如男の足がバキンッと音を立てて折れた!
そしてそのまま地面に押し潰される。
「うぎぃ、義足がぁ!」
「俺も使える魔法はーー空間魔法だけじゃ無い」
ーー人は一体、どれ程の重力に耐えれるのだろうか?
体重59kgの男性がスクワットで300kgを上げた記録がある。しかし、これは日頃からトレーニングをしているトップアスリートが出す数字だ。そんな彼等も4G(自重×4倍)で歩く事が出来なくなるという。
一般人、いやこの魔力頼りで筋力が無い異世界人には3Gはとても耐えられない。ましてやそれが作り物なら尚更だ。
「うぎゃぅぅ…」
「アッ!ヤバイ!コワレ…ル…」
ベキッベキッと音を立て崩れ落ちる男、身体を起こそうと両腕を突っ張るが…折れる。何故ならその長い腕も義手だったからだ。
最早地面に縫い付けられ頭すら動かせない男に向かってサイラスは叫んだ。
「お前の持ち物だっ、全部返してやるからちゃんと受け取れ!」
右腕を宙に向かって振るうサイラス、男の周囲の空を無数の土槍が覆った!
「う…あ"ぁ!?」
サイラスが罠を回避すると同時に収納した土槍は男と残りの罠目掛けて一斉に降り注ぐ!
ーーードドドドッ!!
ただでさえ重い土槍は三倍の重力が加わる事で防御魔法が付与された男のコートをまるで紙の様に容易く突き抜ける!
「ーーがっーーーうぐっ!!」
ーー刺さり、千切れ、潰れ、めり込む。
まさに因果応報ーー男は原型すら無い程無惨な肉片と化し、残っていた魔法陣は傷だらけでもう使い物にならない。
墓標の様に聳え立った土槍、その傍らには男が右手にはめていたマペットだけがポツンと残っていた。
◇
(バクス…お前とお前の仲間の仇は取ったぞ…)
サイラスは亜空間から椅子を取り出すとドカッと崩れる様に座り込み天を仰いだ。
暫くして思い出したかの様にヘルムに向かって声を掛けた。
「おいっ、フリード!こっちは終わったぞ。さっさと出てきて俺の手を治せ!ーー痛くて堪らん…」
サイラスの声を聞き、瓦礫に隠れていたユニスとヘルムが恐る恐る周りを伺いながら出てきた。
「サイラス様っ!大変ーー手が!?」
「重力魔法と空間魔法を同時に使う為にはどうしても腕輪が邪魔だったのでな……チッ、まぁこれで訓練は失格だが仕方ない…」
戦闘訓練において腕輪を故意に外す行為は問答無用で失格対象である、これでギュスタン分隊は訓練を強制リタイアとなった。
「ーー自分の手を切り落として腕輪を抜くとは…随分と無茶をしましたね」
呆れるヘルムにサイラスは亜空間から自分の左手を取り出し言った。
「ーー回復魔法士が居たからな…治せるだろう? 折角綺麗に切ったんだ、傷は残してくれるなよ?」
「ーーふふっ、勿論完璧に治しますとも。それが回復魔法士の役割ですからね」
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