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165・素朴な朝食


ーーバンッ!!


「そ、そんなのっておかしいよ!」


 カウンターを勢い良く両手で叩き立ち上がったクリミアは困惑した声で叫んだ、その目には薄っすらと涙が滲んでいる。


 開店前の食堂にカイルが分隊メンバーを引き連れてやって来たのはつい先程で、いつも下拵えをしている筈の従業員が居ない事を不思議に思ったウービンが彼を探し始めた頃でもあった。


「大したもんは出せねーからな?」


 下拵えが済んでいない為、刻んだだけのサラダに煮豆と素朴な朝食を食べながらカイルが皆に語った事は、誰もが予想していない事であった。


「だ、団長が拘束!? それに彼がスパイ?? ジョンウ将軍は報告書をちゃんとスパーンと読んだんですよね? 彼のおかげでナルちゃんやあの子が助かったっていうのに……もうっ、一体何の証拠があってスパイだなんて!」


 団長の拘束、彼のスパイ容疑。二つの大きな事柄を聞かされたクリミアが思わずカイルに詰め寄ったのも仕方がない。何故ならあの事件の詳細をまとめ、報告書を出したのは他の誰でも無いーークリミアだからだ。

 何処をどう読んだって、彼にスパイ容疑が掛かる要素など一つも書いてはいないと言う事は彼女が一番知っていた。


「……あのハゲ茶瓶……髪だけじゃなくて…頭の中にも……栄養が行かなくなったか……」


「落ち着けよクリミア、気持ちは分かるがーー結局は逃げちまったって事が証拠なんじゃねぇか? 後、ウルトはいい加減ジョンウ将軍をハゲ茶瓶って呼ぶなーー何処で誰が聞いてんのか分かんねーんだぞ……ったく」


 カイルは欠伸混じりに皿に残っている朝食の残りの緑豆をフォークで転がしている。彼とカイルの仲は良好だと思っていたクリミアにとって、カイルのこの淡白な反応は意外だった。


「逃げただなんて! ……きっと彼の事だから、また何処かでウッホウッホと運動をしてるだけでーーまさか、カイルさんは彼がスパイだなんて信じてないですよね?」

「…………敷地内の何処にも居なかったんだ、逃げたと見るのが妥当だろう? この事は既に各詰所に報告済みだ、今頃衛兵達が捜索を始めた頃だろうな」


「ーーッ!? え、衛兵に通報したんですか!?」


 信じられない物を見る様な目でカイルを見るクリミア。衛兵に通報したと言う事は、最早カイルが()()()()()と彼の失踪を内々で済ませる気が無いと言う事の現れである。


「いいか、お前らもこれ以上アイツに関わるなよ? 後の事は衛兵達に任せておけ。それより団長の事だがーー」

「カイルさん、どうして……」


 クリミアが知っているカイルは仲間に対してこれ程冷たい仕打ちをする者では無かった筈だ。

 カイルはクリミアの目線に気付きながらも其方を見る事は無く、淡々とした口調で諭す様に呟いた。


「ーー実はアイツが凄腕の魔法士で、俺達に魅了(チャーム)記憶改竄(メモリーハック)をしていた可能性はゼロじゃないーーと、上から言われてる……騎士団(第三)を動かさなかったのは、せめてもの情けだと思ってくれ」

「確かにあの魔力量は異常でしたからね……僕は彼がスパイだって事で寧ろ腑に落ちましたよ」

「ーーアレスは黙ってて! 彼がそんな事する訳無いってカイルさんだって分かってるくせにっ!」


 確かにアレスの言う通り彼の魔力量は異常とも言えるものだ。しかし、彼は未だ生活魔法ですら発動出来ずにいる。


 あれがーーあの全てが演技だったとはクリミアにはとても考えられなかった。


「おいおいクリミアちゃん、カイルだってアイツが他国のスパイって容疑が掛かったんなら副団長としてキッチリ対処しなきゃならねぇだろうよ。ましてや今はビエルが居ねぇんだから立場的によ」

「……ウービン……スパイって……それ本当に……信じてる?」


 まだ眠そうな目でだらし無くカウンターへ身を投げ出しているウルトが上目遣いでウービンに問い掛けた。


「あぁん? そりゃあ変なヤツではあったけど悪いヤツでは…………いや、だけどなぁ、こっちがどう思おうが上から通達があったんなら動くのは仕方ねぇじゃねぇかよ馬鹿」

「ウービンの方が馬鹿……もしスパイなら……きっと、

もっと優秀……」


「ほらほら皆んな! もっと良い方に考えましょうよ! 正式に入団する前に発覚して良かったー! とか」


 ギシついた雰囲気を変えようと、アレスは飲んでいた果実ソーダーを乾杯の音頭を取る様に持ち上げてみるが誰一人ついて来ない。それどころか行き場の所在が不明瞭だったヘイトが一気に自分に集まった気配を察し、アレスはそっとカップを下ろし俯いた。


「……炭酸が腹に溜まって……爆死すればいいのに……」

「ば、爆死!? ウ、ウルトさん……相変わらず僕の扱いだけ酷すぎません?」


 朝早く起こされた所為か、いつも以上に不機嫌なウルトはアレスのカップの中身を凍らせるという嫌がらせをした後、再びカウンターへと身を投げ出し目を瞑る。


「ーー兎も角だ、アイツを此処に(第三騎士団)連れて来た俺達にも責任の一端はあるってんで個別に事情聴取するって話だ。今日中に王都への召喚命令が来る筈だから各自準備だけはしといてくれーー」



いつも読んで頂きありがとうございます。

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