43・格の違い
何とか間に合いました!
決闘とは妙な事になったが、俺達の目的はあの男を騎士団から追放する事。一対一とは言え五人全員との決闘だ、負ける訳が無い。
「フリード家の三男が騎士団に入団しているとは聞いていたが…アイツだったとはな」
「しかし、決闘だと? 向こうに何のメリットがあるんだ?」
ふむ、何故不利な決闘をわざわざ選んだのかが分からん。確か噂では、あらゆる魔法を魔法無効するだったか…あの男に絶対の信頼を?……いや、違うな。
「ふんっ、成る程…俺には分かったぞ。アイツも貴族と言う事だ」
恐らくアイツもあの男を疎ましく思っているのだろう。己の代理と任命し、わざと不利な決闘を強いる事で恥をかかせるのが目的か、もしくは貴族の名誉を損ねたと賠償を請求するつもりなのか。いずれにせよ俺達と同じくあの男を陥れる事が目的だと考えれば辻褄は合う。
「じゃあ一番手は俺が行こう! 俺で終わってしまうかもしれんがな?」
「待て待てサイラス、その役はこのアルバが引き受けようじゃないか!」
「ククッ二人共、みっともない争いはよせ。なぁに、あの男が倒れても私の回復魔法で回復させてやるさ、何度でもな!」
「何故、残忍なお前が回復魔法士をしているのか不思議で堪らないよマルベルド。あの腕輪を付けたのだって…お前の仕業だろう?」
水魔法と氷魔法の二つの属性を操るミードが半ば呆れながら言うと、マルベルドはニヤリと笑う。
訓練開始時にあの男を騙して腕輪を二つも装備させたのはマルベルドの独断だが、これくらいの策略は貴族社会では当たり前の事だ。勝負とは始まる前には既に終わっているものなのだ。
「ふんっ、まずは俺が行く。一応筋は通さなくてはなるまい」
分隊に売られた喧嘩だ、分隊長である俺が先に出るのが礼儀であろう。
「しかし、見ろあの大きな体を!アルバ、お前の母の様では無いか?」
「サイラスっ、母上を悪く言うのはやめろ!いくら従兄弟とはいえ、言っていい事と悪い事があるだろっ」
上流階級の中には、美食を追求するあまり体が肥大化する者は少なくない。そういう嗜好を持つ者達の中では体の大きさは一種のステータスとされている場合もある。
(影では豚とも呼ばれてはいるがな…。しかし、あの男の身体も確かに大きいが…何というか、あれはまるで…獣だな)
「ククッ、何が混ざっているか知らないが、あの様な醜悪な身体を持つ種族はさっさと西に送り返すべきじゃないか?」
「西のミュースか、確かにお似合いだな!」
「確かに、あそこは異形の者が沢山居ると聞くしな」
混血…あり得るな。しかし、第三騎士団にも混血は居るが…同じ混血でこうも姿が違うものか…
「ふんっ、この訓練が終わる頃には立場を自覚し、自らこの地を去るであろうよ。さて時間だな…」
道の真ん中まで行くと腕を組んで仁王立ちして男を待つ。ここは崖と川に挟まれた道だ、逃げ隠れする場所は無い。周りに燃えそうな木々も無く、俺の爆破魔法を使うには打って付けの場所だ。
「ふんっ、準備は良いか? 後が支えているからな、サッサと始めるぞ!」
男は頭を掻きながら俺の方へと歩いて来る。近くで見ると、その体の異常なまでの大きさが余計に際立つ。それに…何だあの装備は?ボロボロではないか! 持っているシールドの上部は欠け、軽鎧もガタガタだ。あんな状態では付与された防御魔法の陣も消えてしまっている事だろう。
此処に来るまでに相当やられた様だな、やはり魔法無効も噂に過ぎなかったか。…それにあの腕輪だ、碌な魔法も撃てやしまい。
(…ここは一つ、格の違いを見せつけてやるとするか)
父上も「相手を屈服させるには心を折れ」と仰っていた、心を折らなくては例えその場で負けを認めても、後々牙を抜く可能性があるからだ。それに惨めに許しを乞うあの男の姿を見れば、残りの平民共も自分の立場を思い出すであろう。
「ふんっ、せめてもの情けだ。喜べ、最初の一撃はお前に譲ってやろう!」
男はキョトンとした顔をした後、オドオドとヘルムの顔色を伺う様に後を振り返る。
ふんっ、どうやら魔法が使えないと言う噂の方は当たりだったか…全く哀れだな。
「どうした?この俺が慈悲を与えてやっているのだぞ?さっさと撃たぬか!」
男は溜息を吐くと、道端に持っていたボロボロのシールドを投げ捨てた。
ーーーガチャン
何だ…ボロボロで役に立たないとはいえ、シールドを捨てるだと?
「どうした、臆したか?さっさと撃ってこい!」
男は無言で何やらモゾモゾと身体を震わせている。そして徐に装備を外し出した。
ーーーガチャガチャン
今度は軽鎧まで!? …ふむ、そうか素早さを上げる為だな? 確かにあの装備なら有っても無くても同じような物。身体を軽くして全力で魔法を躱すつもりとみた!
「ふんっ、足りぬ頭で考えた様だが、そんな事で俺の爆破魔法は躱せぬぞ?」
全く浅はかな考えだ、俺の爆破魔法は対象に当たった時点で爆発する。爆風は走って躱せる様な物では無い。…いや待てよ、これはまさか命乞いか? チャンスをくれてやったにも関わらず、敵に一矢も向ける事無く降参とは!
「ふははは! 全く使えぬ代理を立てたな! フリード家は人を見る目が無い様だな?」
貴族として常日頃から人の上に立つからには相手を見極める能力は必須だ。こんな情け無い結果を招いたあの男を決闘代理に選んだフリード家の三男は間違い無く家名に泥を塗った事になる、それが例えあの男を陥れる策略だとしてもだ。
だがまぁ、同じ志しを持つ者の様であるし、ここは俺があの男を叩きのめし降参など聞かなかった事にしてやるとするか。そうすれば最低限の面子は保てるであろう。
「来ないなら…俺から行くぞ?」
ギュスタンの詠唱が始まると同時に両手に赤い炎の塊が生成されてゆく。ギュスタンは通常片手で撃つ魔法をその類稀な魔法センスで両手で同時に撃つ事が出来る。つまり二連撃が可能なのだ。
ーーー狙いを定め魔法を放とうとする瞬間、ギュスタンは余りの衝撃に我が目を疑った。
「お、おい…待てっ! 貴様っ、何故下着まで脱ぐ!?」
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