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167・ぶらりイアマの街

挿絵(By みてみん)

「うわ〜、マジ外国じゃん! 俺、海外旅行とか行った事無かったからなぁ」


 幻想チックな朝靄の中で踏み締める異国の古道。道の(かたわら)に建つ二階建ての家々はくっ付く程に隣同士の間隔が狭いーーいや、実際くっ付いているのだ。屋根が連なった1つの建物に複数の店や住宅が並ぶ所謂(いわゆる)長屋式というやつである。


 長屋式は時代劇などで良く目にする街並みなのだが、あれは瓦屋根の木造建築が並んでいる印象が強い。しかし、この街の長屋は全てがザラリとした白い石壁で出来ており、何処か中世ヨーロッパの街並みを思わせた。(見た事無いけど)


 残念な事に俺が歩く道は裏道である為、白い石壁と、偶に現れる木製の裏口ぐらいしか見え無いシンプルな景色だが、反対側に当たる長屋の正面には多くの店舗が既に店を開けておりザワザワとした人々の息遣いがここまで聞こえてくる。


 大通りから外れた道を歩く俺は逃亡しているにも関わらず、初めて見る異世界の街中の景色に少し浮かれていた。


 思えばこの街に来て一人で宿舎の外に出たのは初めてだーー道も、家の裏も、店の裏も、見るもの全てがワクワク対象だ…………って、石しか見てねぇや、畜生!


 馬鹿なヤツと思う無かれ、例え俺が見ていたのが殺風景な石だらけの景色ばかりだとしても、其処には海外……いや、異世界独特の空気感が存在する。

 ほら、海外旅行先で最初に飛行機から降りた時のあの感じさ!(行った事無いけど)


「え〜っと、確か道なりって言ってたよな……」


 カイルは「道なりに」とは言っていたが、何処までとは言っていなかった。かれこれ一時間は歩いているがコレといった目的地らしき建物は見当たらない。


「そういや、行き先が書いたメモがあったっけ」


 マントの内ポケットをゴソゴソ探ると小銭が入った袋と一通の封筒が出てきた。俺は封筒からメモを取り出すとジッと見詰める…………が、実は俺、まだこの国の文字がちゃんと読めない。


 そりゃそうだろ? 前情報無く異世界へ飛ばされて数ヶ月で日常会話が出来る様になっただけでも凄いと思わない? あ、でも食堂にあったメニューくらいは何となく分かるかな。


 しかし、貰ったメモには俺の知っている『芋』とか『スープ』とかの文字は見当たらないので料理のレシピでは無いのは確かだ。


 え? レシピじゃ無いのは当たり前だろうって? 


 何言ってるんだ、ウービンさんにみっちりと仕込まれたこの俺を秘伝のレシピ付きで何処かの食堂へ売っぱらう可能性だってーーまぁ無いよね。


 分かってるーーこれは行き先を書いたメモだ、カイルも言ってたしね。ただ、秘伝のレシピだろうが行き先だろうが結局の所、読めなければそう大差はないって事なんだ。


「こんなに余白があるなら地図描いてくれれば良かったのに……仕方ない、表通りに出て誰かに聞くか」


 意を決した俺は薄暗い裏道から賑やかな表通りへ足を向ける。もう太陽はすっかり昇り、俺のお腹もすっかり空いていた。





 裏道の10倍はある広い街道には沢山の人々が歩いていた。その多くは人族だが、荷車を引く蜥蜴人(リザードマン)や小走りに駆け回る犬獣人なんかもチラホラ見える。彼等(獣人)の存在は元より、こんなに大きな街道なのに車が一台も走って無いのが実に異世界っぽい。


「おぉ! これだよ、これぞ異世界!」


 まだ朝の早い時間帯なのに人が多いのは通勤ラッシュ的なヤツであろうか? 大きな道を大勢の人がゾロゾロと歩く様子はまるで休日の歩行者天国だ。

 流石に踊ったり弾き語りしている者は居ないが、冒険者らしき甲冑姿の青年達が地べたに座り地図を広げている様子や、店前に出されたテーブルで泡立った粥を掻っ込む様に食べる街人が居たりして見てて飽きない。


「うはっ、もしかしてあれってギルドってヤツ? 結構デカいんだな。あ、あっちの建物はなんだろ?」


 辺りを見渡し感嘆の声を上げる俺は完全なる「御上りさん」である。そんな俺が珍しいのか、街の人々はジロジロと俺を見ながらも目を合わさぬ様に足早に通り過ぎてゆく。


(おっと、俺は逃亡中だった。早いとこ用事を済ませて裏道に戻った方がいいな)


 表通りには祭りの出店の如く実に多種多様な店が軒先を並べている。八百屋に魚屋、衣類を売ってる店には異世界らしく防具も飾られているのが見えるーーその中で俺は串肉を焼いている店の前で足を止めた。


「すいませーん、これ一本下さい」

「あいよ、200ニル……ス、おわぁッ!?」

 

「えっ??」

 

 店主の驚き様に思わず振り返るが……店先で立ち止まっているのは俺一人だ。

 

(ーー俺か? 俺なのか? 俺にビックリ要素なんてあったかな? あぁ、きっとこの逞しく立派な筋肉に驚いたのか)


 異世界の一般人には見慣れない程の筋肉なのだろう。「お父ちゃん、昔こんな立派な筋肉を持ったお客さんに会った事あるぞ!」って末代まで語り継げる様にちょっとサービスしてやろうとマッスルポージングを披露していると店主がちょっと引き気味に串肉を差し出した。


「……ほらよ。 兄ちゃん、何ちゅう格好してんだ、てっきり強盗かと思ったぜ……」

「失礼な! ちゃんと金は払うさ、ほら!」


 店主に2枚の硬貨を差し出してから串肉を引ったくる。

 ふふ、以前の俺(持たざる者)と思うなよ? 今の俺にはカイルから貰ったお小遣いがあるのだ。


 それにしたって、この俺のどこが強盗に見えると言うのだろう? 立派な筋肉(マッスル)紳士にしか見えないだろうに……いや待てよ、こっちの強盗が皆マッチョの可能性も微レ存ーー


ーーふと、店のガラスに映る自分の姿を見て震える。


 寝巻き用の物凄く短い短パンに上半身は裸、頭から黒いマントを被り顔を隠したこの俺の姿はーー


(カ、カンダタさんじゃねぇかッ!?)

 



いつも読んで頂き有難う御座います。

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