137・植物魔法【ボタニカル】
「ば、馬鹿なーーこんなの……渡るもんですか!」
馬面のハゲが魔法で作った丸太橋を前にヘルムが駄々をこねている。
(植物系魔法か、初めて見たが凄いな! 野菜なんかもこの成長速度なら、食糧問題とか一気に解決できるんだろうなーーハゲの癖にやるな!)
ヘルムは文句を言っているが、意外としっかりした丸太だ。少し潰れた楕円形をしており、歩きやすくなってるのもポイント高い。
「見た目より強度はあるから安心しろ、怖ければツタを握って進めーーあと、ハゲじゃないからな!」
「何だよ……アンタ、まさかの心の声が聞こえる系か?」
自称魔法士殺しの異名を持つこの俺の心を読めるとはーー油断ならないハゲだ。
「貴方、思いっきり『ハゲの癖にやるな!』って言ってましたけど?」
「何だ、口に出てたのかーーてっきりビエルさん以上の魔力持ちが出て来たのかと……良かった」
「俺の気分的はちっとも良くはねぇよ! 全くッ!」
ハゲはプンスカしながら土壁から顔を覗かせたイリス達に何かを手短に告げるとこちらを振り返りもせずにスタスタと丸太を渡って行った。
「おい、ヘルム。俺達も行くよ? また背負ってやろうか?」
「くっ、仕方ないですね」
ガンとして動かないつもりのヘルムだったが、イリス達の視線に耐えられ無くなったのか、渋々俺の背に掴まった。
「慎重に行きましょう、一歩一歩確実にーー」
「あぁ任せろって、最速で運んでやる!」
「や、やめなさいッ!」
◇
対岸ではヨイチョが何事かとハラハラしながら様子を伺っていた。暫く見ていると、土壁が解除され中からイリス分隊の面々が姿を現すのが見えたーーあれだけ騒がしくしていれば気になるのは仕方無い。
「ジョ、ジョルク! イリス達が……ヘルム達、大丈夫かな」
「なぁヨイチョ、もう決着は付いてるだろ? 俺達の勝ちだーーそれに試験官も居るし心配ないだろ?」
彼女達に試験官のオランは二言三言、短い説明をすると植物系魔法で架けた橋を渡り此方へと向かってくるーーその後をヘルムを背負った彼が続いた。
「ヘルムのやつ何で兄貴におぶさってんだ?」
「あはは………さ、さあ? どうしてかな?」
胴程の太さはある大木だが、橋とするにはかなり心細い。揺れやしなり、強度の安全面など不安要素がいっぱいである。
(作った本人は兎も角、良くあれをひょいひょい渡れるなぁ……)
落ちれば怪我では済まない高さ、浮遊系の魔法を使えるとしても怖いだろう。それを、ひと一人背負って渡っているのだーー並の度胸ではない。
(ヘルムが何で背負われてるか分かる気がする……それにしても、一体何があったんだろう)
そうこうしている間に、橋を渡り終えたオランが此方へとズンズンやってきた。
「お前達、後のアイツらと同じ分隊だな? 分隊長はどっちだ?」
「俺だ、俺が分隊長のジョルクだぜ!」
暫くじろじろとジョルクを眺めていたオランは溜息を吐くと頭を振った。
「はぁ〜、お前もか……」
「お前もか? 一体何の事だよ、なぁ?」
ジョルクの問いに答える事無く、オランはこちらへ集まる様身振り手振りで告げる。
橋を渡り終えたヘルム達も揃った事を確認するとオランはまず、僕等を称賛してこう言った。
「ジョルク分隊の諸君、まずは拠点占拠おめでとう。聞けば拠点に辿り着いたのすら今回初めてだとか、素晴らしい成長と結果だと思う!」
ドキンっと心が跳ねた、顔が熱くなるのが分かる。
(あぁ、こんな日が来るなんて! ナルも無理矢理にでも連れて来れば良かった……)
最下位と常に馬鹿にされていた僕等が拠点を取ったのだ! どうせなら皆んなでこの瞬間を迎えたかった。
沸き立つヨイチョの感情を他所に、何故かヘルム達は不満げな顔でオランを睨みつけている。
(何だろう? この変な空気感……)
不思議に思ったヨイチョだが、その答えは直ぐに分かった。
「しかし……残念だが、今回のジョルク分隊の拠点占拠は無効とする!」
「ーーえぇッ!? む、無効?」
「なぁ!?」
天国から一気に地獄へと突き落とすオランの言葉を理解出来ず、ジョルクとヨイチョの二人は暫し放心していた。
◇
ーー「不正の疑いがある」ーーこれが俺とヘルムが最初に試験官であるハゲから聞いた言葉だ。
光魔法士と俺との戦闘の際、俺の魔力が感知が出来なかった事にハゲが疑問を持った為である。他のメンバーも不正が無いか確認する必要があると言い張る為、こうしてわざわざエリア外まで戻って来たのだ。
疑いを晴らす為に大人しく付いてきたってのにーーその結果が『無効』だと?
