2・あれが憧れ異世界魔法!
「イタタタた」
葉っぱを敷き詰めたといえダイレクトに地面に寝るのは背中が痛過ぎる。もう少し背中の筋肉が付けば痛くないんだろうか?何処かに懸垂が出来る様な丁度良い枝でもないものか後で探しに行こう。
「今更だが、持ち物チェックをしておくか」
『首から下げてたタオル、ジャージ上下に今着てる下着、運動靴、パワーグリップと空のシェーカー、後はスマホと腕時計か』
パワーグリップとは懸垂などバーを使う時に握力をサポートするアイテムで筋トレ民なら大体持っている素敵ギアだ。シェーカーは言わずもな「みんな大好きプロテイン」を作り飲む為のボトルだ。
「うーん、倒れた時の付近にあった私物だけが一緒に転移した感じか」
バーベルなんかも一緒に転移してくれたら良かったのに…持ち運びがキツいか。いや待てよ、こんな時は大抵マジックバックや収納スキルがあって無限に違い物量を持ち運ぶチートが使えるようになるのがデフォでは?と、色々試したが…ダメだった。まったく俺のチート能力は一体なんなんだよ。魔法、魔力が凄いにかけるしか無いな。
「取り敢えず、サバイバルに必要な物は皆無だと分かった。これは早いとこ人里を見つけないとヤバいな」
シェーカーは500mlしかないからこのまま川沿いを歩いて行こう、これで水と食料は何とかなる。一応流れが緩やかな此処でシェーカーに水を汲み下流へと歩き出した。
歩きながら周りを観察する。昨日は心に余裕が無かったから気付か無かったが、ワラビっぽい植物やクルミみたいな実が付いた木が生えてるな。クルミは良質な脂肪が取れるし糖質も少ないから是非食べたいんだが…毒があるとまずいな。ギリギリまでは知らない物は食べないようにするか。
「ウヒィ〜人里どこだよ!そろそろ泣いても良いですかねぇ?」
川沿いを降る事4日、未だ人里には辿り着けず。途中で大きな滝があり迂回したり、崖をクライマーの様に登ったりですんなり進む事が出来ないのだ。
(そういえば…山での遭難時には川沿いに降りるのではなく山頂を目指せって書いてあったかな)
…今更である。
それに例え山頂に登ってもこの世界で登山路があるとは限らないしな、「未開の山での遭難した時」の動画でも見ときゃ良かった。
「人の声!?」
5日と2時間程歩いた時、獣の咆哮と人の怒号らしき物が聞こえてきた。川沿いからは離れるが向かべきだろう。上手くいけば救助してもらえるかもしれない。
「戦闘中っぽいのは気になるけどな」
今の俺の装備は最弱で自分の能力すら把握出来てない、巻き込まれると即死する可能性がある。崖下に複数の人と熊っぽい大きな獣が争っているのが見えた、まずは遠目で観察する事にしよう。
◇
「足を止める!氷結拘束!」
3mはある赤毛の熊の足元が瞬時に凍り付き地面に繋ぎ止められる。
「グガァ!?グルオオァァア!!」
厚い毛皮の内側までは凍らせる事が出来ないのか、熊は一瞬硬直するがすぐに二本足で立ち上がり咆哮し威嚇する。その一瞬の隙を狙って騎士風の二人が空中に待機させていた腕程の太さの氷柱を熊をに向かって同時に放つ。
「氷柱!」
腕程の太さがある氷柱が熊に向かって飛んでいく様はまるでロケットランチャーだ。熊は氷柱を右手を振るって落とそうとする。が、何故かビクッと一瞬痙攣した後、見当違いの方向へ爪を振るった。氷柱はそのまま熊の右肩と腹に突き刺さった。
「ヴボォォォオ!」
「眼球を破裂させ視界を奪いました!すいません同期遅れました」
「良くやったアレス、クリミアとウルトはもう一度氷柱を放て」
先程、熊の足を凍らせたカイルはそう言うと次の魔法詠唱を始める。熊は深傷だがこれくらいではまだ倒れない、油断すると一気に形成が逆転する。
「はいっ、氷柱」
「…氷柱」
クリミアとウルトが氷柱を熊目掛けて放つ、狙いは肉質が柔らかい腹だ。しかし、目の見えない熊はめちゃくちゃに左右の腕を振り回して二本の氷柱を叩き割る。そして同期後硬直しているアレスの方へ向かって走り出した!
「ヤバイ避けろアレス!!氷結拘束!」
カイルは慌てて詠唱中の魔法を破棄し、すぐさま氷結拘束を放つが魔力が乗り切れていないせいで熊を拘束しきれない。
「あ…あぁ…」
通常魔法と違い同期は対象と自身の波長を合わせる事によって対象の内部に直接働きかける魔法だ。普通は対象を回復させる際につかう方法だが、アレスは眼圧を高めて内部から眼球を破壊するなど攻撃魔法として同期を昇華させる事に成功していた。だが、同意の無い対象への同期は時間がかかり術者が魔法発動後に硬直するなどデメリットもあった。
「土槍」
アレスの前の地面が爆ぜ、地中から4本の槍が勢いよく飛び出した!一本は熊の前足を地面と繋ぐ、二本は柔らかな腹を貫いた。最後の槍は頭部を切断、熊は絶命した。
「あ、ありがとうございますビエル団長…」
「アレス、お前の攻撃同期は強力だ。場合によっては敵を即死させる事も可能だろう。だがデメリットもあるのだ、使用するなら後方にて必ず護りを付けねばならぬな。あと赤熊は鼻が良い、目を潰すだけでは足りぬと知れ」
「ハッ!」
「まぁまぁ団長、今回はアレスの同期が実戦で使えるかどうかの実験も兼ねてたんだし結果オーライじゃねぇか。なぁクリミア?」
「あ、はい。改善点もわかったので次からは状況見て私かウルトがアレスの護りも担当すれば…」
「めんどい…」
「もぅ、ウルト!アンタは少し働いてよ!」
「どのみちフォーメーションは変えねばならぬだろう、対人か対獣かによっても違うだろうしな。
防御系魔術師の導入も考えてみよう。よし、各自残処理せよ!肉は持ち帰っても良いが内臓はきちんと埋めるのだぞ?」
「やった、しばらくは肉入りスープですね!カイルさん熊を木に吊るして下さい、皮剥いじゃうんで。ウルト、水汲んできて?」
「……人使い荒い…クリミア呪われろ…」
「なんですって!?」
「ま、まぁまぁ…水は僕が汲んできますから、ね?ウルトさんは内臓捨てる穴掘って下さい」
「アレス、もう大丈夫なの?」
「はい、確か近くに川があったはずなので水を汲んできますね」
『UGYAAA!!』
その時、崖の上から何かが雄叫びを上げながらアレスの方へもの凄い速さで駆け下りてきた。
「なっ!?なんだ?アレス離れろ!氷結拘束!」
カイルはすぐさま魔法を放つが何故か魔法は発動せず何かは止まらない。
「拘束!拘束!氷柱!なんで発動しない?」
そうして何かは唖然とするアレスの横を物凄い速さで通り過ぎウルトが掘っていた穴へと転がり落ちて行った。