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139・判定


 予想外のイリスの登場に「あちゃ〜」と、汗で濡れる広めの額をパシッと叩き天を仰いだオラン。


 一体どの辺りから話を聞いていたのか分からないが、恐らくパカレー兵との(くだり)は聞かれてしまった。

 尤も、相手は『先見の目』のイリスだ、とっくに未来視で分かってた可能性もあるのだけれど……。


 「構わない」と言いつつも、イリスの顔は心無しか険しく、興奮しているのか僅かに赤みが差しているーー当然だ、自分の仲間が不当な手段でやられた事を知ったのだから。


「イリスーー怒るのは分かるが少し待ってくれ、コイツらもワザとって訳じゃーー」


 不正(事情)を知ったイリスは慌てて止めるオランをスルリと華麗に躱しヘルムへと詰め寄った。


「ーー貴方があの作戦を?」


 イリスはヘルムをしっかりと見据える。その凛とした眼光は相手(ヘルム)の力量を測るかの様に鋭く光る。


「さて、どれの事を言っているかは分かりませんがーーうちの分隊の作戦は全て私が担っているのは否定しません」


 一方のヘルムはその瞳に臆する事なく見返しているーー凄い精神力だ。


 わざとでは無いにしても不正をしたと言う確かな事実があるが故、後ろめたさから秒で目を逸らしてしまいそうだが……流石貴族というところか。


(いやもしかしたらーーヘルムの事だから、ちっとも悪いとは思って無いのかもしれないけど)


 暫く二人の睨み合いは続いたが、意外な事に先に目を逸らしたのはイリスの方だった。


「…………そう、貴方がーー」


 僅かに口元に笑みを浮かべたイリスは顔を伏せがちに言った。


「あんな方法で私の『先見の目』を破るなんて思いもしなかった……貴方、凄いのね? 正直、名前も知らない貴方を舐めていた事を謝罪するわ」

「「ーーッ!? お嬢!!」」


 一体どういう心境なのか、イリスは何故かヘルムに謝罪したーーいつの間にか来ていたイリスの取巻き(分隊員)がそれを聞いて鬼の様な顔でヘルムを睨み始める。


「そうですか、貴方が私の名を知っているかなんてどうでも良い事ですが……まぁ、折角なので謝罪は受け入れましょう」


(この視線の中でそれを言えるのスゲェな……貴族だからとかじゃなくて、単純にヘルムが空気読めないヤツだからだな、これ……)


 あまりに酷いヘルムの台詞によって、取巻き達の圧が一段上がった。周囲に漏れ溢れる剣呑な雰囲気に、俺はいつでもヘルムを守れる様にと一歩前に出る。


 そんな雰囲気を知ってか知らずか、イリスは更に続ける。


「オラン試験官、確かに不正はあったようだけど故意では無さそうだし、直接の敗因は私の油断が原因だわ。彼等が言う様にエリアの侵入までは譲ってもいいと思うの」


 突然の提案にオランは困惑と安堵をごちゃごちゃに混ぜた様な表情でイリスに念を押す。


「えっ? いや、まぁ当事者である君がそう言うなら構わない、と言うか助かるが……本当に良いのか? 後から撤回は効かないけれどーー」

「えぇ、私の慢心を気付かせてくれたお礼に、ね?」

 

 こちらに向けウィンクするイリスーーちょっと恩着せがましく言ってはいるが、ぶっちゃけエリアポイントがジョルク分隊(うち)に入ろうがイリス達の分隊には何の影響も無いのは分かってるんだからな。


「だけど、ザービアを倒した時に魔法を使っていたかどうかは証明出来ないでしょ? そこの彼、何故か私が見る未来に出てこないし……何か阻害魔法を使ってたりしない? それも強力なやつ」


(阻害魔法って……俺の魔法無効(レジスト)もそうなるのか? でも腕輪してもしなくても効果は同じなんだがーーそれでもやっぱり駄目なんだよな……)


 俺にも一応「腕輪の効果が無い」と言う言い訳はあるのだが、今すぐ証明しろと言われても難しい。何せ衰退の腕輪は此処には無いのだ。(壊したから)


 ジッと俺を見る目が問い掛けるーー何かやったんでしょう? と……その心の中まで見通すかの様な浅葱色(あさぎいろ)の瞳に思わず一歩下がってしまった。


「うっーー」


「ふうん、やっぱりそうなのね?」 


 イリスはオランを見て頷くーーもし強力な魔力を使って相手の魔法を阻害しているのであれば、直接的な攻撃魔法では無くとも駄目でしょう? と。


「あぁ、確かにそうだな。それではこうしようーー衰退の腕輪をしていなかった者の行動によっての結果は無効とする!」





「なぁ…………つまり、それってどう言う事なんだ?」


 ジョルクはオランの言葉に首を傾げる。


「腕輪を装備していた者の功績は残すと言う事ですよ。つまり、拠点占拠は無効でエリア潜入ポイントは私の分だけが付くという事ですよ」

「あぁ、なるほどーー周りくどい言い方するなぁ、最初からそう言って欲しいぜ」


「えっ、それじゃあ、ポイントってーー」

「足りませんね、20ポイントほど」


「そ、そんな〜〜」


 ジョルク分隊過去最高の点数ではあるが、あとたったの20ポイントが足りない。そして、及第点に行かなくては此処まで来た意味が無い。


(あの時、俺じゃなくてヨイチョをエリアに向かわせていたら……)


 そんな考えが過ぎるが、ヨイチョは照明(ライト)を維持する為にその場に残らなければならなかったし、ヘルムを背負う事も出来ない。


「どのみち、駄目だったか……」


 辺りを照らしていた照明(ライト)が一斉に消えたーーヨイチョの精神力が落ちた所為だろう。


 ナルの為と普段温厚な彼が珍しく率先して拠点を目指した。しかし、努力は必ず報われるとは限らないのだ。


 皆、ガックリとその場に無言で座り込むーー何か色々と出し切った虚脱感がネットリと体に纏わり付く。


 ハゲとイリスはまだ何かを話合っているが、俺達には関係無い、俺達の訓練はーー終わったのだ……。


 気付けば照明(ライト)が無くとも辺りが見える程に時間が経過していた。いつの間にか雲は風に流され、地平線には一つ目の太陽が昇りつつある。

 菖蒲色(あやめいろ)の朝焼けが徹夜明けの目に沁みる。



「どうした、随分と貧相な顔をしているじゃないか」


 ふと、知ってる声が聞こえてきたーーある意味、今一番会いたくない奴等の声だ。


「クック、実際貧相なんだから仕方ないだろう?」


 意気消沈した俺達の前に現れたのはギュスタン分隊の面々だった。


 

いつも読んでいただきありがとうございます。

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