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140・冤家路窄(えんかろさく)


 落ち込む俺達の前に現れたのはギュスタン達だった。


「何だ、お前らも拠点目指してたのかよ、なぁ? てっきり諦めたのかと思ってたぜ」


 本当だ、とっくにリタイアしたものだと勝手に思っていたが……まぁ、まだ僅かだが攻略する時間は有るし、ギュスタン達ならエリア到達くらいは出来るかもしれない。


「チッ、馬鹿言うな、俺達はお前らの無様な様を見学に来ただけだ」


 えっ? 見学する為だけに二日かけて此処まで来たの!? 俺達の敗北は野外フェス並みのエンタメってか? 


「……悪趣味だな、貴族様ってのは」


 今更喧嘩を買う元気も無く、俺は力無く呟いた。


「ふん、その様子ーーどうやら上手くは行かなかったらしいな」

「あぁ、反則負けだって言われたぜ」


「ーー反則だと?」


 事の結末をギュスタンに教えてやると鼻で笑われた。お前、もしかしてこの事予測して賭けを出した訳じゃないよな……。


「何? ちょっと待て、じゃあ反則といえど拠点を落としたというのか?」

「ほぉ、相手はあのイリス分隊だろう? 凄いじゃないか平民のくせに!」


 アルバとミードは詳しく聞かせろとヨイチョを囲む様に座る。落ち込むヨイチョに「失敗談を語れ」とはなんて酷い仕打ちだ!案の定、ヨイチョは律儀に話し聞かせながら「やっぱり僕じゃ駄目だった……」と激落ちに拍車が掛かっている。


(やめたげて!? ヨイチョのライフはもうゼロよ!)


 俺はヨイチョに助けるべくギュスタンに拠点攻略を促す。


「お、おいギュスタン、本当にエリアに向かわなくて良いのか? 時間的にもうギリギリじゃないの?」


 あぁは言っていたが、エリアくらいは取りたいのが本音なんだろう?


 イリス達は既にオランとの話し合いを終え、エリア内で待機中だ。細かった丸太橋は、いつの間に丸太を増やしたのか、ガッシリとそれなりの幅の木橋に代わっていた。

 だからと言ってすんなりと橋を渡れるとは思えない。ギュスタン達が、あのイリスの『先見の目』をどう攻略するのかは正直気にはなるな。

 

「ふん、言った筈だ。拠点の攻略をするつもりは無い」

「……マジで俺達の無様さを見に来ただけかよ」


 何て嫌な野郎だ! ナルを助けに一緒に行った時はちょっと良いヤツかも? とか思ってたのに……。


「チッ、無様かどうかは貴様らの結果次第であろうが!」

「クックッ、その通り! 仮にお前達が拠点を取っていたならばーー俺達はお前達の見事な活躍を見に来たって事になるのだからな」


 脳にゴツンと衝撃を受けるーー確かにギュスタン達は結果が分かって来た訳では無い、俺が勝手に卑屈になっていただけだ。


「ーー結果は分かった、俺の勝ちだな。ふん、やはり平民は所詮平民という事か……」


 ぐうの音も出ねぇわーーしかし、少し残念そうに聞こえたのは俺の気の所為だろうか?


 このまま此処に居ても仕方あるまいと、ギュスタンは立ち上がる。正直、試験が終わる時間まで此処に居座られる程仲良しになった覚えは無いし、気まずいから助かる。


「僕が! 僕に! もっと力があれば! 次があるなら僕は絶対に!」

 

 ヨイチョの悲痛な叫びが瑠璃色の空に吸い込まれてゆく。ヨイチョは頑張っていたーー悪いのは腕輪を壊した俺だってのに……申し訳なさで胸が潰れそうだ。


「…………そう言えば」


 立ち上がったギュスタンは、俺を見下ろしながら言った。


「ーー忘れるところだった、お前達とはもう一つ決着を付けねばならない事があったな?」

「は? 何だって?」


 何言ってる? これ以上決着つける事なんてーー


「ふん、とぼけるなーー()()()()()がまだ付いてないだろうが」




「決……闘……」


 幾つもの大変な事態が重なってスッカリ忘れていたけど、確かにギュスタンと彼はーーいや、正確にはヘルムは決闘の途中だった。

 それにしたって、もはや互いに疲弊しきっているこの状況で一体どういう事だろう? ギュスタン達にはメリットが一切無いだろうに……。


「ーー決闘だって? 今更?」


 素っ頓狂な声を上げる彼にギュスタンは語調を強める。


「今更とは何事か! 反故にでもなると思ったのか? 貴族同士の決闘とはそんな軽いものでは無いッ! そうであろう? なぁフリード」

「えぇ、まぁ、そんなものでしたかね……」


(貴族にとっての決闘が面子を掛けた大事なものだとは知っていたけれど……彼も疲れてるだろうに、大変だ)


 これから始まるギュスタン分隊残り四人との決闘に駆り出される彼を心底気の毒に思う。


 そう、僕はまだ自分には関係の無い事だと思っていたんだーーギュスタンの次の言葉を聞くまでは。


「そうだなーーそこのお前! 先程『次が有るなら』と言っていたか? 良いだろう、決闘相手にはお前を指名してやる」

「ーーぼ、僕っ!? そんなっ、ヘルムっ?」


 急な指名に慌ててヘルムに助けを求める。

 僕だってさっきの照明(ライト)で魔力はかなり消費してるし、そもそも生活魔法しか使えない僕が決闘なんて出来る訳が無いじゃないかっ!?


 ところが、予想に反してヘルムの返答は素っ気ないものだった。


「やりたければやれば良いでしょう? 私は回復魔法士、残りは腕輪無しーーどの道、決闘出来るのは貴方しか居ないんですから」

「そ、それはーーそうかも、しれないけれど……」


 そうだった、もうウチの分隊で戦えるのは僕一人、でも…………ヘルムには悪いけど、僕には無理だよ。 


「まぁ、何も無理してやらなくとも構いませんよ?」

「ーーえ? そ、そう?」


 ーーこの数日の訓練で、僕の生活魔法も戦闘に活かせるのは良く分かった。けれど、それはあくまで補助的なものだ。直接攻撃する手段が無い僕に勝ち目は無いーー仕方無いんだ。


 ヘルムの言葉に心底ホッとしたヨイチョにギュスタンが軽蔑したかの様に声を掛ける。


「ふん、どうした? 先程の言葉ははったりか? そんなんだから自分の女一人も守れんのだ」

「良いんですよ、どうせ無理なんですから、貴方にはねーー」


 ギュスタンの言葉に顔が熱くなるのが分かる、ヘルムの言葉に拳が小刻みに震えるのが分かる! 

 

ーー恥ずかしい、僕はいつも逃げてばかりじゃないか!


(そうだ、こんなんだから僕は駄目なんだ!)


 常に訓練は諦め、弱い自分達が居るから上に行けるのだーーと、ルサンチマンから生まれたゆがんだ価値評価をして満足していた頃と何も変わらない。


「ーーや、やってやる!」


 魔力は残り少なく、攻撃魔法も使えない、しかも相手は上位ギュスタン分隊の四人。

 それでもヨイチョは無謀とも言えるこの決闘に臨む事を決めた。


ーーナルの為では無い、今の自分を変える為にーー。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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