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154・衛兵



氷結拘束(アイス・バインド)をーー踏み潰したのか??」


 突然路地から現れた大男、その行動と得体の知れ無い結果はそれなりの経験を積んだ衛兵達に距離を取らせる理由としては十分過ぎるものだった。


「ーー何者だ?」

「見かけ無い顔だーー()()()()()()()()()()()()、警戒しろ」


 此方は二人で相手は一人で足手まとい(餓鬼)付き、状況的には有利だが迂闊に踏み込んではいけない予感があった。


 マントを脱いだ事により(あらわ)になった大きく屈強な身体、そこから伸びる太い手足、そして何よりあの雰囲気だ。惚けた顔をしているが明かに戦闘経験者だ、その辺のチンピラとは異なる空気を身に纏っている。勿論それは見かけ倒しではない事は先程の行動で証明済みだ。

 硬い石畳が砕ける程の震脚ーーいや、問題はそこではない、問題は男が発動済みの魔法を完全に踏み潰した事だ。


 今も男は何げ無く少女と会話をしている様に見えるが、その目は此方の一挙一動を確実に捉えている。


「あれは訓練されたヤツの目だ、貧民街のゴロツキというよりも……こちら側(衛兵)に近い気がする」

「まさか、同業(衛兵)って事は無いだろう? それにしてもさっきのは一体何だ? もしかして相殺したのか?」


 相対する魔力、この場合だと熱を持った炎系の魔力を同じ魔力量で()つける事で氷結拘束(アイス・バインド)を相殺する事は理論上可能だーーしかし、実際にやれと言われて直ぐに出来る様な物じゃ無い。


 放たれた魔法、それを凌駕する程の魔力で押し潰したのなら分かる。しかし、それならばその魔法が顕現している筈だ。男が魔法を踏み潰した時、炎が見えたり他の魔法が使われた形跡は見えなかった。

 

 ーーつまり、全く同じ魔力量で完璧に相殺したと言う事になる。


 魔法に込められた魔力量は人それぞれ、タイミンングによってもバラバラだ。それを一瞬で読み取り尚且つ同じ分量で放つなど最早玄人の域だ。


 我々衛兵程度ではとても真似出来ない、それこそ上位冒険者達や騎士団の団長、副団長クラス、こんな所でお目に掛かれるレベルでは無い。

 

「上位冒険者が来たって話は聞いてないよな?」


 偶に訪れる上位冒険者なら確かに可能かもしれないが、彼等は兎に角目立つーーだが街で噂になっている様子は無い。


「…………もしかしたら、例の魔道具かもしれん」


 共和国と帝国の戦争ーーそのきっかけとなった帝国が開発し続ける高度な魔道具達。魔力が少ない獣人でも我々と同じ程の魔法が使えると言うその魔道具のお陰で、今まで獣人達を虐げてきた者達は復讐されるのではと戦々恐々だ。


 その劣化版が我が国の闇市にも少しづつ流れて来ていると言う噂は聞いている。あの魔法を消すという不可解な現象、恐らく(くだん)の魔道具が関係しているに違いない。


「魔法を無効化する魔道具ーーそんな物があるのか?」

「分からんーーが、念の為に応援は呼んでおいた方が良いだろうな」


 男が持っている魔道具の効果がどの程度なのかが分からないが用心に越したことはない。それにさっきから俺の勘が言っているーーコイツはヤバいと……。


 先程から感じている威圧感(プレッシャー)、あの目や隙の無い身のこなし、俺達と同じ何らかの訓練を受けた者に違いない、それも相当な修羅場をくぐり抜けている。


 噂に聞く『先見の目』みたいな大した物では無いが、勘というのは意外と馬鹿になら無いものだ。


ーーパンッ


 空に目掛けて魔法を放つーー照明弾にも似たその魔法は、光魔法と火魔法を重ね掛けた物で光を放ちながら滞空する。

 複雑な場所での現在地を他者に知らせる事を目的に作られた魔法で衛兵なら誰もが会得しなくてはなら無い物の一つである。


 これで五分もすれば待機中の仲間達が駆け付ける筈だ。


(後は、それまで足留め出来るかどうかだな……)


 先程から観察してはいるが、どうも彼らの関係性がはっきりしない。


 カーポレギアは10代から20代の孤児達で結成された犯罪集団だ。主なメンバーは貧民街に住む獣人の子供達で、今回みたいな若いヤツらのやる事は精々ゴミ漁りやちょっとした盗みと喧嘩、まぁ大した事は無い。

 しかし、青年組ともなれば話も変わってくる。魔物素材の違法取引に劣化ポーションを高級品と偽っての販売詐欺、盗みや強盗も組織化されコソ泥の規模を外れる。恐らく盗賊ギルドとの繋がりがあるのだろうと俺は睨んでいる。


 その青年組が若いヤツを助けに入ったかとも思ったが、会話を聞くに初対面の様だ……。

 もしかしたら男はカーポレギア(孤児院)とは関係無いのかも知れないーーそれとなく貴族絡みだと伝えてみるか、大抵のやつは面倒事を嫌うからな。


「おい、そこの男……俺達が誰か分かってるんだろうな?」

「お前が庇っているそいつはまだ餓鬼だが貴族の財布を奪った立派な犯罪者だ。妨害した事には目を瞑ってやるからこれ以上関わるな!」


「う〜ん、そう言われてもなぁ」


 よし、男の反応は悪くないーーどうやら迷っている様子を見るにカーポレギアの一味では無さそうだ。


 心の中でホッと一息吐く、余計な仕事は御免だ。取り敢えず重要なのは男との戦闘ではなく、あの少女を逃がさない事ーーまだ肝心の財布の中身の行方を聞いていないからな。


(ラルードル夫人は財布よりも中身をえらく気にしていたからな)


 家に帰れば財布に入っていた何百倍の金があるだろうに……何故これ程小銭に執着するのか分からない。

 いや、そもそも貴族様の考えなど一般市民の俺達に分かる訳が無いのだ。


「ーーおい、餓鬼の足潰しておけ」

「あぁ、石弾丸(ストーンパレット)!」 


 俺達は何も考えず、言われた事をするだけだ。



 

読んで頂き、いつも有難う御座います。

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