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195・ホウレンソウ


 あの後ーー強引な二人三脚で森へと入った俺達は、直ぐに魔獣人(マレフィクス)の痕跡を探しウロウロしているシェリーを見つける。どうやら猫科のシェリーはヘイズ程鼻が効かないらしい。


 そんな訳で現在、来た時と同じ様に三人縦並びで森の中を行進中である。


 朝日が昇り始め、葉の落ちた木々の隙間から陽の光が差し込んでくる。付近が明るくなり随分と足下が見やすくなった。そのおかげもあり、先頭を任されたヘイズはほぼ迷い無く森の中をズンズン突き進んで行く。


「なぁ、臭いを確かめたりしなくても大丈夫なの?」


 追跡知識の無い俺が言うのも何だが、ちゃんと分かって進んでるんだよな? 

 ーーと言うのも、先程あれだけ慎重に匂いの嗅ぎ分けをしていたのに、今のヘイズは全く立ち止まる素振りを見せずに森を進むのだ。


 ほんの少しの方向のズレが進む程に大きくなる事を知っている俺としては気になる所ーーしかし、そんな俺の心配をシェリーは一蹴する。


「煩いな、黙ってヘイズの兄貴に任せとけよ」

「いや、もし間違ってたらさーー」

「兄貴か間違うワケねーから」

「アァ、ソウデスネー」


 先程の激しい口論は何処へ行ったやら、シェリーはヘイズを元通りすっかり信頼しているみたいだ。獣人はさっぱりとした性格の者が多いが、感情の切り替えが早すぎて若干付いていけない。


 ヘイズもヘイズで、あれ程反対していたガウルの救出に意欲的である。


 まぁ、あの面倒見が良いヘイズが可愛い弟分を助けに行きたくなかった筈が無い。彼の中でも随分な葛藤があったのだろう。その証拠にガウルを助けに行く流れになった今のヘイズの表情には、先程までの悲壮感が無くなって見える。


「大丈夫だ兄弟(ブロウ)、これだけの臭い振り撒いてんだ、迷う事はねぇ。ただーー」

「ーーただ?」 


「いや、何でもねぇ……」

「出た、言い掛けて途中で止めるヤツ! それ、モヤモヤするからちゃんと最後まで言ってくれよ」


 言い淀んだヘイズの態度に俺は不満をたれる。


「かーっ! 小せえ男だなアンタは!」

「えぇ!? シェリーは気にならないの?」

「あ? そりゃあ気になるに決まってるだろ!」

「なんだよ、気になってるんじゃん」


「あーーー悪りぃ悪りぃ。いや、大した事じゃねぇんだが……ヤツが通った跡の臭いの付き方がな、少し変わってて気になっただけだ」


ーー通常、匂いは通った道なりに残る。


 踏みしめた地面、払い避けた枝、汗が落ちた草木など、直接触れた部分に強く匂いがこびり付くからだ。

 しかし、どうも魔獣人(マレフィクス)が一帯に残した臭いはそうではないらしい。


「触れた場所の匂いが一番濃くなる筈なんだが、ヤツが通った場所全体に臭いが拡散してんだよなーーまるでわざわざ撒き散らしてるみてぇによ」


 部分的に濃い臭いが点々としているのでは無く、魔獣人(マレフィクス)が通った空間全体に臭いが広がっているーーどんな方法かは予想がつかないが、魔獣人(マレフィクス)は文字通り臭いを()()()()()()()()()()()()()()


 まぁ、お陰で追う方向を探るのは楽なんだけどなーーとヘイズは頭を掻いた。


「良く分かんないけど、楽なら良いんじゃないの?」

「……いや、だから言うのを止めたんだけどよ」

「兄貴を煩わせるんじゃねぇ!」


 前を歩いていたシェリーは、クルリと振り向くと俺の腹をドンッと突いた。


「痛ッ!? いやだって、報・連・相(ほうれんそう)は大事だからさー。今のは報・連・相(ほうれんそう)の相だよ?」

「はぁ? そのホウレンソウってのは何だよ」

「ホウレンソウってのは野菜なんだけど、報告・連絡・相談をそれに掛けてるんだ。何というか……ビジネス標語?」

「まずビジネスヒョウゴ?が分からねぇよ。あと、報告と連絡ってのは同じ事だろ?」

「報告と連絡が同じ??? えーと、まずビジネス標語ってのはだな……いや、やっぱこの話無しで」


「「言い掛けて途中で止めるヤツ!」」


 いやだって、この世界に無いかもしれない単語をいちから説明するのが物凄く面倒な事に気付いてしまったんだもの……標語とか絶対伝わらんだろ。



 こんなどうでもいい話に乗って来るぐらいにはシェリーの心は落ち着いた様だ。これは多分、ヘイズが追跡に積極的になった事が大きい。ガウルの危機的状況は変わらないが、やはり安心感が違うのだろうーー流石頼れる兄貴分だ。


 そんなシェリーの過大なる信頼を一身に受けたヘイズといえば……先程から何やら挙動不審である。


「どうしたんだヘイズ?」

「いや、この先の臭いが急に薄くなって……」


「ーー待って、何か聞こえる!」


 シッっとシェリーが口に指を添え耳を澄ます。


 ピコピコと忙しなく動くシェリーの耳を眺めながら、「ネコちゃんの聴力は犬の二倍もあるんだ、俺の靴音を聞き分けて玄関で待っててくれるネコちゃん、やっぱり優勝!」ーーと、昔猫好きな奴が言ってたのを思い出して一人納得していると、シェリーがやや左を指差して言った。


「水が流れる音だ……向こうに川がある!」

「何、川だと?」


 どうした事か、報告を受けたヘイズの顔が曇る。


「ちょっと俺はひとっ走り先を見て来る、兄弟(ブロウ)達は此処で待っててくれ!」


 そう言い残すと、ヘイズは獣道を外れシェリーが指差す方向へと駆けて行った。



いつも読んでいただきありがとうございます。

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