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31・人間ロケット


ーーー風魔法を背中に受け空を駆ける、それはまるで白夜に翔ける天馬の如く。


 字面にすると格好良いが、俺は口に入る大量の空気に窒息しそうになっていた。そもそも天馬はもっと優雅に飛ぶよね?きっと…。

 人は空気が無いと窒息するってのは昔溺れた経験から知っていたけど、空気がありすぎても窒息するんだな…吸ったら吐かなきゃ呼吸にならないって事が良〜く分かった。

 次に飛ぶ事があったら後ろ向きに飛ぼう…絶対に!


(しかも、こんな速いと思わなかったわ!これ絶対痛いやつッ!)


 体感ロケット並の速度でみるみる近づく土壁にギュッと覚悟を決め、両腕をクロスし衝撃に備える。よく映画なんかで窓ガラスを突き破って脱出するアレのイメージだ。


 まぁ、俺は脱出じゃなくて突っ込むんだけど…


ーーーズドォンッ!ガシャガシャンッ!!


 硬い物や柔らかい物?、色々な物を弾き飛ばす感触を両腕に感じながら土壁内部へと転がり込む。


ーーービキビキビキッ!


 元々あった亀裂が広がり裂けてゆく。そして強靭だった土壁は元のあるべき姿を思い出したかの様にその形を変えてゆく、固形物から液体へと変化する様に…。


ーーー崩壊は一瞬。


 ドームは天井からザバッーっと崩れ落ちてゆく。きっと外から見たならば、チョコレートドームに熱々ソースをかけた時の様に崩れてゆく姿が見えたに違いない。


 腰まで降り積もった砂や砂利を力任せに掻き分け、崩れたドームから這い出す。周りに立ち込むあまりの砂煙に思わず口元を袖で覆った。

 土壁の砂がクッションとなりスピードを上手く緩和してくれた事と軽鎧のおかげで腕には擦り傷と打撲くらいしか見当たらない。

 後で青タンくらいは出来そうだが骨に異常は感じられない、あのスピードでこの程度とは…我ながら恐ろしい程頑丈だ。


(全てはこの鍛えられた筋肉のおかげだな、筋トレ続けてて良かった!)


 異世界(こっち)に来てからも筋トレだけは欠かさずやっている、継続する事に意味があるからな!俺は少しひり付き血が滲む腕を摩りながら周りを確認する。


(うわぁ、大惨事じゃん……やり過ぎたかな…)


 ふと見ると、手前の砂山の中に誰かの背中が見えたので取り敢えず引き摺り出しとく。

 頭から砂山に埋まっていた男はどうやら大量の砂が口に入ったらしくオェオェと盛大に嘔吐(えず)いていた。


「ははっ、いやぁ凄いねぇ…ここまで崩れるとは思わなかったんだ。・・・・・ホントだよ?」


 やっちまった時は愛想笑いだ、大抵の失敗は困った顔で愛想笑いしとけば誰かが解決してくれるんだ。数々のバイト先を渡り歩いた俺が言うんだから間違いない!もっとも、次から仕事に呼ばれ無くなる事も多いんだけどね?


「・・・・・ま…だ、二人…が…」

「えっ何、辞世の句? 良く聞こえな…」


「て、テメェ!その手を離しやがれッ!」


ーーーもうっ、外野が煩くて聞こえないっ!


 俺は咄嗟に声のする方へ手の平を伸ばし「待て」と態度で示す。何処にでもいるんだよねぇ、人が話してる最中に大声で介入してくる奴ってさ!順番ってのがあるでしょうよ?


 俺は目の前の男に聞こえるくらいの小声で話す。ああいう輩は文句を言うと感情に任せて反論してくるからね。


「大丈夫!俺はこういう時は毅然とした態度で対応するって決めてるんだ。必要以上に低姿勢で対処すると勘違いしてもっと高圧的な態度を取ってくる奴もいるからね。…ほらっ静かになっただろう?」

「・・・・・・あ、あぁ…」


「さて、煩い奴は黙らせた。で何だって?」

「…ま、まだ…ジルとサリュが砂の中に…ゲホッ…」


「・・・・・ジルとサルが?…何だそんな事か…」


(…ちょっと頭を整理しよう。えーと?俺がドームを破壊したせいで、ジルとサルが生き埋めになっちゃったって事だよな…成る程、どっかに埋まっちゃってるのかー。理解、理解…)


ーーーッ!?


 不味い、不味いよっ!「つい殺っちゃいました、てへっ」で済まされる問題じゃない!

 騎士団に入団どころか、……追い出されるかもしれない!


「だ、だだ大丈夫さ!こう見えて俺って穴掘りは上手いんだ、任せてくれっ!」


 言葉とは裏腹に俺が所持する全ての汗腺から冷や汗が流れ出してくる、もうべっちゃべちゃだ!


 急いで周りの砂地を両手で掻き分けてゆく。素手で掘るなら「ここ掘れワンワンスタイル」が一番速い。本当は塹壕を掘った時の様にシールドをスコップ代わりに掘れたら良かったのだが、生憎さっきの場所にぶっ刺したままだ。


ーーーザバッザバッザバッ


「うげっ!ペッペッ…野郎っ、俺が顔上げるタイミングを見計らって!」


 背後でまた誰かが大声で喚き出したが、こっちはそれどころでは無い。殺人犯に成るか成らないかの瀬戸際だ。


 必死に探していると指先に軽鎧が当たる感触が!慎重に砂を掻き分けると長い髪が見えてきた。


ーーー見つけたっ!


 顔の周りは土壁で半ドーム状に囲われている。土壁に亀裂が入った段階で顔に砂が被らない様にと配慮したのだろう、おかげで彼女は窒息死を免れた。すぐ隣でもう一人も発見、良かった…。


「居たかっ!…もう大丈夫だ、ありがとう。後はこっちで何とかする」

「そ、そう?じゃあ頼もうかな!じゃあ後は宜しく」


 これで少なくともバルト分隊の三人はもう戦闘には加わる事は無いだろう。しかし、どうにも加減が難しいな、訓練なのにさっきからやり過ぎが否めない。文句言われる前にさっさと立ち去ろう!


「…おいっ、ちょっと待ってくれ!」


 ほら来た〜!きっと怒られる。一歩間違えれば死亡事故だ、いつもの訓練がどんなものか知らないが「今日も訓練で二人死んでさー」って話題は食堂で上がった事は無いから多分無いんだろうなぁ。


「……えっと、何でしょう?」

「これを…持って行け」


 男の手にはジャラッとした3枚のドックタグネックレスが握られていた。


「…これは?」

「お前の名札を取るつもりが、こっちが取られる事になるとはな…だが、次は負けん!」


ーーーこれが「名札」かっ。


 男から名札を受け取る。倒したのはジョルクとヨイチョの魔法だからなアイツらに渡そう、まだ入団もして無い俺には関係無いだろうし…


ーーーブォンッ!


 背後から突然の風撃(エアハンマー)が俺の手元を掠め、持っていた名札がバラバラと飛ばされてしまった。


「〜〜〜〜ッ!ここまで、コケに、されたのは、生まれて初めてだっ!」


 怒声に振り返ると鬼の形相でこちらに殺気を放つバルトが仁王立ちしているのが見えた。


 ・・・話聞くの後回しにしただけで洒落にならんくらい怒ってるんですけど、あの人…


いつも読んで頂きありがとうございます!


やっと30話を超えましたが、想定している話の終わりはまだまだ先でございます。

読んで下さる人が居るうちは最終話まで書き続けていこうと思っています。

これからもお付き合いよろしくお願いします!


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