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179・魔獣人【マレフィクス】


「あ〜、その……何だ……隠してるって言うか、これは兄弟(ブロウ)にはあまり関係の無い話だからーー」

「それを決めるのは俺だろ? 俺にだって仕事前の準備とか心構えってもんがあるんだから」


 やっぱり裏があったかと、若干非難染みた目線でヘイズを睨む。そんなヘイズと俺のやり取りが気に障ったのか、シェリーがいきなり俺の脛を蹴り付け吠えた。


ーーゴッ!


「ーー痛った!?」

「おいっ! さっきから聞いてりゃ仕事紹介してもらう立場の癖に随分と偉そうじゃねーか! アンタの為に兄貴が持ってきた話だぞ!」

「いや、それ自体は有り難いんだけどさ、一応色々確認しなきゃ駄目だろ?」


 元の世界じゃ、「ついでに向こうの知り合いに届けてくれないか?」なんて言葉と報酬に釣られ、軽いノリで引き受けたら中身がヤバい薬で税関で捕まったーーなんて話だってあるんだ。(TVで見た)

 俺は第三騎士団に戻る為に、犯罪者になる訳に行かないんだ、慎重にもなるさ。


「まさか……アンタ、一角兎(アルミラージ)如きにビビってんじゃないよな? そうなのか? そうなんだろ! ハッ、そのデカい身体はハリボテかよ、情け無ぇ」


 身を乗り出し俺の胸筋を指でズンズンと突くシェリーの悪態が止まらないーー待て待て、爪を出すんじゃない!


 でも気持ちは分かる、付き合いの浅い俺から見たってシェリーはヘイズを慕っている。そんなヘイズの好意を俺が無碍にしているのだ、良い気はしないだろう。


 ーーだが、それと身体の話は別だ! 


 俺の筋肉をハリボテだと? 一角兎(アルミラージ)にビビってるだって?


「あのな、俺は少し前に()()()とやり合ってんだ、今更()ノーマルな兎にビビる訳無いだろ!」

「はぁ? 何だ、その喋る兎ってのは? 気持ち悪りぃ嘘吐いてんじゃねぇ!」


「本当だもん! 本当に喋る兎いたんだもん! ウソじゃないもん!」

「じゃあ、連れて来いっ! その兎をここに連れて来い!」

「ま、まぁまぁ、よせよ二人とも。確かにこれから仕事の相棒になるってのに隠し事はいけねぇよなーー今回は俺が悪ぃ」


 素直に頭を下げるヘイズにシェリーは驚き目を見開いた。


 シェリーの知っているヘイズは決して気の良いだけの男ではない。孤児院に居た頃には、相手がどれ程格上であっても不屈の闘争心で必ず一撃を浴びせる事から『ワンバイト(ひと噛みヘイズ)』と呼ばれ周囲から一目置かれてきた男である。少なくともこんな新参者に素直に謝る様な男では無かった筈だ。

 

「な、何でだよ? なんだって兄貴はコイツにだけ甘いんだよ! アタイらだったら言う事が聞かねぇかって怒鳴り付けてる場面だろ……」

「あ……いや、まぁ……そうかもな」


 シェリーの言葉にバツが悪くなったのか、ヘイズは追加で飲み物(ジュース)を一つ注文すると、気まずそうに首の後ろをボリボリと掻き毟りながら言葉を濁した。




「ーーで? 一体何を隠してたんだ?」


 暫しの沈黙の後、シェリーの爪が食い込んだ胸元に血が滲んで無い事を確認してからヘイズの方へずいと向き合う。


「あぁ……実はな、依頼先の洞窟で魔獣人(マレフィクス)を見たって話がある……」

魔獣人(マレフィクス)?」


「…………チッ、そう言う話かよ」


 ヘイズの言葉に盛大な顰めっ面をしたシェリーは、新たに目の前に置かれたジュースを半分程一気に口に含み、忌々しそうにガリゴリと氷を噛み砕いた。





(な、何だ、この空気……)


 魔獣人(マレフィクス)ーーヘイズが発した、たった一つの単語が明かにこの場の雰囲気を重くした。周りを見渡せば、先程まで俺とシェリーのやり取りを面白そうに聞いていた他の客達も何処となく目線を下げている。


(あー、何だこの雰囲気? 魔獣人(マレフィクス)って何なんだよ……)


 この沈んだ空気に俺一人だけ馴染めない、何処か部外者感が漂うのが凄く居辛い……。


 魔獣なら何度か騎士団で聞いた事があるが、魔獣人(マレフィクス)は初耳だ。

 俺の頭に真っ先に浮かんだのはアニメでよく見る魔人だが……まさかこの世界、魔王とか居るんじゃ無いだろうな? 魔王の手下である魔人が来襲してくるなんてのは、異世界モノには良くある設定だからな。


「なぁ、その魔獣人(マレフィクス)って……もしかして、凄く強いの?」

「…………強い弱いとかじゃねぇ……」

「ーーそうだな、兄弟(ブロウ)が知らないのは仕方がない。人族(ヒューマン)の中じゃアイツらの事も一括りに魔獣って呼んでるからな……」


 魔獣と魔獣人(マレフィクス)を区別しているのは俺達獣人くらいだとヘイズは言う。


 魔獣と獣の違いは単純に体内に含まれる魔力量の違いである。魔力量が多い獣は一般の獣よりも大きく攻撃的で、魔法を使ったりブレスなどの特殊な技を使ってくる事もある。俺はまだ見た事は無いが、ワイバーンなどの竜種もこの魔獣が元になっているのでは無いかと言われている。


(そういえば,実家の金魚も過剰な餌やりの所為でやたらと巨大化していたな……魔獣もそんな感じか?)

 

 ヘイズはコップに残った琥珀色の液体を飲み干すと、奥歯を噛み締める様に言葉を絞り出す。


「ーーでだ、魔獣人(マレフィクス)ってのはな……言っちまえば魔獣化した獣人なんだ」

「魔獣化した……獣人?」


 魔獣化した獣人ーーそれは魔獣化した獣人が害獣として、同族からも駆除の対象にされていたと言う事実であり、ヘイズの告白は獣人の中でも禁忌に近いものだった。


「………………グゥッ」


 二人の話を背中越しに聞いていたシェリーの、その強く握った掌には、血が滲む程の深い爪の痕が残っていた。



いつも読んで頂き有難う御座います。

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