141・決闘再開
「やってやるってーーヨ、ヨイチョ?」
「男だな、ヨイチョ! 応援するぜ、なぁ兄貴!」
「はぁ、怪我はしないで下さいよ。魔力が勿体ないですからね」
今までの僕は甘えていた。
状況に、環境に、そして仲間にーー。
(僕自身が強くならなきゃ、誰かを守る事なんて出来ないんだ!)
ギュスタンがニヤリと笑った。これから僕が一方的に痛めつけられるのを見るのが楽しみなんだろう。
僕は多分負ける、それでもーー
(タダじゃやられない! 意地でも一矢報いてやる!)
ポケットから最後の『魔力の丸薬』を取り出し口の中で噛み潰す。
渋い苦味に顔を僅かに顰め飲み込んだヨイチョーーこうする事で通常通り飲み込むよりも若干早く効果が出るのだ。
「チッ、妙なやる気を出したところで無様に拍車がかかるだけだと言う事が分からんのか?」
サイラスがゆっくりとヨイチョの前へと歩み寄る。
どうやら向こうの一番手はサイラスらしい……既にギュスタンが彼に敗戦して参加しないのは助かる。
(正直、誰が相手でも勝てるイメージは湧かないけど……)
サイラスとの距離は一般的な決闘の間合いとされている凡そ10m。ここから距離を詰めるか、それとも離れるかによって今後の展開が変わるーー重要な場面だ。
攻撃力の高い爆破魔法士のギュスタンに次ぐ実力派、重力魔法士のサイラスーー彼はヘルム並みの頭脳も持っているらしい、ボーッとしていては一瞬で負けかねない。
「ーー互いに準備は良いな? それでは始めるぞ」
初めての決闘ーーあまりの緊張感に唇は乾き、足がワナワナと震える。突然、頭の中が真っ白になり何をすれば良いかも分からなくなってきた。
(えっと、ま、まず、何をすればーー)
ーー開始の合図を待つ緊張が高まったその時
「ちょ、ちょっと待った!」
何を思ったか、彼が急に大声を上げた。
「ーーチッ、何なのだっ!」
集中力を高めていたサイラスは憤慨しジロリと彼を睨み付ける。
「ふんーー今更止めるつもりじゃあるまいな」
ギュスタンも怪訝な顔で彼を見た。
「いや、だってほら! 確かアイツも腕輪外してたじゃない? 殺し合いする訳じゃ無いんだし、反則じゃないかな〜って……」
「チッ、馬鹿力で引きちぎったお前と一緒にするな! 腕輪はあの後にちゃんと装備済みだ!」
袖を捲り腕輪を掲げるサイラスーー腕輪自体を破壊して外した彼とは違い、自分の腕を切り飛ばして腕輪を外したサイラスの腕にはしっかりと腕輪は嵌められていた。
「あ、あ、そう? なら良いんだけどーーちょっと気になっちゃってさ」
「全く、この俺の反則を疑うとは不敬なヤツだ……」
(「殺し合いをするわけじゃない」……そうだ、この決闘はさっきと違って誰の命も掛かって無いんだーー)
ゴメンゴメンと両手を合わせ苦笑いする彼を見て、ヨイチョはいつの間にか自分の緊張が解けている事に気付く。殺されも殺しもしなくて良い闘い、そう思うと先程までガチガチに張っていた肩の力がフッと抜けたのだ。
(考えろ、考えろ、何をすべきかを)
重力魔法や爆破魔法など効果範囲が広い魔法の使い手の場合、殆どが最初に距離を空けるーー自分が巻き込まれない様にする為だ。
(それなら僕はーー敢えて距離を詰めてやる!)
◇
「良いか? こっからはもう口出しは許さん。両者構えろーー」
ギュスタンの手が上に伸びる、あの手が下ろされたら決闘開始の合図だ。
緊張に喉が鳴るーーしかし、先程とは違って集中を高める緊張感だ。
(僕にやれる事を、全部出し切るっ!)
空に伸びた指先がゆっくりと落ちるーーと同時にギュスタンの声が響く。
「ーー始めっ!」
開始と同時にサイラスはその場で詠唱を始める、一方のヨイチョは駆け出すとその距離を詰めていった。
「照明ッ!」
未だ詠唱中のサイラスの目の前で眩い光が広がる。一般人が当たり前の様に使う生活魔法は、攻撃魔法と違い長々とした詠唱は必要無いのが利点だ。
光量の高いヨイチョの照明、日が昇り辺りが明るくなったとはいえ目を眩ませるのには充分な威力がある。
「チッ、煩わしいッ!」
サイラスはすぐさま右手を薙ぐと光源である照明を収納する。
照明と同じく生活魔法のカテゴリーにある収納魔法も又、長々とした詠唱は必要無い。
しかし、一瞬とはいえ照明を間近で浴びたサイラスの視力は直ぐには回復しないーーその隙にヨイチョは更に距離を詰める。
「うおぉぉ!」
再び視力が戻った時、既にヨイチョはサイラスへと切迫していた。
「掃除魔法!」
複数の小さな竜巻がサイラスを取り囲み土埃を巻き上げる。勿論、この魔法に人を吹き飛ばす程の威力は無い。
「また目眩しか! 無駄に足掻くな、この平民風情がっ!」
竜巻に大した力が無いと判断したサイラスは再び詠唱を再開する。
(俺との距離を縮めた事で重力魔法を封じたと思っているのだろうが、発動と共に背後へ飛べば良いだけの事!)
「やはり平民は平民、ギュスタンは何か思うところもあった様だが……所詮こんなものーー喰らえ重力二倍!」
ーードンッ!!
「グッ……うぅ……」
サイラスの魔法が発動、ヨイチョの身体に通常の二倍もの重力が襲い掛かる。その重量は約100kgもあろうかーーヨイチョの足は止まり、ガックリと両膝が地面に付いた。
ヨイチョは地面に押し潰されそうになるのをなんとか必死で四つん這いになり堪える。
しかしーー何故かヨイチョは、歯を食い縛り、顔を泥だらけの地面に擦り付けながらも笑っていた。
「や、やってくれたな平民……」
背後へと飛び、重力の支配下から逃げた筈のサイラスがーー何故かその場に仰向けで倒れていた。
いつも読んで頂きありがとうございます。