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192・苛立ち


 ガウルが拐われた事で討伐どころの話では無くなった。幸いな事に魔獣人(マレフィクス)が去ったのはほんの少し前、今直ぐに追いかければまだ追い付けるかもしれない!


 シェリーは手に持っていた一角兎(アルミラージ)の死骸をボタリとその場に落とすと必死に辺りを見回すが、魔獣人(マレフィクス)の足は意外に速くその姿はもう森の奥へと消えてしまっていた。


 俺もすぐに追いかけたかったのだが、残念な事に痕跡を辿るスキルが無い。ここは狼獣人の鋭い嗅覚を当てにしたい場面(ところ)……しかし何故かヘイズは座り込んだままだ。


 シェリーは何もしないヘイズに駆け寄ると、苛立ちながらその肩を掴んだ。


「ガウルを攫ったヤツはどっちに行ったんだよ! なぁ、おい兄貴っ!」

「…………」


 一体どうしたと言うのだろう? さっきからガクガクと肩を揺さぶるシェリーのされるがままで、ヘイズは一向に立上がる様子が無いーー腹でも壊したんだろうか?


 それにしても、まさかアレがガウルだったとは思ってもみなかった。魔獣人(マレフィクス)を目の前にして「お前の獲物なんて取らねーよ」みたいな余裕かましてた五分前の俺を殴ってやりたい。


(ガウルも何か言ってくれれば良かったのに……)


 あの時、一言「助けて」と声を掛けてくれたなら……いや、プライドの高いガウルの事だ、新入りの俺に助けを求めるのは避けたのか、それとも……


(声も上げられない状態だったとか?)


 気絶していたか、最悪死んでーーいやいや、あの時魔獣人(マレフィクス)以外の呻めき声が確かに聞こえていた。

 大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない……が、悠長にしている時間も無い。


ーーしかし、未だヘイズは動かない。


「お、おい、ヘイズ? 早く追わなきゃ見失っちゃうぞ!」


 急かす様にその場で足踏みしながら声を掛ける俺に、ヘイズは俯いたまま微かに首を横に降った。


「……駄目だ」

「よし、そうこなくっちゃ! ……はっ? 今なんて?」


 当然行くだろうと思い込んでいた俺は、ヘイズの予想外の返答に頭が混乱する。


「え? え? 駄目って……どゆこと?」

「ありゃあ個人で何とか出来る範囲を越えちまってる。一度ギルドに戻って報告する……」

「はっ? 何だよ、どう言う事だよ兄貴っ!」


 冒険者であるヘイズによれば、あのサイズの魔獣人(マレフィクス)は明らかに異常。討伐隊を募って複数のパーティーが協力して倒すようなレベルだと言う。


「普通はよ、魔獣人(マレフィクス)ってのはどんなに大きくたって子供くらいなもんなんだ。あんなのは聞いた事がねぇ、危険度で言えば間違い無く赤熊レベルだ。今の俺達が行ってもどうにか出来るもんじゃねぇ」

「なっ、何言ってるんだよ兄貴っ!? ギルド戻って討伐隊組んでって……そんな事してる内にガウルが食われちまうだろっ!!」


 信じられないと、シェリーは更に強くヘイズの肩を揺さぶる。ヘイズはその手を乱暴に振り払うと大きく唸り、地面に拳を強く打ち付けた。


「糞がッ! そもそも何でガウルが此処にいる!」

「そんな事よりさっさと助けに行かなきゃヤバいって!」

「駄目だ、危険過ぎる!」

「危険なら尚更急がなきゃ駄目だろ!」


 とうとう言い争いを始めた二人を他所に、俺はこれまでの情報を整理する事にした。





 魔獣人(マレフィクス)は魔獣化して棄てられた獣人の子供だと言っていた。ある程度の年齢まで生き残る事自体が稀であり、生き残った者も極度の栄養不足により痩せ細り小柄な個体ばかりだったと言う。


 犬や猫、豚に鳥と、見た目は様々だがどれも小猿程度の大きさで狩るのは然程難しくは無い。人族(ヒューマン)に魔獣と一括りにされる程度の所謂(いわゆる)雑魚(ザコ)扱いである。


ーー以上が俺がヘイズから得た魔獣人(マレフィクス)豆知識だ。


 しかし、今回俺たちの目の前に現れた魔獣人(マレフィクス)はそうではない。碌な食事も出来ない幼年期を過ごした筈なのに、アイツは一体どうやってあれ程の体格を身に付けたのだろうか? 

 この森に一角兎(アルミラージ)以上に豊富なタンパク源が有る可能性が出てきたな。しかも、力の無い幼子でも容易に摂食出来るタンパク質が……。


(……何それ、すっごく興味有る! ーーが、今はそれどころじゃなかったな。う〜ん、赤熊レベルか……)


 赤熊って最初の頃にビエルさんやクリミア達が皆んなで狩ってたヤツだよな。確かにあのレベルをこの三人で相手するのには厳しいものがある。


(ーー何か方法は無いか? 放出系の魔法が使える奴が居ないのが厳しいな)


 そこで俺の頭にふと疑問が浮かんだーー疑問と言うか、漠然とした違和感だ。


(アイツって、そんなに強いかな?)


 俺が前に見た赤熊は遠くから見ているだけで産毛が逆立つ威圧感があったし、大猪だって死に直結する様な怖さがあった。


ーーそれに比べてアイツはどうだろう?


 確かに体は大きかったし、見た目も獰猛そうに見えた。それにあの虚な目は見る者に不安を抱かせる不気味さがあったのは確かだーーが、俺は不思議と怖いと言う感情が湧かなかった。

 

(まぁ自分の召喚獣だと思い込んでた所為もあるかもしれないけど……)


 それにだーーアイツ、俺が近付くだけで明らかにビビってたんだよな。ヘイズを見て直ぐに逃げ出していたし……実は大した事無いのでは?


 ほんの何分かの邂逅、実際に相手の力を目にした訳でも無い。しかし、異世界(こちら)に来てからもう何度も危険な状況を克服してきた俺である。

 大猪に跳ね飛ばされ、ガチの戦闘に二回も巻き込まれた、普通の人よりは修羅場を経験してきたと言っても良いと思う。

 そんな俺から見ればーーそう、地震に慣れ過ぎた日本人が震度3程度じゃ逃げずに、そのまま通常業務を継続してしまう様なーー要は、何とかなりそうな気がしてしまう。


(正直、なんだか勝てそうな気がする!)


 脅威の度合いと言うか、危機感の基準値が以前よりガバガバになっている自覚はあるがーーこう言うのは案外ヤル気と勢いが大事だったりするのだ。

 

 根拠の無い自信に背中を押され、俺は言い争う二人へと向けて胸を叩いて高らかに告げた。


「大丈夫だ! アイツは俺が何とかする、ガウルを助けに行こう!」


いつも読んで頂きありがとうございます。

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