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156・郷に入っては郷に従え


 前の世界とは常識や価値観に多少の差異が存在する事は何となく分かっていた。

 隔離された騎士団での生活では其れ程感じなかったその違和感は、路上に転がる死体を見て誰一人騒がない貧民街に住み始めてから一気に大きくなった。


 貧富の差は激しく、弱者の命は酷く軽い。暴力と金、権力が蔓延る理不尽な世界。


 これだけ聞くとありきたりな創作物の設定で有り、特別驚愕のする程の事では無いーーだが、きっと俺は分かっているだけで本当の意味での理解はしていなかった。


 たった今、無抵抗な子供に向かって躊躇無く魔法を放つ衛兵を目の前してーー情け無い事だが、ボロボロだったルーナの姿と目の前の衛兵がやっと俺の頭の中で結び付いたのだ。

 

 考えてみれば、最初に俺が踏み潰した魔法だって威嚇にしては威力が高すぎた。足下を凍らせて足止めするなんて生優しいものではなく、足を千切り飛ばしてでも逃がさないーーそんな魔法だった。


(万引きした子供に向かって警官が銃をぶっ放すみたいなもんだろ? 全く、恐ろしい世界だ……)


 そりゃティズさんも心配するってなもんだ。貧民街にはヘルムみたいに回復魔法を使えるやつはそう居ない。獣人は割と生命力があるのでちょっとやそっとの怪我で死ぬ事はないらしいがーーこっちの世界、感染症とかどうなってんだろ?


 兎に角、子供を平気で傷付ける衛兵なんて話をするだけ無駄。どうせ「これは躾だ」とか言い出すに違いない。このままルーナちゃんを担いで一目散に逃げ出すって手もあるが、それだと捕まってるシェリー達が危ないか……。


(ーー待てよ? 暴力が蔓延る世界だったら、仮に俺が衛兵をぶっ飛ばしたって別に何て事は無いんじゃないか?)


 蔓延ってるのなら多少の怪我くらいじゃ()()()()()と、案外大事にはならないのでは?


「そうだな……『郷に入っては郷に従え』と言うし、少しお灸を据えてやるか」




 ーー男の顔付きを見て背筋が震えた。


 何処か困惑していた先程までの様子とは違い、完全に此方に敵意を持っているのが分かったからだ。


「あの男、まさか自分が攻撃されたと思ってるのか?」

「いや、口振りからはそうと思えない……子供がどうとか言ってたし」


 身を挺して少女を守る姿、そしてあの言動、初対面では無くやはり仲間だったのか? 普段なら二人纏めて捕縛してやるところ、面倒事を避け、わざわざ対象者だけに絞って狙ったのが裏目に出るとは……。


(くそッ、出来れば相手にしたく無かったが……)


 しかし、二度も捕獲の邪魔をされたとなれば我等とて見過ごす訳にはいかない。ここで強硬な態度を取らなければ「衛兵は力押しで行けばどうとでもなる」と他の貧民街の奴らが付け上がる原因になりかねないーー今だって何処かで奴らが見ているかもしれないのだ。


「おい、いけるか?」

「やるしかないんだろ……」


 逃げ場の無い狭い路地は囲んでしまえば捕物(とりもの)に格好な場所だ、追い詰めると大抵の獣人は上へと逃げ出す。いくら獣人の身体能力が優れているとはいえ平地を走るのとは勝手が違うーーヤツらは壁を登りきるまで速度が極端に落ちるうえに背中を見せる、そこをすかさず狙い撃つのだ。


 それが今は全く逆の気分だーー逃げ場を封じる狭い壁に恐怖を感じる。


(……まるで猛獣が入ってる檻に入れられた様な気分だ)


 男を正面に見据え、嫌がる足を無理やり前に出しジワジワと横方向へと進んで行く。いくら男の速度が速くとも同時に魔法を放てばどちらかが手薄になる筈だ。


「同時に攻撃する、合図を出すぞ」

「いや、ちょっと待てーー」


 遠くからガチャガチャと鎧を打ち鳴らす足音が聞こえてくる。使い回してサイズの合わない鎧は隙間が多く、走ると盛大に音が鳴るーーこの街の衛兵特有の足音だ。

 応援が到着した事で先程までの緊張感が一気に高揚感へと変わる。


「ふっ、応援が来た様だな。随分と腕に自信がある様だがこの人数差にはかなうまい」

「さっさと餓鬼を渡していれば良かったのにな!」

 

 応援を含め此方は五人、圧倒的有利な状況、不安から解放された事で思わず口調が弾む。

 しかし、男はそんな様子を見ても顔色一つ変えない、寧ろ口元に僅かな笑みを浮かべているではないか!


(ま、まさかーー勝てる自信が……あるのか?)


 男の腰が沈む、そして両手を地面に付けた。まるで猫科の猛獣が獲物に飛び掛かるかの様な格好ーー。


(魔法攻撃じゃない、強化系魔法!)


 獣人にありがちな攻撃、大方こちらが攻撃を放つ前に一気に飛び込んで来るつもりだろうーーだが、そのパターンは熟知している。

 獣人が身体強化を使った場合の殆どは、力まかせで乱暴な攻撃となる事が多い。その動きは素早く威力も高い、この距離で躱す事は困難だ。


 しかし、その攻撃は直線的で単純。


 自分達の目の前の地面一帯に氷結拘束(アイス・バインド)を罠の様に張り巡らせるだけで勝手に飛び込み自滅する。奴らは頭が悪いから学習ってものを知らないのだ。


「いつものパターンだ、例のやつでいくぞ!」

「ーー魔道具はどうする?」


 そうだ、男が持っているらしい何らかの魔道具。コイツの所為で攻撃がまた相殺されてしまう可能性がある。


「大丈夫だ、俺に考えがある!」



いつも有り難う御座います。


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