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39・戦略模擬板[ゲーム]


「実際そうでしょう?  私が立てた完璧な作戦は、ジョルクやナルのせいで失敗したのですから」



 俺はヘルムの言葉にすぐ反応する事が出来なかった。


(失敗したのは自分のせいでは無いって言いたいのか? 自分に非は全く無いと?)


 そうだと言うならば…


ーーー恐らく、ヘルムは人を人として見ていない。


 それは騎士や軍人などの、集団で動く事を前提とした軍事組織の中では正しい事なのかもしれない。

 

 ヘルムの中ではナルとジョルクは攻撃役(アタッカー)、俺は盾役(タンク)とヨイチョは…何だろ? 兎に角、ヘルムは個人の性格などは一切関係無く役割で人を見ているのだ、この戦略模擬板(ゲーム)の駒の様に…。


(駒が本来の動きをしないせいで作戦が失敗している。ヘルムから見れば…まぁ、そう言う事なんだろうな)


 確かに、皆がちゃんと役割を成し遂げていたならば最初の作戦は成功していたかもしれない。

 けれども人は感情有る生き物だ、それに加え得意不得意もある。

 少人数での作戦であるなら役割だけではなく、個人の性格も考慮した方が成功率は上がると思うんだ。ゲームの駒と違い個人のモチベーションが高ければ普段以上のパフォーマンスを発揮できる可能性が有るのだから。


(中隊規模になると、そんな事言ってられないんだろうけどさ)


 人数が増えればそれはもう、個人の感情など考慮する余裕は無くなる。そもそも、訓練の行き届いた正規の騎士団であれば、そんな事は気にする事も無いのだろうが…まだ見習いだからな…。


 それにしてもどうしたものかな…折角の初勝利で皆んなのやる気が上がっている時だ。ヘルムの不満も何とかしてやりたい、いや何とかしなければ分隊全体に影響が出る。



「……なぁヘルム…もう一勝負しようぜ? 今度はハンデをくれよ」

「ハンデ…ですか? いいでしょう。それではこちらの駒を一つ抜きますか?」


 ヘルムの眼鏡に映った焚き火の炎は、まるで心の中にある不満が具現化したかの様に大きくなったり小さくなったりと不安定に揺れ動いている。


「いや、そうだな…駒に特性を持たせた特別ルールにしよう」

「特性?…ですか…」


「あぁ、例えばーーこのクイーンはルークの隣に居ないと攻撃は出来ない。」 


「あとキングが攻撃する時は1ターン遅れる事、ビショップは攻撃出来ないが回復が出来る。そしてナイトは攻撃が効かないが攻撃も出来ないーーどうだ?」

「ーーそれ…は…」


流石ヘルム、俺の意図を理解した様だ。


「…成る程、分かりました。良いでしょう」





ーーー私は貴方が嫌いです。


 作戦がまともに遂行出来ずに負ける、そんな事は今更なのでどうでも良い。

 本来私はもっとレベルの高い分隊に居るべきなのです、そうでなければ私の本当の実力は発揮出来ない。そんな事も分からない団長達にも嫌気が差している、本当…最悪だ。



「ナイトを一つ前進…」



 私の心がいつも以上に騒つくのは間違い無く、目の前に居る貴方のせいだ。



「ナイトを更に前進…」



 あの作戦が失敗した段階で、私達の分隊はいつも通り終わりだった、終わる筈だった。



「ナイトは待機、ビショップをナイトの後ろへ移動…」



 しかし、貴方が即席で立てた思い付きみたいな作戦は成功してしまった! 前例を作ってしまった…。これからはもう、作戦の失敗は役目を果たさない駒のせいでは無くなってしまった。



「ナイトの隣りにビショップを配置…」



 勿論、あの時の作戦の詳細を考えたのは私だ。最終地点の変更をしたのも私だし、雷魔法の発動タイミングを指図したのだって私だ。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言い出したのは貴方だった…。

 あの提案が無ければこの作戦は生まれなかった。そもそも魔法が効かない駒など無かったのだから、私が今まで思い付かなかったのは当然ではあるのですが…。



「…ほぅ、そう来ましたか…ならばビショップはキングを回復、キングは詠唱をそのまま継続…」



 分からない…何故同じ駒を使いながら、こうも結果が違うのです? あの作戦はあの時点で最適解だった筈。…貴方と私、違いは何です?



「フッ、それは悪手でしたね?クイーンで迎撃…くっ、ルークが隣りに居ない…」



 何故皆は私ではなく、貴方を褒め称えるのです?駒では無く打ち手である私を称賛すべきでしょう?



「ルークを…いや、クイーンを引きます。そしてキングの魔法発動っ」



 今まで無能だと思っていたジョルクに鳥瞰視点(ちょうかんしてん)魔法が使える事が判明した。



「ルークを斜め前へ前進、クイーンの隣りにっ!」



 ヨイチョの生活魔法は応用次第で優秀な補助魔法になり得る事も分かった。



「クイーンの魔法発動!ナイトは更に前進ッ」



 ナルの雷魔法は状況次第で予想以上の範囲攻撃になる事が分かった。



「ビショップはッ…ビショップは……」



ーーーでは、私は?



「くっ、ならばルークを前進ッ!キングは詠唱を開始ッ!」



 いつの間にか()が成長している。自分だけが取り残された様な焦燥感、精神的重圧(プレッシャー)。 魔法も使えない、ただの肉壁だと思っていた貴方が周りを変えてゆく、それも物凄い速度で。私の居場所が無くなってゆく…何処にも無くなってしまう!


「キングの魔法を発動!さぁ、これで終わりで…」

(しまった、キングの詠唱は一手遅れるッ)



 後一手、後一手が駒の特性(新しいルール)の所為で届かない! もどかしい…なんてもどかしい!


…けれどーーーー面白いッ!!




 ヘルムとの戦略模擬板(ゲーム)は結局見張りをしている間ずっと続いた。


「意外と楽しかったろ? 相手の駒の特性も分かれば、戦略だって勝率だってもっと上がる筈だ」

「…貴方はこれを教える為にルールの変更を?全く回りくどい事をしますね。突飛な事を考え、皆を巻き込み変えてゆく。…貴方のそういう所が私は嫌いです、最悪ですよ」


 ヘルムはまだ明けない夜空を見上げる。その眼鏡には一筋の流星が流れる(さま)が映っていた、そしてその眼がゆっくりと俺を見る。

 ヘルムとちゃんと目を合わせたのはこれが初めてなんじゃないだろうか…。


「しかし…これからは周り人を観察する事にしましょう。 特性…確かにそれぞれの特性を考えた方がーー面白い作戦(ゲーム)が立案出来そうですからね!」


 僅かに笑うヘルムに苦笑しながら俺は返した。


「……俺は別にお前の事、嫌いじゃないんだけどな? 」


 人付き合いが苦手なヘルムに、「相手の気持ちを考えろ」と伝えた所できっと理解は出来ないだろう。しかし、今回の対戦(ゲーム)で駒にも其々の個性が有り、それを考慮した方が面白いと思わせる事ができたなら及第点だ。


 少し歪ではあるが、人は急には変われない。だから今はこれで良いんだろう。これから少しずつ、ヘルムも人を人として見る事が出来ればと思う。



ーーーえ、勝負がどうなったかって?




・・・・そりゃ惨敗さ。


 一度も勝てなかったよ、勝てる訳ないだろ?

 俺は初心者なんだからっ!


読んで頂きありがとうございます!


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