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169・教会

挿絵(By みてみん)

 イアマの街には二つの教会が存在する。

 

 一つは街の中心に建てられた大聖堂教会。イアマの街で教会と言えば大抵の者が頭に浮かべるのがこの教会であるのは間違い無い。

 付近に点在する小さな村々に聖職者を派遣したり、大きな祭事を執り行ったりと、この地区の総本部的な役割を果たす大きな教会である。

 無数のステンドグラスに飾られたその佇まいは、厳粛でありながら美を兼ね備えるパリ最古の教会「サントシャペル」を彷彿させる。建築物としては街一番の高さを誇るこの大聖堂教会は正にイアマの街の象徴とも言えるだろう。


 教会には聖職者と呼ばれる牧師やシスターが居り、彼等の多くは神聖魔法や回復魔法を習得している。

 騎士団ではそれなりに居た回復魔法士だが、実は高度な魔法教育が必要な為にその敷居は通常の魔法士より高く、街中での数はそう多くない。

 その為、怪我や病気をした一般人の多くは、献金を握り締め教会へと足を運ぶ事となる。教会は病院も兼ねているのだ。


 ウルトやクリミアが幼少期を過ごした孤児院は王国からの支援を受けてこの大聖堂教会が運営を担っている。

 この孤児院出身の団員を複数抱える第三騎士団は特に教会との仲も良好であり、其れなりの交流があった。カイルが教会を頼ったのもその繋がりが有ったからこそだ。


 もう一つは、街の外れの貧民街にある小さな教会。元々あった古い建物を改築して作られたこの教会は大聖堂教会に獣人達が立ち入らぬ様にーーと、わざわざ別に建てられたものである。


 帝国との貿易が解禁されてからと言うもの、少なく無い数の帝国獣人が冒険者や商売を目的として王国へとやって来たが、彼等が改宗せずに教会へ立ち入る事を許せぬ者達とのトラブルも絶えなかった。

 「獣人め!」と表立って差別する事は無いが、回復に来た獣人を無視したり、明かに手を抜いたりする聖職者は存在する。差別意識が薄れて来たとは言え、教会関係者でさえこれなのだから貴族や街人などが彼等獣人をどう見ているかは明白である。

 余計なトラブルを回避する名目で建てられたのが貧民街の教会と言う訳だ。


 しかし、元々怪我の治りが早い獣人が他宗教の教会に訪れる事は滅多に無く、使うのはもっぱら炊き出し目当ての住民と王国生まれの獣人、そして身寄りの無い孤児達であった。



 あれから直ぐにカンダタSTYLEから着替えた今の俺の佇まいはーー麻の長ズボンにシャツ、その上からマントを羽織っている。この暑さの中マントを羽織っている事以外は街中を歩く者達と然程変わりは無くなった。


 これでもう盗賊の親分にも変質者にも見られる事は無いだろう。そして何より特筆すべきは靴だ。こちら(異世界)へ来てから久々に自前の運動靴を履いているのだが……


「ーー快適過ぎて鼻血出そう!」


 今まで外で履いていたのは騎士御用達の革製ブーツで良い品物ではあったのだろうが……やはり靴底のクッション性と軽さが違うーー何より蒸れないのが良い。訓練時には頑丈な革靴が重宝されるが、街歩きにはやっぱりスニーカーが楽だ。

 尤もクッション性に関して言えば、普段は草鞋(わらじ)みたいな薄っぺらい履き物で歩き回っていた為、小石を踏んだくらいではビクともしなくなった硬い足裏にどれ程の恩恵があるかは微妙だけど……まぁそれはそれ、快適な事には変わりない。



 串肉屋の店主の言葉を頼りにモグモグと肉を頬張りながら歩くが、まだそれらしき建物は見えて来ない。

 思っていたよりもイアマの街は広いようだ。


(違う味も買えばよかったな……)


 いくら美味しくとも、こう同じ味が続くとどうしたって飽きが来る。味変の調味料でも有れば良かったんだけど、生憎カイルが詰め込んだ袋には見当たら無かった。


「それにしても、流石に10本は買いすぎたな」


 お腹が減っている時ってついつい買いがち、米でもあればもう少し食べられそうだが、時間が経ち冷えてしまった串肉は脂が固まって胃にもたれる。


「レンチンの魔法とか無いのかな? ヨイチョなら出来そうだけど」


 魔法主体である為マッチも無い世界だ、魔法が使えない俺にとって肉を温め直すのも一苦労なのだ。早いとこ生活魔法くらいは覚えなければ……俺は串肉が半分程残った紙袋を閉じた。





「お、やっと抜けたか……」


 裏道を抜けた途端太陽の光が目に刺さる、まるで長い長いトンネルを抜けた様な感覚だ。


 泥を塗り固めた灰色の壁にカラフルな原色の屋根が繁忙期のキャンプ場の如く無秩序に密集する貧民街。先程まで歩いていたのと同じ街とは思えない程に、開けた視界に映る景色は酷く原始的に見えた。

 此処がエリアの区切りとでも言う様に石畳の道もプツリと途切れ、雑草の中を何人もの人々が行き来して出来た自然道となる。それと同時に街人の雰囲気もガラリと変わり、街道では数人しか見かけなかった獣人が明かに増え、(御上りさん)を見る好奇の視線が警戒心へと変わるのを肌で感じた。


(これはこれで、また異国感が強いな……)


 先程の街並みが中世ヨーロッパなら、ここ貧民街は差し詰めブラジル、リオデジャネイロのファベーラ(スラム)。どちらも俺の目には新鮮に映るが、危険度は間違い無く貧民街だろうな。


ーーだって、既に俺の前には二人の獣人が立ち塞がってるし……。


 

いつも読んで頂きありがとうございます。


いつもの事ながら、タイトル考えるのが一番難しい。

全体を捉えつつ、ネタバレにならない程度に、しかも今までのタイトルと被ってはいけないとか……この先どんどん大変になりそう!

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