「だ〜か〜ら〜、何で無効になるんだよ! あっ、分かった! あの娘が好みなんだろ、ロリコン! それとも、あっちの分隊にお偉い貴族の御子息でも居るのか? 忖度か? 忖度だろハゲっ!」
全くもって理解出来ない! だがこのまま「はい、そうですか」と黙って受け入れる訳にはいかない。
「ど、どっちも違うわ! いいか良く聞け! お前達が無効になったのは忖度でも俺がハゲだからでも無いッ!」
((あの人、自分でハゲだって言っちゃったよ……))
一斉に自分の頭に注目されたのが分かったのか、オランは慌てて小脇に抱えていた兜を被った。
「じ、じゃあ、何でーー」
「お前達が反則したからだよ!」
答えはシンプルだった、そしてそれは身に覚えの無い言い掛かりでもある。
「…………反…則?」
そもそもこの魔法がある中で反則って何だよ? 巨木が突然生えたり、光の矢が降ったりーー俺からしてみりゃ、魔法そのもの反則みたいなもんなんだが……いや、待てよーーまさか!
「ーーお、俺が裸だからかッ!?」
皆と同じ軽鎧を装備していない事が何かの規約に反しているのだとすれば辻褄は合う!
(今まで誰にも何も言われなかったから、肌の露出が重罪な国の可能性を考えて無かった!)
なんて事だ、折角拠点まで落としたのに俺の所為で……すまん、皆んな! 後でナルにも土下座しなきゃならない。
「えっ? いや、別にそれは構わないがーー」
ーーゆ、赦された! 裸族でも構わなかった! 俺の所為じゃ無いのならもっと強気にいこう。
「じゃあ、どの辺りが反則なんだよ? 俺の筋肉が反則的な程に格好良いところ意外に何があるってんだ? 言ってみろ!」
するとオランは肘を上げ、まるで腕時計でも見せ付けるかの様な格好で手首をポンポンと叩いた。
「尺側手根伸筋? マニアックだな、普通は上腕二頭筋だろう?」
変わった筋肉が好きなんだな? まぁこの「血管が浮き出る感じが堪らない」って人が居ない訳じゃないが……。
「し、しゃく? 違うッ! そうじゃない、腕輪だよ!」
(……腕輪? 腕輪が一体どうしたってんだ? 二個も嵌めてたって不利にはなっても有利にはならないだろうに……)
そこまでいって俺は気付いた、そういやパカレー兵と戦う前に腕輪は外したんだった!
「ーーあッ!?」
「お前は何故、衰退の腕輪を装備して無いんだ?」
オランの指摘にヘルムはその場で膝を落とし頭を抱えた。
「あぁ、私とした事が! 腕輪の事を失念していました……最悪だ」
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